米ワーナー・ブラザーズ傘下のHBOと言えば、「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ウエストワールド」といった海外ドラマの重要作を送り出してきた信頼のブランド。2020年5月からはSVOD(定額制)サービス「HBO Max」をスタートさせ、リドリー・スコット製作総指揮のSFシリーズ「レイズド・バイ・ウルブス / 神なき惑星」などのオリジナルコンテンツを大量投下するなど映画ファン、ドラマファンの注目を集めている。
 
果たしてHBO Maxはいつ日本に上陸するのかと注目が集まるなか、U-NEXTが米ワーナーと日本のSVODにおけるパートナーシップ契約を結び、HBO及びHBO Maxオリジナルの新作の見放題独占配信を4月からスタート。さらにHBOのこれまでの豪華ラインナップも配信することになった。品揃えの豊富さで一部の配信好きを驚かせていたU-NEXTのこれからについて、同社のコンテンツとマーケティング業務を統括するCOO、本多利彦氏に話をきいた。
■「HBO Maxオリジナルの新作がほぼ毎月入ってくる形にはしようと思っています」
日本では、これまでにも放送局やHuluやAmazonなどとパートナーシップ契約を結んでいたHBOだが、HBO Maxは動画配信の戦国時代に鳴り物入りで参入した新規のサービス。「以前からワーナーがNetflixやDisney+に対抗する勢いでやっていくという情報が入っていたので、どうしても配信したいという思いがありました」と本多氏は言う。
 
「とはいえ他社さんも過去にHBOとは契約されているので、当社としては積極的にラブコールを出していました。ただ当初から、ただ配信したいんですということではなく、当社は非常に多くのデータを持っておりますので、ハリウッドのスタジオが非常に気にする視聴者の動向やマーケティング分析も一緒に協力できることなど、こちらの強みをアピールしながらアプローチしました」

日本ではいままで、数あるHBO作品の一部しか入ってきていなかった。しかしU-NEXTは、作品ごとにピックアップするのではなく、新作は基本的にジャンルを問わずすべて配信していくつもりだという。

「私はもともとHBOの大ファンで、ドラマだけでなくドキュメンタリーも非常に秀逸だと感じていたので、当社のオールジャンルで配信したいという姿勢は、米ワーナーさんにとってもある種の決め手だったのではないかと思っています。もちろん米ワーナーさんが日本でのSVOD配給権をお持ちの作品には絞られますが、HBO Maxオリジナルの新作がほぼ毎月入ってくる形にはしようと思っています」

■「HBO Maxオリジナルは、ドラマシリーズやドキュメンタリーがメインになります」
コロナ禍の影響もあり、アメリカでは『ゴジラvsコング』のようなワーナーの劇場公開作がHBO Maxで同時配信というパターンが増えているが、劇場公開用の作品についてはまた事情が異なる。

「日本には映画の興行がしっかりとありますし、最近の洋画作品ですと配信は劇場公開から4カ月後が一般的になっています。劇場公開作については従来どおり、当社はそのタイミングで都度課金で早く、お得に配信させていただき、その後適切な時期に見放題で提供する流れになります。ですので当社が扱うHBO Maxオリジナルというのは、ドラマシリーズやドキュメンタリーがメインになりますね。注目度の高い『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』は、映画から派生しているイレギュラーなパターンで、すでにワーナーさんが発表されているように、当社の独占ではなく、5月に配信で、6月にパッケージでリリースされます」

U-NEXTとしては数あるドラマシリーズと同様に、ドキュメンタリー作品にも力を入れていきたいという。
 
「最初にリリースする作品の一つとしてタイガー・ウッズのドキュメンタリー『タイガー・ウッズ / 光と影』を発表させていただきましたが、HBOのドキュメンタリーは本当にすばらしいです。うちとしても「ドキュメンタリー映画」としてどんどん日本に出していこうと思っています。ドラマシリーズですと字幕版と吹替版を同時配信というのが基本になりますが、ドキュメンタリーはニュース性が強いものも多いので、吹替の完成を待たずに先に字幕版から配信するといった、作品に合わせた対応も考えていくつもりです」

HBO Maxのドキュメンタリーと言えば、ウディ・アレンがハリウッドから実質的に排除される原因となった養女への性的虐待疑惑を扱ったドキュメンタリーシリーズ『Allen V. Farrow(原題)』がこの春に全米で配信されて大きな物議を醸したばかり。#MeToo運動とも結びついて、およそ30年に渡って毀誉褒貶が渦巻いている複雑な問題を扱った注目作は、U-NEXTから5月26日(水)に配信されることが発表された。
 
■「若い世代の方を含め、もっと映画を観てもらえるような工夫を」
HBO Maxとの契約は映画ファン、ドラマファンにとって大ニュースだが、最近、映画ファン界隈で話題に上っているのが、シネフィル垂涎のクラシックやマイナーなインディーズ作品を積極的に取り上げて配信するラインナップの充実っぷり。調達部門の担当者は洋画邦画を合わせても10人程度だというが、「すぐにでも映画雑誌のお手伝いができんじゃないかというくらいの映画好きが集まっています!」と本多氏は太鼓判と押す。
 
「当社としては“映画”をメインにプッシュしていきたいと思っています。このコロナ禍の中で『映画なんか観ていていいのか』という空気もあったと思うのですが、当社はそれに対して『映画なんか、観てる場合だ。』というテーゼをCMで打ち出しました。映画興行が元気じゃないと、やっぱり配信している映画もヒットしないですし、映画の価値が特別だからこそお客さんには映画館に行ってもらいたいんです。そのためにU-NEXTのポイントが映画館で使えますという提携も行っているんですよ」

とはいえU-NEXTに限らず、配信サービスにアニメをきっかけに加入する層が多いのも事実としてある。

「当社もアニメからというお客様は非常に多いです。でも、そういう方にもシュッと映画の世界にも入ってきてもらえるようにしたいんです。コレは本当にカッコつけたいわけではないんですけど、私自身、エンドロールが出ると映画が終わってしまうことがあまりにも寂しすぎて、一時期映画が観られなくなったくらい(笑)、映画が起こす奇跡みたいなものを日々感じているんです。映画って、たった一人の方が喜んでくださるだけで、その方の人生が変わることもある。だからこそ、ある作品を観たいと思った時に「U-NEXTにはあります!」という状態にしておきたいというのはあります。物理的なスペースの制限があるレンタル店舗と違って、棚を無限大に増やせるのが配信サービスの強みですから」

実際、U-NEXTでは超マニアックな「トロマ特集」や「未体験ゾーンの映画たち」や映画祭と連携するなど、様々な企画で映画に取り組んでいる。

「担当者の想いが強いんですよ。うちの映画部の映画愛を今度ぜひ特集してほしいくらいです(笑)。当社には20代、30代のスタッフも多いのですが、昔のように手の届きやすいところに映画がないんじゃないかなと思います。昔はテレビでも毎日のように映画枠がありましたが、今では日常に映画があるという環境が欠如している世代がいる。そういった若い世代の方たちを含めて、もっと映画を観ていただけるようなアプローチをしていきたいと思っています」
 
一企業の枠を越えて、映画の啓蒙という使命に燃えるU-NEXT。映画業界全体が苦境に立たされ、理想がまかり通る世の中ではないからこそ、蛮勇ともいえる熱い“映画推し”の今後を注視していきたい。

取材・文/村山章