『インデペンデンス・デイ』(96)、『2012』(09)などのヒット作で知られるローランド・エメリッヒ監督が、第二次世界大戦において日本の運命を決したミッドウェイ海戦を描く骨太な戦争映画『ミッドウェイ』(公開中)。20年に及ぶ徹底的なリサーチを経て、渾身の一作を放ったエメリッヒ監督を直撃し、本作に懸けた想いを聞いた。

1942年、ハワイ諸島北西のミッドウェイ島に、巨大な航空母艦や、“大和”を含む戦艦、戦闘機、急降下爆撃機、潜水艦などが出動し、日米軍が激闘を繰り広げた。戦地で国のために命を懸けて戦う兵士たちの激戦と、司令官たちの緊迫した頭脳戦に加え、その背景に家族愛のドラマも入れ込んだ本作は、観終わったあとに、戦争の痛ましさと無念さを浮き彫りにする。

ミッドウェイ海戦についてエメリッヒ監督は「きっかけは、日本軍による真珠湾の奇襲攻撃だった。そこからつながるミッドウェイ海戦は、情報戦が重要なカギを握ることになる。アメリカ側が、運よく日本側の暗号を解読できたことでアドバンテージを取り、今度は逆に日本軍に奇襲をかけることができたという点が大きかった。ネコとネズミのように、追いつ追われつで戦ったわけだが、要するに、誰がなにをどこまで知っていたかで、勝敗が決まった戦争だった」と捉えている。

■「戦闘だけではなく、訓練自体が危険なものだと示したかった」
エメリッヒ監督と言えば、メル・ギブソンを主演に迎え、アメリカ独立戦争を描いた『パトリオット』(00)も手掛けているが「すべての戦争に共通している要素は、若者たちが徴兵され、死に直面しなければいけないことだ」という。

「第二次世界大戦の場合だと、アメリカは、自由を守る最後の砦みたいなところがあり、若きアメリカ人の兵士たちは、民主主義を守ったというような意味合いがあったのではないかと僕は思う。いまの時代も、国粋主義が世界中のあちこちで見られるようになっている。だからこそ、いまこの戦いを描くべきだと思った。彼らがいなかったら、世界中がファシズムに脅かされていたかもしれなかったからです」。そう語るエメリッヒ監督が、ドイツ出身である点も感慨深い。

また、本作で印象的だった点は、わかりやすい兵士の“戦死”だけではなく、訓練中に起こる不慮の事故死や、民間人の死など、様々な死のありようが散りばめられている点だが、いずれも事実に基づいたものだと言う。

「真珠湾攻撃があったからこそ、アメリカは急遽、第二次世界大戦に参戦することになった。つまり、前もって準備ができていたわけではなく、若い兵士たちを急遽、訓練しなければならない状況に置かれたわけです。当然、彼らには経験値がないから、事故も起こしてしまう。例えば、空母から飛行機の離着陸をさせることが、いかに難しくて危険なことだったのかは、映画を観てもらえば一目瞭然だ。戦闘だけではなく、訓練自体が危険なものだというところを見せたかった」

本作は、日米両軍の人間ドラマを丁寧に描いていく群像劇だが、メインキャラクターとなるのが、『トランスポーター イグニション』(15)のエド・スクレインが演じる、パイロット、ディック・ベスト大尉で、もちろん実在の人物である。

「登場人物がたくさん出てくるので、誰を主軸のキャラクターにするかをみんなで話し合った結果、ディック・ベストに決めたんです。妻と小さな娘がいるというバックグラウンドに加え、パイロットとしての腕は非常に立つけど、向こう見ずなところがあった。でも、戦闘を重ねるなかで責任感を学んでいき、最終的にはみんなを率いるリーダーになっていくという道のりに惹かれたんだ」

ディックは、やがて体調を崩すが「僕は会ったことがないんだけど、自分のおじさんが戦争中、ディックと同じようにパイロットをしていた。おじさんも体を壊し、戦後、亡くなってしまった。個人的には、そこに縁を感じたよ」。

■「豊川悦司らと仕事ができたことは大きな喜びだった」

特筆すべき点は、日本からも実力派俳優陣が参加している点だ。豊川悦司が山本五十六海軍大将役、浅野忠信が山口多聞少将役、國村隼が南雲忠一中将役と、いずれも実在の将校に扮している。

「3人と仕事ができたことは僕にとって大きな喜びだった」と笑顔を見せる監督。
「キャスティングのやりとりはスカイプでおこなったが、3人とも出演してほしい俳優リストのトップに名前が挙がっていた方々だったので、決まった時は信じられない気持ちだった。通訳を入れてのやりとりは、とてもおもしろい経験になったが、そこで学んだのは演技は国境を超えるということだったんです」。

3人とは、脚本段階から、意見交換ができたそうだ。「特に豊川さんは、山本五十六役について、こうしたいという意見を出してくれました。僕は常に、映画作りはコラボレーションだと思っているので、役者それぞれのキャラクターに関する洞察を、ちゃんと聞くようにしています。今回も非常にいい形でコラボレーションができたと思う」。

また、劇中で、戦火においてドキュメンタリーを撮ろうとするジョン・フォード監督が描かれているが、これも実話をベースにしたエピソードだ。戦地で撮影された『ミッドウェイ海戦(原題:The Battle of Midway)』(42)や『真珠湾攻撃(原題:December 7th:The Movie)』(43)は、2本ともアカデミー短編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。

「日本軍が攻撃した時、ジョン・フォード監督は、実際に撮影でミッドウェイにいたそうだ。彼は本当に怖い物知らずで、劇中と同じようにケガも負ったそうなので、そういうシーンを入れたいと思った。当時アメリカの監督たちは、自国の人々に本物の戦争がどんなものかを見せるためにドキュメンタリーを撮っていたんだ」。

そういう意味で言えば、エメリッヒ監督も、アプローチは違えど、真珠湾攻撃やミッドウェイ海戦がどういうものだったのかを、現代に生きる我々に見せてくれたわけで、本作が世界中で劇場公開されることは、大いに意義深いと感じている。言わずもがなスペクタクル作品を得意とするエメリッヒ監督作だから、大スクリーンに見合う娯楽作になっているのだが、お互いの立場による不理解、不寛容が問題となったコロナ禍の最中に観てみると、一層、強いメッセージを感じ取れるのではないだろうか。

取材・文/山崎伸子