ベストセラー作家、雫井脩介の小説を堤幸彦監督が映画化した『望み』(10月9日公開)。殺人容疑をかけられた息子を巡って揺れ動く家族の思いや葛藤を描き、マスコミや集団意識の暴走など現代社会が抱える問題にも切り込んだ骨太な作品だ。そんな本作への理解をより深めるため、過去に映画化された雫井作品を振り返り、『望み』にも通じる“家族×サスペンス”映画をピックアップしてみたい。

■『犯人に告ぐ』、『検察側の罪人』など映像化された雫井脩介作品たち
2度も映像化された「火の粉」など、テレビドラマになった作品も多い雫井作品だが、今回は映画化されたものにフォーカス。1999年に“内流悠人”名義で応募した「栄光一途」が第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞するなど、ミステリーのイメージが強い雫井にとって、恋愛小説や家族の物語など作風が広がるきっかけになったのが「クローズド・ノート」だ。2007年に行定勲監督によって映画化され、引っ越し先に残された日記を見つけた女子大生の主人公が、そこに綴られた持ち主である教師の仕事や恋への悩みに刺激を受け、自身もバイト先の青年画家への思いを募らせていく。2人の女性それぞれの日常や恋がシンクロするかのように進行するというちょっと風変わりなラブストーリーになっている。

同年には、豊川悦司が主演を務め、「犯人に告ぐ」シリーズも映画化されている。その内容は、川崎市で発生した連続児童殺害事件の捜査に難航した警察が、捜査責任者をテレビ出演させ、カメラの前で犯人に呼びかける“劇場型捜査”を敢行するという刺激的なもの。捜査を巡るスリリングな展開や伏線の回収などエンタメ要素もありながら、警察やマスコミなど組織内部にある人間の悪賢さも映しだされている。

木村拓哉と二宮和也による、文字通りの“競演”が印象的だった『検察側の罪人』(18)も記憶に新しい。ある老夫婦殺人事件が発生し、自らの正義を貫く敏腕検事(木村)が一人の容疑者を執拗に追及するが、その強引なやり方に若手検事(二宮)が疑問を抱くドラマが展開。それぞれの信念を持った二人の検事が、ヒリヒリするようなせめぎ合いを繰り広げ、その模様を体現した木村と二宮の演技も圧巻だった。

■失踪した息子への家族の様々な思いが交錯する『望み』
『望み』もまた、これらの作品に引けを取らないサスペンスフルな内容となっている。物語の中心となるのは、建築家として成功した石川一登(堤真一)、彼の妻である貴代美(石田ゆり子)、ふたりの息子の規士(岡田健史)と娘の雅(清原果耶)で構成される石川家。一登が設計したハイセンスな一軒家に暮らし、一見幸せそうに見える家族だが、高校生の規士がケガでサッカーを辞めて目標を失ったことから、一家の生活に変化が。両親に斜に構えた態度を取り、夜に出歩くようになった矢先、無断外泊のまま規士が失踪。そして、その日に彼の同級生が遺体として発見される。規士がなんらかの形で事件に関与しているとして警察が捜査を進めるなか、残された家族の様々な思いが交錯していく。

■知られざる家族の真の姿に、残された家族が翻弄されていく

最も近い存在ながら、すべてを明かしてはおらず、互いに理解できているとは言い難い”家族”。そんな複雑でややこしい関係性をテーマにした作品は枚挙にいとまない。本作では、事件の渦中にいる息子について、警察やマスコミ、彼の同級生たちから、憶測も含めて様々な一面が家族の耳に入り、知られざる姿に気づかされいく。

中島哲也監督の『渇き。』 (14)では、役所広司演じる元刑事のダメな父親が、本作で女優デビューを果たした小松菜奈扮する失踪した娘の行方を捜すことに。彼女の交友関係を調べるうちに、成績優秀な優等生だと思っていた娘の裏の顔が次々と明らかになり、父親は翻弄されてしまう。

このほかでは、妻が行方不明になったことで、完璧に思えた夫婦の破綻した日常が浮き彫りになるデビッド・フィンチャー監督作『ゴーン・ガール』(14)、姿を消した娘のSNSに父親が触れることでその秘めた思いや悩みを知ることになる、全編がPC画面上で展開される意欲作『search/サーチ』(18)も印象的だ。

■家族の“在り方”や“絆”を問いかける作品たち

『望み』の肝になるのは、加害者か被害者かわからない息子に対する、家族それぞれの立ち位置。父親は妻や娘を守りたいという立場から、それが愛する息子の”死”を意味することであっても無実を願ってしまう。一方、母親は殺人犯でもいいから無事でいてほしいと祈り、社会的地位を失うことも受け入れる覚悟をする。有名高校への受験を控える娘は、加害者家族に待ち受ける未来に怯えている。究極の選択を迫られ、家族の在り方や絆が問われていく。

殺人事件の容疑者となった息子の無実を証明するため、母が真犯人捜しに奔走するポン・ジュノ監督の『母なる証明』(09)。形は違うが、どんなことをしても息子を救いたいという、母の強い執念が強烈な爪痕を残す作品だ。

家族の在り方、絆を問うという意味では、是枝裕和監督の『万引き家族』(19)も大きな話題を集めた。父親の愛人である女性に誘拐され、育てられた過去を持つヒロインの複雑な思いを描く『八日目の蝉』(11)とともに、“血のつながり”だけが家族の証明なのか、“母性”はどこに宿るのかなど、深く考えさせられる作品となっている。

■現代社会に一石を投じる高いメッセージ性

『万引き家族』は育児放棄や虐待、貧困、行き届かない社会保障など日本社会が抱える問題も映しだされていたが、家族の物語を通して、現代社会に警鐘を鳴らす作品のインパクトは大きい。『万引き家族』に続いてカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞し、米アカデミー賞で作品賞など4冠にも輝いた『パラサイト 半地下の家族』(19)では、半地下の部屋に暮らす貧困家族と、豪邸に住む裕福な家族の比較がなされており、格差社会や失業問題などへの問題提起のメッセージを受け取ることができる。

『望み』では、石川家に対する周囲の反応を通して、加害者(の可能性がある)家族に対する残酷な仕打ちに目を覆いたくなる。連日のように家の前に押しかけるマスコミの集団、外壁への落書きや誹謗中傷はもちろん、一登は決まっていた建築の仕事が白紙になり、娘の雅も塾のクラスメイトに加害者家族は志望校には受からないと言われてしまう。遺族のことを考えると非常にデリケートな問題だが、だからといってなにをしてもいいのかと、心にもやもやとしたしこりを残していく。

観る者に多くの“気づき”を提供し、おそらく様々な議論を巻き起こすに違いない『望み』。ここで紹介した作品もあわせて鑑賞し、家族をテーマにした物語の“深み”にはまってほしい。

文/トライワークス