10月31日(土)〜11月9日(月)にかけて、東京の六本木エリアほかで開催される第33回東京国際映画祭。国境を越えた移動が制限されている状況を踏まえ、国際交流基金アジアセンターとの共催により、『万引き家族』(18)などの是枝裕和監督が発案し、検討会議メンバーと共に企画したオンライン形式のトークシリーズ「アジア交流ラウンジ」が、その歴史で初めて実施される。11月1日(日)〜8日(日)の8日間、現在のアジア映画界を牽引する才能たちが多様なテーマについて語り合うこのイベントから、まずはその前半(11月1日〜4日)に登場するゲストたちの紹介や、ここでしか見られない豪華対談の見どころを紹介したい。

■繊細な表現力を持ったフレッシュな才能!キム・ボラ × 橋本愛
初回となる1日に登場するのは、日本でも6月に公開されロングランヒットを記録している『はちどり』(18)のキム・ボラ。キム監督の長編デビュー作となった本作は、韓国の大学やアメリカの大学院で映画を専攻するも、実際に撮るチャンスに恵まれてこなかった彼女が、大学講師をしていた2013年から温めてきたシナリオを映像化したもの。「最も無視されやすく、語られない年ごろの話をしたかった」と監督が語る通り、多感な14歳女子中学生の物語が展開される。

1990年代の韓国・ソウルを舞台に、自分に無関心な大人たちに対する孤独感に苛まれる少女の姿を通して、誰もが経験のある思春期特有の揺れる心の動きを表現。一方で、女性であることを理由に我慢を強いられてしまう男性優位の社会、学歴偏重の風潮が色濃く残る韓国社会の現実もあぶり出している。国内外で50以上の賞を受賞したほか、新人の作品ながら韓国を代表する映画雑誌で『パラサイト 半地下の家族』(19)に次ぐ高評価を獲得した。

そのトーク相手を橋本愛が務めることになったのは、人選に携わった是枝監督が「橋本さんならキム監督の世界観にはまりそう」と思ったことがきっかけだとか。橋本もまた、昨年放送されたテレビドラマ「同期のサクラ」で大手ゼネコンに勤める女性の苦悩を体現したほか、『リトル・フォレスト』2部作や『ワンダフルワールドエンド』(14)、『PARKS パークス』(17)などでも等身大の女性像をしなやかに演じ、前の2本では第65回ベルリン国際映画祭の舞台に立つなど、海外の映画祭の雰囲気もその身で感じている。

繊細かつリアルな感情描写に並々ならぬ演出力を発揮したキム監督と、卓越した演技力を持つ橋本が、『はちどり』を出発点にどのような映画談議を繰り広げていくのか。韓国の新人監督と日本の若き人気女優、そのフレッシュな感性の化学反応が楽しみだ。

■台湾が誇る世界的巨匠によって結びつく!ホアン・シー × 是枝裕和
続く2日(月)は、台湾の監督ホアン・シーと是枝監督の顔合わせ。現代の台北で生きる人々の群像を描いたホアン監督の長編第1作『台北暮色』(17)に感銘を受けた是枝監督たっての希望で、両者の対談が実現したという。

ホアン監督は台湾を代表する映画監督、ホウ・シャオシェンの『憂鬱な楽園』(96)にインターンで参加し、『黒衣の刺客』(15)やテレビ用の短編映画に製作でかかわるなど、その手腕を現場で学んできた逸材。師であるホウ監督が製作総指揮で入った『台北暮色』で描くのは、車上生活をする中年の男、コミュニケーションが下手な少年、なぜか同じ間違い電話を受け続ける独り暮らしの女性、3人の孤独と出会いだ。街に縛られて生きる人々のままならない現実を叙情的に映すその語り口は、『台北ストーリー』(85)などで知られるエドワード・ヤンに近いとも言われるなど、台湾映画界を支えてきた鬼才2人の遺伝子を受け継いでいる。

