映画やテレビドラマに撮影可能なロケ地の情報を提供し、案内、調整も行う組織「東京ロケーションボックス」は、映像作品を通して東京の魅力を国内外に発信しながら、ロケ地撮影で地域活性化を図ることを目的としている。その活動内容の紹介として、実際にサポートを受けた作品にフォーカスするこの企画。今回はコロナウイルス感染症の流行前に撮影が行われ、8月後半に公開される作品を中心に、バラエティに富んだ注目作4本をピックアップする。

■菅田将暉と小松菜奈が東京の街に溶け込み、道行く人と同化した『糸』

中島みゆきの名曲にインスパイアされた『糸』(公開中)。北海道で育った高橋漣(菅田将暉)と園田葵(小松菜奈)は13歳の時に出逢い、初めての恋を経験する。しかし、養父から虐待を受けていた葵は、暴力から逃れるため母と共に北海道を去り、漣とも離ればなれになってしまう。8年後、地元で働いていた漣は、友人の結婚式で東京を訪れた際に葵と再会。北海道で生きていくことを決意した漣と、世界中を飛び回って自分を試したい葵。その時にはすでに、ふたりは別々の道を歩んでいた…。

平成元年に生まれた男女が出逢いと別れを繰り返し、平成の終わりに再び出逢うまでの18年間という壮大な愛の物語が紡がれる本作。北海道から沖縄、シンガポール、東京と大がかりなロケも実施された。メインの舞台となるのは北海道で、最終便の運行が終わった函館空港に100人以上のエキストラが集められ、漣と葵の別れのシーンを撮影。この時、空港に実際に設置されている搭乗客と見送りに来た人がガラス越しに受話器で会話できる「もしもしコーナー」も使用された。このほか北海道では、母の死を知った葵が漣に思いをぶつける入舟漁港(函館漁港)、榮倉奈々演じる漣の恋人、香が“人の縁”について話す函館の病院、漣が働くチーズ工房として100年以上の歴史を持つ新田牧場に隣接したチーズ工房「NEEDS」も使用されている。

沖縄では今帰仁村にある青い海と真っ白な浜辺が美しい村民の浜で、斎藤工扮するファンドマネージャーの社長と葵とのシーンを撮影。シンガポールではマーライオンやシャングリ・ラ ホテルなどの観光地も確認することができる。そして東京ロケでは、施設管理者等と調整のもと、議事堂前歩道、都民広場、新宿中央公園などが使用された。撮影場所に菅田と小松が登場するため、物々しい警備態勢が敷かれるかと思いきや、そうでもなかったとか。二人は完全に街に同化し、道行く人たちも気づかなかったそうだ。

■記録的な猛暑の中でBBQシーンの撮影が行われた『青くて痛くて脆い』

デビュー作「君の膵臓をたべたい」がいきなり累計300万部を突破し、ベストセラー作家となった住野よるの小説が原作の『青くて痛くて脆い』(8月28日公開)。人付き合いが苦手な大学生の田端楓と、空気の読めない発言ばかりで周囲から浮いている秋好寿乃。ひとりぼっち同士の2人は惹かれ合い、秘密結社サークル「モアイ」を結成。ボランティアやフリースクールなどの慈善活動を通して、モアイは2人にとっての大切な場所になっていくが、突然、秋好が“この世界”からいなくなってしまう。彼女の存在なきあと、社会人とのコネづくりや企業への媚売りを目的とした“意識高い系”の就活サークルとなったモアイ。秋好が叶えたかった夢を取り戻すため、親友や後輩と手を組み、楓の“モアイ奪還計画”が始まる。

ロケ地として葛飾区にある都立水元公園のBBQ広場や売店、せせらぎ広場などが選ばれ、BBQや水質調査などサークル活動のシーンに使用されている。およそ120人のエキストラが集まり、まるでお祭りのような大規模BBQになった。さらに、撮影が行われたのは真夏の8月だったため記録的な猛暑に。前日に雨が降ったこともあって蒸し暑さは倍増し、まるで熱帯雨林にいるかのような過酷さだったようだ。

楓と秋好を演じるのはそれぞれ、『キングダム』(19)など話題作への出演が続く吉沢亮と、2020年度後期のNHK連続テレビ小説「おちょやん」でヒロインを務めることも決定している杉咲花。このほか、岡山天音に松本穂香、清水尋也、森七菜ら旬な若手俳優が勢ぞろいしている。

