患者とその家族、そして「まほろば診療所」に集う医師や看護師たちが紡ぐヒューマン医療巨編『いのちの停車場』が、5月21日(金)より公開となる。女子レスリングのアテネ&北京五輪の銅メダリストで、現在はタレントとしても朗らかな笑顔でお茶の間を楽しませている浜口京子が、いち早く本作を鑑賞。「私の胸のなかの大きな鐘が何度も打ち鳴らされ、心が揺れ動いた」と涙を浮かべ、感動の声をあげる。
本作を通して、「誰かの優しさが、人を強く、たくましくするんだと改めて感じた」という浜口。世界を舞台に戦いつつも「私は弱い人間なんです」と打ち明ける彼女が強くなれた理由、人生の岐路でいつも背中を押してくれ、映画の内容と重なりあった両親へ感謝の想いを語った。

■「忘れかけていた、大切なものに気づくことができた」

現役医師であり作家としても活動する南杏子の同名小説を、『八日目の蝉』(11)などの成島出監督が吉永小百合主演で映画化した本作。金沢にある「まほろば診療所」を舞台に、東京からやってきた医師の咲和子(吉永)、咲和子に出会い、医師になることに向き合い始めた青年の野呂(松坂桃李)、ある"とらわれていた過去"から歩みを始めた看護師の麻世(広瀬すず)、彼らを見守る「まほろば診療所」の院長の仙川(西田敏行)が、患者やその家族に寄り添っていく姿を描く。

患者のために奮闘する医師。そして、それぞれが自分らしく、命と向き合っていこうとする患者と家族の姿を目の当たりにした浜口は、「願いが叶うかはわからないけれど、それでも困難に全力で立ち向かい、生きるために葛藤する姿を見て『一人一人の命が重なり合って生きているんだ』と感じました。私の胸のなかの大きな鐘が何度も打ち鳴らされて、響いたよう。近年観た映画で一番感動しました!」と熱っぽく語る。

「ここ1年ちょっとは、いままで当たり前だったことができなくなってしまいました。そしてお友だちにも会えなくなってしまったので、人の思いやりや優しさなど、いつもだったら噛み締めていたものを、私自身もしかしたら忘れかけてしまっていたかもしれない。改めてそういったことに気づくことができた」そうで、「“人とのつながり”の大切さがわかる映画です」とほほ笑む。

■「松坂桃李さん演じる野呂さんの熱く生きる姿に、とても共感しました」

とりわけ浜口が「似ているところがある」と共感したキャラクターが、まっすぐな青年の野呂だという。野呂は病を抱えた8歳の最後の少女の願いを叶えるために、なりふり構わず一直線に突き進む青年だ。

浜口は「野呂さんは、自分の車を売って資金を作ってでも、少女を助けようとしていましたよね。無我夢中で動かれていました。そのように熱く生きている姿を見て、『あの行動、私もやりそうだな』と思いました」と心を寄せる。「私はおとなしい性格ですが、すごく熱いタイプなんです。これだ!と思ったものには、後先考えずに突き進みます。願いが叶うかわからないけれど、猛ダッシュでチャレンジしてみる。野呂さんのそんな姿に、とても共感しました」。

また、広瀬演じる麻世にも「わかる!というところがありました」とのこと。麻世は明るい笑顔で患者と向き合いながらも、心に傷を持ち、一歩前に進めないでいる女性。浜口は「麻世さんの優しい笑顔、透明感、純粋さもとても印象に残っています」と切りだし、「麻世さんが臆病になって、硬くなっているシーンがありました。私も弱い部分があるので、『重なるな』と思いました。シチュエーションも違うし、すべてが同じというわけではないのに、そうやっていろいろな登場人物の方に『わかる』と思える部分がありました」と話す。

浜口が彼らを見て感じたのは、「“人とのつながり”によって気持ちが変化したり、励まされることがたくさんあるんだ」ということ。「麻世さんが臆病になってしまっていると、野呂さんが『大丈夫だよ』と、彼女を支えている場面もありました。それによって、麻世さんも変化していきます。また、麻世さんも野呂さんも『まほろば診療所』に集ったことで、強くなっていったんだなとも思いました」としみじみ。

「『まほろば診療所』には吉永さん演じる咲和子先生がいて、西田さん演じる院長がいる。お二人とも温かな雰囲気を持っていて、『魅力的な方のもとには人が集まるんだな』と感じるような方。麻世さんも野呂さんも、もし一人だったら、もっと迷ったり、悩んだりしていたでしょうが、『まほろば診療所』の人々と絆を持つことで、たくましくなっていく」と彼らの成長について語り、「その強さに、患者さんやご家族も支えられたり、励まされていくんですよね。病を抱えた少女のご両親も、最初はとても混乱されていました。でも『まほろば診療所』の人たちと出会うことで、その心がほどけていきました。そうやって命が重なり合って、人々がつながり合っているんだなと思うと、ものすごく感動しました」と思いやりの連鎖を実感したという。

