「インデペンデンス・デイ」シリーズや『GODZILLA』(98)などのエンタメ大作を数多く手がけ、“ハリウッドの破壊王”とも呼ばれるローランド・エメリッヒ。そんな彼の最新作『ミッドウェイ』(公開中)では、第二次世界大戦で日本軍とアメリカ軍が戦った“ミッドウェイ海戦”を描いており、少し意外に感じた人もいるかもしれない。しかし、エメリッヒはそのキャリアを通じて、様々なジャンルの歴史的な出来事を扱った作品も発表してきている。

■正反対の評価を得た『パトリオット』と『紀元前1万年』
エメリッヒが初めて手掛けた歴史作品と言えるのが、アメリカ独立戦争を扱った『パトリオット』(00)。『プライベート・ライアン』(98)などで知られるロバート・ロダットが脚本を務めており、そのシナリオを読んですぐに挑戦を決意したという。メル・ギブソン演じる“フレンチ・インディアン戦争”の英雄だった男が、家族との関係に苦悩しながら、イギリス帝国との戦争に身を投じていく物語で、エメリッヒらしいスケールの大きさを感じさせる演出や映像美、家族を守るために戦う主人公の心揺さぶるドラマが高い評価を獲得した。

その後、地球温暖化による氷河期の到来を描いた『デイ・アフター・トゥモロー』(04)を経て、先史時代を舞台にした『紀元前1万年』(08)を監督。マンモスやサーベルタイガーといった古代生物を蘇らせた鮮明なVFXはさすがの一言だが、ピラミッドも登場させるなど(マンモスを使って建造するシーンも…)、本作に限ったことではないが歴史公証のイマイチ感は否めない。とはいえ、「描きたいものを描いてなにが悪い!」というエメリッヒの心意気は感じられる。ちなみに、次作『2012』(09)では、マヤ文明における“世界の終焉”の予言を基にするなど、このころのエメリッヒは古代文明に興味があったのかもしれない。

■歴史ミステリーや社会的なテーマにも挑んだ作品たち
SFやアクションの分野で力を発揮してきたエメリッヒだが、『もうひとりのシェイクスピア』(11)では歴史ミステリーという新境地に挑んでいる。ウィリアム・シェイクスピアの作品は別人が執筆していたという“シェイクスピア別人説”をベースに、その正体の有力候補とされるオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアを主人公として展開される。16世紀末のロンドンを舞台に、宮廷争いや王位継承権問題、エドワードとエリザベス女王との関係などが絡む重厚感ある物語となっている。現代の劇場で芝居が行われるという形でスタートし、幕引きという形でラストを迎える演出もニクい。

ゲイであることを公表し、LGBTコミュニティへの支援も行うエメリッヒが、1969年にニューヨークで実際に起こったゲイ解放運動を促した「ストーンウォールの反乱」を映画にした『ストーンウォール』(15)。法律で存在することを否定され、行き場のなかったゲイの若者たちの苦悩や恋、自由を求めるパワーを、田舎からやってきたピュアな青年の成長とともに描いていく。力強く生きる登場人物たちのきらめき、反戦運動や公民権運動の高まりを見せる当時のアメリカの空気感を表現したが、架空の人物を主人公にしたことや事件にかかわった重要人物たちの描写が省略されていることについて、多くの批判も寄せられてしまう。

■ディティールにこだわった!日米両軍の視点で描くミッドウェイ海戦
このように古代〜中世、現代まで様々な時代を映像化してきたエメリッヒが、20年におよぶリサーチを行い、かねてより映画にしたいと願い続けてきたのが『ミッドウェイ』だ。1941年12月の日本軍による真珠湾(パールハーバー)攻撃に始まり、歴史を左右するターニングポイントとなった6月のミッドウェイ海戦までの半年間を、日米両軍の視点を交互に映しながら、丁寧に描写している。

劇中に登場する軍艦や戦闘機、武器を再現するに際して、海軍の記録保管所や国立文書館、博物館などに保存されている構造図や画像を徹底的に収集。ロケ地に実物そっくりなセットが造られたほか、対空砲や機関銃は設計図をもとに正確な寸法と形に従うなど、そのディティールはとにかく細かい。工業的なトーンが印象的なアメリカに対して、日本軍サイドでは軍艦の色彩が豊かで、その多くが第一次世界大戦期に造られたものであることから木材を多用し、ブリッジには家具が置かれている。日本の芸術や文化へのリサーチをもとに、美しい装飾などが表現されている。迫力ある戦闘シーンに目を奪われる一方で、セットや美術へのこだわりの高さも感じることができるのだ。

作品によってはオリジナリティあふれる設定を盛り込んでしまうエメリッヒだが、『ミッドウェイ』ではより史実と向き合っている。

ちなみにエメリッヒ監督の待機作はというと、謎の力によって、惑星の軌道から外れた月が地球に衝突する…!?という危機に立ち向かう寄せ集めチームを描いた『Moonfall』が待機中。ハル・ベリーやスタンリー・トゥッチらの出演が発表されており、こちらではまた、思い切った”壊し屋”っぷりが楽しめそう。

文/トライワークス