■謎の怪現象も頻発した『事故物件 恐い間取り』

『事故物件 恐い間取り』(8月28日公開)は、“事故物件住みます芸人”として現在も活動を続ける松原タニシの実体験に基づく著書を映画化した夏にぴったりなホラー。『リング』(98)などジャパニーズ・ホラーの旗手と言われる中田秀夫が監督を務め、KAT-TUNの亀梨和也が松原をモデルにした主人公の売れない芸人、山野ヤマメを演じる。

芸人の山野ヤマメはお笑いコンビ「ジョナサンズ」を組んでいたが、売れる気配は一向になく、結成10年目にして相方から解散を告げられる。そんな時、番組プロデューサーからテレビ番組への出演を条件に、「事故物件に住んでみろ」という無茶ぶりをされ、殺人事件が起きた部屋で暮らすことに。そこは一見普通の部屋に思えたが、初日の夜にいきなり怪奇現象の撮影に成功する。映像を放送した番組は話題となり、ヤマメ自身もブレイク。さらなる特ダネを求めて彼は、次から次へと事故物件への引っ越しを繰り返していく。

本作のおもな舞台は関西だが、東京でも都立東伏見公園などでロケを敢行。カメラを移動させながらの長回しのシーンでは、ヤマメとヒロインの梓(奈緒)のかけ合いがヒートアップする場面にもかかわらず、テイクを何度重ねても亀梨と奈緒の集中力は途切れなかったという。また、劇中に登場する事故物件は4軒で、しだいに“恐怖レベル”が上がっていく構成になっている。部屋内部の撮影は、普通のマンションやスタジオにセットを組み、和気あいあいとした雰囲気で行われた。しかし、原作者の松原が現場を訪れた日から、電気系統や移動車のエンジントラブル、モニターの不調など、怪現象が頻発したとか…。

■ミュージカルシーンで警察が駆けつけた?『脳天パラダイス』

『闇のカーニバル』(81)、『水の声を聞く』(14)など独創的な作品で知られる山本政志監督の5年ぶりの最新作となる『脳天パラダイス』(11月20日公開)。舞台は東京郊外の高台にある一軒の大豪邸。ある理由でこの家を手放さなくてはならなくなり、家長の笹谷修次(いとうせいこう)は、やさぐれた表情で箱詰めされた荷物が並ぶ部屋を眺めていた。長女あかね(小川未祐)はそんな不甲斐ない父に腹を立て、Twitterで「パーティをしましょう。誰でも来てください」と地図付きでツイートしてしまう。すると、自由奔放な修次の元妻、昭子(南果歩)をはじめ、インド人のゲイカップルや謎のホームレス老人など、招かれざる客が次々と一家を訪問。縁日のようなどんちゃん騒ぎに発展し、奇々怪々の狂喜乱舞へと陥っていく。

撮影はおもに、東京都青梅市の高台にある大邸宅を貸し切り、近隣住民への厳重な配慮のもとで行われた。そんななか、キャストやスタッフのテンションが最高潮に達したのが、圧巻のミュージカルシーン。サザンオールスターズや乃木坂46などの振り付けを担当した南流石のダンス演出と、ロックバンドJAGATARAのOtoが提供した楽曲により、このシーンは映画の撮影を超えた一大イベントの様相に。あまりのことに警察も駆けつけたほどの盛り上がりだったようだ。

“理屈抜きにぶっ飛んだ映画を撮ろう”という執念でスタートした本作は、いとうや南に加え、柄本明に玄理、村上淳、古田新太ら名優がズラリと脇を固める豪華な布陣となった。その一方で、素人や新人の大胆起用にも定評のある山本監督。不思議なインド人マハディー役のニールは、映画館でたまたま山本監督の目に留まりスカウトされたという。ほかにもいい加減な運送業者、怪しいジャンキーの2人組、恋人を追うイラン人、台湾からの観光客親子、町内の子どもたちなどなど、キャストオーディジョンには相当力を入れたそうだ。

なかなか知られることはないが、映画にはロケにまつわる様々なエピソードや珍事件がある。今回紹介したエピソードを頭に入れながら作品を鑑賞すれば、映画のおもしろさも倍増するかも!?

文/トライワークス