対する是枝監督は、第71回カンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた『万引き家族』(18)に代表されるように、近年は“家族”をテーマに現代の日本が抱える社会問題に向き合ってきた。詩情豊かでナチュラルな作風のホアン監督と是枝監督ならば、いかにも演出論、社会と人間の描き方などについて話が弾みそう。さらに、是枝監督も映画デビュー前の1993年にテレビドキュメンタリー「映画が時代を映す時―侯孝賢とエドワード・ヤン」を手がけるなど、ホウ監督とエドワード監督を心からリスペクトしている。台湾が誇る世界的な巨匠たちが両者を結びつけるキーマンになっており、彼らにまつわる“知られざる秘話”も飛び出すかもしれない。

■特定のスタイルに縛られない映画作りが信条!アピチャッポン・ウィーラセタクン × 富田克也・相澤虎之助

3日(火・祝)は、2010年の『ブンミおじさんの森』でタイ映画として初めてカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクン監督と、映画制作集団、空族(くぞく)の富田克也&相澤虎之助によるトークが行われる。

腎臓の病に犯され、死を間近にした男の前に、19年前に死んだ妻と数年前に行方不明になった息子が現れる『ブンミおじさんの森』など、タイにまつわる伝説や民話、個人的な森の記憶や前世のエピソード、時事問題を題材にしてきたアピチャッポン監督。引いた視点からの静謐な映像が特徴で、観る者の感性を刺激してやまない、神秘的なまでにアーティスティックな作品を世に送りだしてきた。

一方、空族に所属する富田監督と映画監督・脚本家の相澤は、地方都市の現状を外国人労働者やハートフルなヒップホップを交えて描いた『サウダーヂ』(11)など、大資本に頼らず型にはまらない方法で映画を撮影してきた。2016年に発表したタイとラオスを舞台にした壮大なロードムービー『バンコクナイツ』では、娼婦、家族、在タイの日本人など様々な登場人物をカメラに映し、歴史や戦争、資本主義への警鐘にもつながる作品として仕上げ、国際的に高い評価を獲得している。

アピチャッポン監督と富田監督が顔を合わせるのは今回が初めてではなく、『ブンミおじさんの森』が日本で公開された際にも2人の対談が行われている。小規模体制で撮影を行う者同士、制作のプロセスやタイの映画事情など熱いトークが繰り広げられ、富田監督から「(『バンコクナイツ』で)次はタイのバンコクを舞台に映画を撮る予定」だとも語られていた。実際に当地で撮影した体験を踏まえてのトークが予想され、両者ともに特定のスタイルに縛られない自由な映画作りを標榜するインディペンデントの映像作家なだけに、映画ファンの好奇心をそそるディープな対談になりそうだ。

■配信作品と向き合う映画界の未来が語られる?特別セッション「映画の未来と配信」
4日(水)には「映画の未来と配信」と題した特別セッションを実施。是枝監督と行定勲監督、さらに世界中を放浪しながら映画を撮る異色のフィルムメーカーで、“シネマ・ドリフター”の異名を持つリム・カーワイ監督らが参加する。

行定監督と言えば『劇場』(20)がミニシアターを中心とした20館で上映開始されたのと同時に、Amazon Prime Videoでも200か国に向けて世界同時配信するという日本映画初の試みをとったことでも注目を集めた。作品はもちろん、出演した山崎賢人、松岡茉優らの演技も絶賛されたのだが、映画賞での審査から除外される可能性もあり、監督の胸中や同時配信に踏み切った思いは気になるところ。

在宅時間が増え、Netflixなどの動画配信サービスの普及がいっそう加速しているいま、映画祭や映画賞は配信作品とどう向き合うべきか。今後、映画の形態はどのような変化をとげていくのか。そんなタイムリーかつ興味津々のテーマが深掘りされていくはずだ。

是枝監督を筆頭に、個性豊かなアジアの映画人が集結する「アジア交流ラウンジ」前半戦。これからのアジア映画界を担っていく彼らのトークを視聴すれば、映画の見方や価値観が変わるかもしれない。「アジア交流ラウンジ」は、第33回東京国際映画祭公式ホームページより視聴申込みを受付中だ。(https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?departments=10)

文/下川秋男

※山崎賢人の「崎」は立つ崎が正式表記