2023年5月24日、ホンダは四輪モータースポーツ活動に関する記者会見を開いた。そのなかで2026年のF1にパワーユニットサプライヤーとして復活を果たすことを表明した。F1エンジンを供給するのは、今年2023年シーズンで好成績をおさめているAston Martin Aramco Cognizant Formula One Team(アストンマーティンF1チーム)だ。

カーボンニュートラル実現のための新レギュレーションが大きな要素

ホンダは2021年にF1から身を引いた。これまでF1に注いできた資金や人材を、次世代のカーボンニュートラル推進を図るための事業に移すことが理由だった。当時を振り返り、ホンダの取締役兼代表執行役社長の三部敏宏氏は「当時の決断は現在のホンダが進めるカーボンニュートラルの実現を大きく促進させた一方で、多くのホンダファンを悲しませてしまった」と語る。

今回再び参戦することを表明した背景には、2026年に予定されているF1レギュレーションの変更があった。それは、2030年のカーボンニュートラル実現を目標にしており、2026年以降は100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられるとともに、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターでまかなう形になるというもの。現行レギュレーションで最高出力における電動モーターの比率は20%弱にとどまっているが、新レギュレーションで電気エネルギーの比率が大幅に高められることとなる。

このレギュレーションの変更は、電動化を促進させ、カーボンニュートラルの実現を目指すホンダの方向性と合致するものだ。そしてその実現に向けた将来の技術開発に大きな影響を与えることが、F1復帰の背景となったという。

ホンダF1エンジンはアストンマーティンチームに供給される

2026年の新レギュレーションが施行されるF1に臨むために、ホンダはパワーユニットの供給先にアストンマーティン アラムコ コグニサント フォーミュラ ワン チームを選択した。

アストンマーティンのF1チームは、2023年のF1開幕戦後から2戦連続で表彰台を獲得する好成績をおさめている。アストンマーティン アラムコ コグニサント フォーミュラ ワン チーム会長のローレンス・ストロール氏は今回の記者会見で、現在のパワーユニットサプライヤーであるメルセデスに敬意を表すと共に、ホンダとHRCに対して歓迎の意を示した。

またアストンマーティン パフォーマンス テクノロジーズ グループCEOを務めるマーティン・ウィットマーシュ氏は「我々のF1における野心的な計画にとって、ホンダとのワークスパートナーシップはジグゾーパズルの最後のピースのひとつです」とコメントしている。そしてマーティン氏は、自身のキャリアで長い間ホンダと関わる機会に恵まれてきたこと、そして再び2026年からホンダと共に参戦することを大変嬉しいと語った。

今回のホンダのF1参戦は「エンジン供給」という形。そのためF1パワーユニットの開発とレース参戦・運営の指揮は、2022年からホンダのモータースポーツ活動の全てを担っているホンダレーシング(HRC)によって行われる。

「初戦から勝ちにいくつもりで臨みます」

ホンダの考えるF1参戦の意義は、技術と人を育てることだと三部社長は語った。

F1で勝利を収めるには、圧倒的な技術力とそれを生み出す人材が不可欠だ。再び参戦することは、それらを育てることに加えて、F1で培われた技術をやがてホンダの量産車へとフィードバックするということ。2026年以降の新レギュレーションの施行による参戦によって、ホンダが世の中にとってサステナブルな存在となり、電動化技術を促進させるプラットフォームになることを目標にしている。

2023年4月にホンダが開催したビジネスアップデートでは、これまであったブランドスローガンに「How we move you」を付け加えた。この「move」には移動する・モビリティという意味に加えて、人の心動かす・感動するという意味が込められている。

今回のF1参戦表明で三部社長は、2026年のF1参戦の初戦から勝ちにいくつもりだという意気込みを示し、さらに、ホンダの電動技術は世界に誇るものだと語っている。またHRCの代表取締役社長 渡辺康治氏によると、参戦までの3年間で、アストンマーティンチームへ供給するエンジン開発を進めていくという。

ホンダにとってF1という舞台はとてもよく似合う。そこに主役が復帰するのだから、これほど楽しみなことはないだろう。