テレビアニメ化もされた「とらドラ!」、「ゴールデンタイム」などのライトノベル作品で絶大な支持を得た竹宮ゆゆこの小説「砕け散るところを見せてあげる」。2016年の発売直後から熱狂的な口コミがSNSを駆け巡り、全国各地の有名書店で文庫売上ランキング第1位を記録したベストセラーが、ついに映画化され、4月9日(金)から公開される。

平凡な高校3年生の濱田清澄は、ある日、“学年一の嫌われ者”と呼ばれる高校1年生の女子生徒、蔵本玻璃がいじめを受けている現場を目撃する。正義感の強い清澄は、いじめの手から玻璃を救い出そうと試み、それをきっかけに、ふたりは少しずつ心の距離を縮めていく。しかし玻璃は、いじめ問題とは別の、誰にも言えない秘密を抱えており、その秘密に気づき始めた清澄に“恐るべき危険”が迫る…。

竹宮作品では初めての実写映画化となる本作、主人公の清澄に中川大志、ヒロインの玻璃に石井杏奈、共演には北村匠海、井之脇海、清原果耶、松井愛莉などの若き演技派キャスト、さらに堤真一、原田知世、矢田亜希子、木野花といった豪華俳優陣が集結した。

■「とらドラ!」&「ゴールデンタイム」を経て、一般文芸作品へ

2004年に「うさぎホームシック」で小説家デビューをした竹宮は、まずライトノベル作品で人気を博してきた。代表作にして出世作は2006年から2009年にかけて刊行された「とらドラ!」。目つきが悪いせいでヤンキーに見られがちだが、心のやさしい高校生男子と、小さくてかわいい外見ながらも狂暴で獰猛な同級生女子の、一風変わった青春ラブコメディは、完結から12年が経ったいまもなお色褪せることなく、新しいファンを増やしている。

続いて刊行され、人気シリーズとなったのが翌2010年から2014年にかけて執筆された「ゴールデンタイム」。中高生が主人公になることが多いライトノベルでは珍しく、大学を舞台にした作品であり、大学入学を機に上京してきた新入生男子が、ハイレベルなお嬢様にして、周囲から浮いている残念なヒロインに振り回される日常を描いた学園ラブコメディだ。
「とらドラ!」、「ゴールデンタイム」ともに、コミカライズ、アニメ化、ドラマCDやゲームもリリースされるなど、幅広くメディアミックス展開し、若者を中心に支持を集めた。

この「ゴールデンタイム」を最後に、竹宮はライトノベルから一般文芸に進出する。「砕け散るところを見せてあげる」は、一般文芸に転向後の一作目「知らない映画のサントラを聴く」に続く、二作目となる。作品発表の場が変わっても、竹宮はライトノベルの時からの作風をあえて変えようとはしなかった。「知らない映画のサントラを聴く」こそ主人公は20代前半の女性だったが、「砕け散るところを見せてあげる」では大人どころか、主人公を「とらドラ!」以来の高校生に設定。テンポのよい文体も健在で、従来のファンのみならず、文芸作品の読者にも支持を大きく広げた。

■竹宮ワールドの醍醐味が詰まった「砕け散るところを見せてあげる」

それまでラブコメディのイメージが強かった竹宮作品の魅力といえば、思わず吹きだしてしまうような軽妙な会話のやりとりと、一見、エキセントリックなのに、いつしか愛さずにはいられなくなる主要キャラクターたちの造形の巧さにある。
特に、ひと癖もふた癖もあるヒロイン像は、一般的にイメージされる理想の女の子とは程遠いが、それゆえに目が離せない存在となってゆく。そんなヒロインに戸惑いつつも、最後まで全力で彼女の最大の応援者であろうとする主人公の男の子。そして、2人を温かく取り巻く、個性豊かな仲間たち。苦悩や葛藤を交えながら、若者たちの成長を共感度高く活写する本作は、竹宮作品の真骨頂ともいえる。

