今週9月11日(金)より公開となる『窮鼠はチーズの夢を見る』。7月より公開された映画『劇場』でも話題を集めた行定勲監督に、コロナ禍における映画のあり方から最新作『窮鼠〜』に込めた想いまでインタビューした。

映画『劇場』では、映画館での公開と同時にAmazonプライム・ビデオで配信という、これまでの映画界ではなかった作品の発表形式をとったことを、行定監督はどう考えていたのか。「コロナ禍における緊急措置として、劇場公開と同時に配信という方法をとりました。いま日本でも、ストリーミングで作品を発表することができるようになりましたが、僕の中に『映画業界に風穴を開けてやろう』というような考えがあったのかというと、むしろ、まったくありませんでした。いっぽうで、『劇場』という作品を観客にきちんと届けることを考えるのは僕の仕事。『劇場』という作品と向き合い、埋もれてしまわないように、という思いで、ああいった形での公開なりました。仮に、『映画業界に風穴を開けた』と思われる方がいらっしゃったとしても、僕としては『劇場』という作品に向き合った結果でしかなく、そこの思いは誤解されたくないですね」

劇場公開だけではわからなかった反応もあったと言う。「公開してすぐに、すごい口コミの数だとプロデューサーから連絡がありました。ストリーミングで観られた方からは、『うちの近くの劇場で公開してもらえるよう、働きかけてもらえませんか』と言われたこともあります。『映画館で映画を観るという行為が、どれだけすばらしいか』ということを改めて観客の皆さんにもわかってもらえたはずです」

7月末には、アメリカのユニバーサル・ピクチャーズと映画館チェーンAMCが、劇場公開から17日後にストリーミング配信を始めるという契約を結んだと報道された。「劇場公開から間を置かず、ストリーミングをそんなに早く開始してしまっては観客が劇場に来ないんじゃないか、という考えは理解できます。ただ、そういう時代が来ている。この“17日間”で映画としての箔をつけなくてはならないわけで、それはすなわち、『いい映画を劇場で観たい』と観客に思ってもらう必要があるということですよね」

行定監督は、“映画館で映画を観る”という行為がもつ意味についても、次のように考えている。「アトラクションやライブと同じように、『映画を観る』ために映画館へ行くということになっていくんだと思っています。ストリーミングで観たけれど、やはり“劇場で観たい”という根源的な欲求があるんだ、ということが映画『劇場』を通じて実感できました。『映画館でかかる映画は選りすぐりの作品なんだ』と、観客の皆さんが意識してくれるかどうか。そういう意味で、『窮鼠はチーズの夢を見る』を観るために劇場に行きたい、と思ってもらえるといいですね」


『窮鼠〜』は、女性に流されやすいエリートサラリーマンの恭一(大倉忠義)と、彼の妻から依頼された浮気調査をきっかけに恭一と接近する今ヶ瀬(成田凌)の関係を描いた、苦くてせつない恋愛映画だ。「『窮鼠〜』の原作は“社会”を描いているのではなくて“個人”を描いていること。社会の感情がどこにも介在しないんですよ。LGBTQをテーマにした作品は世界の映画祭でよく観るんですが、どうしてもマイノリティの息苦しさのようなものが作品に介在していないと、いまの社会問題に直面している映画じゃないというふうにみなされるんですよね。その考え方はよくわかるんですが、脚本家から『窮鼠〜』は『行定勲が撮ってきた恋愛映画の延長線上にあるべきだ』と言われたように、いま、男性同士の恋愛を描くことを白い目で見る人がマイノリティで、もはや時代が変わっていると思っています」


“行定勲が撮ってきた恋愛映画”の延長線にあり、最新形。そこにはやはり挑戦があった。「この映画はマジョリティである、いわゆるノンケの男(恭一)が、マイノリティ(今ヶ瀬)の気持ちを受け入れる物語で、そこにある“愛”を浮き彫りにしたかった。そう考えた時に、社会が2人に対して意見を言う必要がないんです。むしろ主人公の恭一を巡って対立する女と男がいて、マジョリティの男が自分の恋愛相手として女よりも男を選ぶということをきちんと描けるかが、この作品の勝負でした」

日本における恋愛の定義。そこにも行定監督は言及する。「大人の世界でこれほどに恋情の移り変わりを丁寧に描く映画は、あまりないんじゃないかと。ふたりの間にはいろいろなことが自然に起きて、その出来事すべてが、きっかけとなって次につながっていく。そして、次につながった瞬間に、さらにボルテージが上がっていく。ただ、これを“男女”の関係で描くと凡庸で、観る側にも忍耐が必要になるんです。すでに自分たちが知っている・わかっている恋愛のプロセスを見せられるわけですから。だからラブストーリーは軽視されるんです。そして、この『窮鼠〜』を通じて、“恋愛後進国”である日本に、同性同士の恋愛は“ふつうのこと”なんだよと、きちんと言いたい」

恭一と今ヶ瀬の“ふつう”の恋愛を、映画館で観る――行定監督の想いが詰まったこの一本を、真正面から堪能してほしい。

取材・文/編集部