■「私を信じてくれた父。バス停で迎えてくれた母…。いまの私があるのは両親のおかげ」

女子レスリングの元世界王者で、アテネ&北京五輪では銅メダルを獲得した浜口。劇中の若い二人は、様々な出会いによって将来の道を見つけていくが、浜口にとって人生の岐路で必ず背中を押してくれたのは「両親」だという。本作を観て、「両親の顔が思い浮かんだ」そうで、「世界を舞台に戦ってきましたが、私はよく両親に弱音を吐いていました。基本的にはおとなしい性格なので、闘争心丸出しで戦えるタイプでもない。そんなふうに弱かった私が、以前より強く、たくましく生きられるようになったのは、両親のおかげ」と明かす。

そもそもレスリングと出会えたのも、父親が彼女の秘めた想いに気づいてくれたからなのだという。「私はレスリングに出会う前に、空手、バレーボール、水泳など、いろいろなスポーツにチャレンジして。でもいくら頑張っても、表彰台には上がれませんでした。そこで発奮できず、挫折を味わっていました」と告白し、「水泳をやっていたころは、スピードの速い選手に囲まれているうちに、練習に行くことに後ろ向きになってしまって…。すると、父が私の様子がおかしいのをいち早く見抜いて、『京子、将来の話をしよう』と言ってくれました。何時間も話し合って、そこで私は心の奥底にあった『レスリングをやってみたい』という想いを打ち明けました。父は『大変だぞ。それでもやりたいのか』と。私の強い意志を聞いた父は、『じゃあ、明日から練習しよう』と私の想いを引っ張り上げてくれました」と父に感謝。

相手と真正面からぶつかり合う格闘技の道を邁進するうえでは、「つらい、苦しい」と思うこともたくさんあったという。「父のように強くなりたいと憧れて、チャレンジできた。そして父はいつでも『京子、お前は世界で一番強いんだぞ』とずっと励まし続けてくれました。私は自分に自信がない方ですが、父は私を信じてくれた。だからこそ私は戦い続けてこられたんです。父から学ぶことはたくさんあります」と続け、さらに「つらい練習の後や負けてしまった時など、いつも優しく、私を迎え入れてくれたのが母です」と母に対しても愛情があふれだす。

「本作では、咲和子先生が実家に戻られた時に、お父様が迎えてくれるシーンがありましたよね。またお父様の帰りを、母娘がバス停で待っている場面もありました。私にもバス停の思い出があるんですよ」と述懐。「私がレスリングを始めたばかりのころ、練習がつらくて泣いてばかりいました。汗で重たくなった練習着をリュックに入れて、バスに乗って家に帰るんですが、母はいつもそんな私をバス停で待ってくれていました。自転車のカゴにリュックを乗せてくれて、『今日はこんな技ができなかった』『苦しかったね』と話しながら帰ったことを、いまでも覚えています。バス停で母の姿が見えるとホッとしましたし、どんな状況でも待っていてくれる人がいるというのは、とても心強いもの。劇中で、咲和子先生を迎えるお父様の姿を見て、母とのバス停の思い出がよみがえってきました」と回顧し、涙を浮かべる。

■「ケンカした時の浜口家の仲直り法は、肩揉みとおいしいものを食べること!」

両親への感謝を口にする浜口だが、「ケンカもしょっちゅうしますよ」と笑う。「原因は、いつも他愛もないこと。ケンカも、私たち家族のコミュニケーションの一つかもしれません。ピリピリした雰囲気がだんだんおもしろくなってしまって、誰かがクスッと笑うとそれで終わるんです」となんとも楽しそうな浜口家。

本作では、柳葉敏郎演じる厳格な父親が、死の淵で長年心を通わせていなかった息子との再会を願うシーンがある。仲違いをしたまま会えなくなってしまった劇中の親子を想い、浜口は「本当に不器用なお父様!言いたいこと、言っておくべきことは、伝えておかなければいけないと思いました。それも本作から学んだことです」と吐露。「そういった意味でも、時にはケンカすることも必要。思っていることを吐きだして、ぶつかり合う。ケンカをできる相手がいることも、とてもありがたいことなのかなと思います」。

仲直りに最適な方法はあるだろうか?すると浜口は「マッサージをすることもオススメです。たとえば母とケンカをしたとします。そんな時は肩のマッサージをしてあげると、お互いにカッとなっていたものが、スーッと溶けて心が穏やかになってくる。やっぱり触れることで、気持ちもつながる気がするんです。あとはおいしくて、温かいものを一緒に食べること。コロナ禍では、両親を元気にしたいなと思うこともあります。先日はワンタンスープにネギを入れて、ぽんと食卓に置いてみました。2人とも、すごくおいしそうに食べていました。マッサージとおいしいものを一緒に食べること。これが仲直りの秘訣です」と教えてくれた。

一つ一つ丁寧に言葉を紡ぎ、どんな話からも温かな人柄がにじみだす浜口京子。自分を信じ、励ましてくれた人の存在を知っているからこそ、周囲を照らすような笑顔を持っているように感じる。「この映画を観て、改めて自分にとって大切なものがわかったような気がします。生きること、そしてこれからも生きていくこと。そういった大切なことがわかる映画だと思います」と話していた。

取材・文/成田おり枝