竹宮作品の魅力は“楽しいラブストーリー”というだけでは終わらないことだ。ライトな語り口であるからこそ描ける、親との関係や家庭の問題、自我への不安といった重厚なテーマと、それらに悩み苦しみ、満身創痍になりながらも、勇気を出して前に一歩踏みだそうとする登場人物たちの繊細な心理描写がファンの心をつかんできたのだ。ひと際高い評価を受けた「砕け散るところを見せてあげる」には、そうした竹宮ワールドの醍醐味ともいうべき要素がすべて詰まっている。

さらに、「砕け散るところを見せてあげる」は、竹宮が用意したプロット上のある“仕掛け”が話題を呼び、ライトノベル読者以外にも認知度を高めることに成功した。小説のネタバレになるため、ここで詳しく説明することは避けるが、現在と過去の時系列がさりげなくズレたり、“俺”という一人称はそのまま、語り手が切り替わったりすることで、初めに登場する“ヒーローになりたいという少年”について、読者は竹宮の思惑どおり、ミスリードにはめられてしまうのだ。

■映画ならではの方法論で、作品のテーマに迫るSABU監督

有名原作の映画化作品では『蟹工船』(09)や『うさぎドロップ』(11)で知られるSABU監督が「砕け散るところを見せてあげる」を映画化するという発表があった際、原作ファンの間で最初に関心を集めたのは、この仕掛けを映像でどのように表現するのか!?という点だった。先に言ってしまうと、実はこのポイントについては、あえて“ミスリードを仕掛けない”ことを選択しており、映画ならではの方法論で、さらに作品のテーマへと深く迫っている。人物描写に長けたSABU監督自らが手掛けた脚本とキャストの演技、印象に残るシーンの積み重ねという王道のスタイルで、竹宮の物語が持つ本質的な魅力を丹念に表現することに徹し、細部まで作りこまれた映像美によって、原作の壮大な愛のメッセージを余すところなく伝えている。

■青春ストーリーからサスペンス・スリラーへ…大胆な展開を見せるミステリー的構造

さて、前述したプロット以外にも、本作には驚きがいくつも詰め込まれているので、原作未読、映画未見の方の興を削がない範囲でご紹介していこう。

まずは冒頭シーン、2人の人物の会話に出てくる「つまり、UFOが撃ち落されたせいで死んだのは2人」という意味深な台詞。UFOってなに?死んだ2人とは?観る者に興味を抱かせたまま、ストーリーは一気に進んでいく。このように、序盤で謎を提示し、終盤で解き明かしていくというミステリー的な構造は、竹宮作品が読者の心をつかんで離さない特徴でもある。

もう一つは、物語の前半、後半、ラストで、別ジャンルかと思うほど、受ける印象がガラリと変わってしまう大胆なストーリー展開だ。主人公の清澄と玻璃が出会う前半部分は、いじめのシーンこそ重くつらいものの、全体的には2人の恋の始まりを感じさせる甘酸っぱい学園青春ストーリーとして楽しめる。それが物語のちょうど中盤、玻璃のいじめ問題が収束へ向かう兆しが見えた時から、それまでとはカラーの異なる不穏な空気が漂い始め、観る者を恐怖に陥れるサスペンス・スリラーに豹変。ラストに向けて、世代を超えた普遍的な愛の物語へと昇華されるのだ。

■SABU監督の真骨頂!加速し続けるストーリー展開

物語が進むにつれて、どんどん加速していくような感覚はSABU監督作品の真骨頂であり、竹宮作品との相性は抜群。特に、たたみかけるようなクライマックスシーンは圧巻だ。
原作ではあくまで観念的なメタファーだった銀河をスクリーンいっぱいに映しだしたファンタジックな映像の美しさは、映画ならではの醍醐味を十分に味わえるもの。
また、本作が3回目の共演となる中川と石井をはじめ、若手キャスト陣が竹宮節ともいえる独特のコミカルなセリフを、生き生きとしたリアルな日常会話として、完全に自分のものにしているのも原作ファンにはうれしいポイントだろう。

あらゆる面から見て、原作を最高にリスペクトした映像化作品となっている映画『砕け散るところを見せてあげる』。原作ファンも、まだ原作を読んでいない人も、すべてを知ってから、また繰り返し観たくなるこの特別な愛の物語を、ぜひ劇場で堪能してほしい。

文/石塚圭子