吉永小百合が、122本目にして初めて医師役に挑んだ『いのちの停車場』(公開中)で、吉永と初共演した広瀬すず。2019年に連続テレビ小説100作目「なつぞら」でヒロインを務め、国民的女優となった広瀬は、映画やドラマ、舞台にひっぱりだこである。そんな広瀬は日本を代表する映画俳優、吉永の背中を見て、なにを感じとったのか。全国キャンペーンの後半で、吉永と共に映画の舞台となった金沢を訪れた広瀬に単独インタビューを敢行した。

『いのちの停車場』は、終末期医療専門病院に勤務する現役医師、南杏子の同名小説を吉永主演で映画化した話題作で、5月21日に公開されるや、週末動員ランキングで初登場1位の大ヒットとなっている。吉永が終末期患者やその家族と真摯に向き合う在宅医師の白石咲和子役を、広瀬は訪問看護師の星野麻世役を務めた。

東京の救命救急センターを退職後、故郷の金沢に帰郷し在宅医となった咲和子に、麻世は在宅医療の注意点などをテキパキと伝えていくというしっかり者の看護師役だ。広瀬はロケ地となった金沢を、撮影で初めて訪れたそうだ。

「金沢は自分にとって初めての場所なのに、まったく違和感がありませんでした。麻世としては生まれてからずっと住んでいる場所で、そこで人と出会い、どんどん成長していくという役柄です。何より相手が吉永さんですし、最初はどうしようと思ったんです。私は人見知りなので、役として相手との距離感をどうやったら縮められるんだろうと心配していたんですが、金沢はすごく居心地のいい素敵な空気感があり、本当に今回のロケ地が金沢で良かったと思いました。その感覚は、今日も感じました。また金沢に戻ってこれてうれしかったです」。

■「吉永さんから抱擁されるお芝居に、心が動かされました」

舞台挨拶や会見はもちろん、バラエティ番組でも、共演者たちとよく談笑している印象を受ける広瀬。そんな彼女が人見知りだと聞いて、いささか驚いた。「実はそうで、取材などでは大丈夫なんですが、例えば撮影の合間に、キャストの方とおしゃべりするのが苦手なんです。逆にスタッフさんとはすぐ仲良くなれるんですが」。

特に今回は、長年最前線を走り続ける俳優である吉永との共演シーンが数多くあったが「吉永さんは大先輩すぎるので、どうしゃべっていいのか最初は分からなかったです」と告白。「でも、吉永さんは、私の出演した『怒り』という映画を観てくださっていて、監督の李(相日)さんについて聞いてくださったり、松坂(桃李)さんにも、(松坂が主演を務めた)『新聞記者』について尋ねられたりと、映画の話をたくさんしてくださるんです。一緒に取材を受けていても、吉永さんが数多くの映画を観られていることに驚きました。そして、こんなふうに映画女優として人生を刻まれてきたのかと、感動さえ覚えました」。

2014年に公開された『怒り』は渡辺謙主演、李相日監督・脚本による人の心の闇をえぐるような群像劇で、広瀬は当時、オーディションで小宮山泉役を勝ち取り、その演技は高く評価された。当時、広瀬にインタビューした時、彼女が映画に対する熱い想いを口にしていたことも記憶しているが、それだけに吉永とのオフショットのひとときは、大いに堪能できたようだ。

広瀬は今回、撮影はもちろん、その後の取材を通しても、吉永の映画に向き合う真摯な姿勢に感銘を受けたそうだ。「とにかく作品や役に取り込むパワーがすごいです。原作者の南先生についての情報から、演じる役柄のことまで、とことん見たり調べたりされていました。あそこまで研究し、丁寧に取り組む方に、私は初めてお会いしました。もちろん撮影現場でも感じていましたが、こうやって一緒に取材を受けさせていただいて、吉永さんのお話を聞けば聞くほど、本当にすごいなと驚きます」。

吉永との共演シーンで、特に心に残っているのが、咲和子と麻世が抱き合うクライマックスのシーンだ。「ロケ地も建物がぎゅっと詰まっていて、逃げ道がない空間だったので、正面から咲和子先生とぶつかって、いろんな感情が動きました。自分としては、ストレートに届くものがあったんです。吉永さんが抱きしめてくれるシーンでも、ぎゅっと強く抱きしめてくれたことで、すごく救われた気がしました。その力が強ければ強いほど、咲和子先生の揺るがない決意や強さが一瞬で伝わってきたので。また、抱擁の強さも、背中を叩く回数も毎回違っていたので、私はその度にぐっときていました。ト書きには『抱きしめる』としか書いてなかったのですが、そこから膨らんだ吉永さんのお芝居に、心が動かされました」。

■「吉永さんのように映画の道を行くことに対して、強い憧れはあります」

金沢での会見では、吉永が広瀬の女優としての演技力を高く評価したうえで「映画にいっぱい出てほしいなと切に願っています」と笑顔でリクエストしたのだが、それに対して広瀬は「自分にとっても映画は特別な存在なので、吉永さんを見ていると、本当に映画の道ってあるんだなと思いました。だから吉永さんにそう言っていただいたら、『はい!』とつい言ってしまいそうになります」とおちゃめに応えていた。

このやりとりについて広瀬は「自分はまだこの世界に入って長くないですし、年齢的なものもあり、様々な作品に挑戦させてもらいました。多くの方の導きがあってやらせていただいたお仕事により、様々な現場を経験できたのだと思います」と感謝している。

実際に、映画はもちろん、連続テレビ小説「なつぞら」や民放のテレビドラマ、舞台などの経験を経て、女優としてさらに厚みが出てきた広瀬。「なつぞら」のあとは、野田秀樹の「Q:A Night At The Kabuki」(19)で初舞台を踏み、現在はテレビドラマ「ネメシス」が放映中だ。「もちろん映画のほうが時間をかけて撮れるので、役と向き合える時間が多いということもあります。テレビドラマはどうしても毎週の放送に追われがちになりますし。朝ドラは撮影期間が長かったので、そのあとは映像作品ではなく舞台をやってみたいとも思いました。映画や舞台、ドラマでは、それぞれお芝居の仕方も違うと思いますが、なかでも私が今回やらせていただいた舞台は特殊なお芝居で、ものすごく楽しかったです。また、いまはテレビドラマを撮影中ですが、コロナ禍なので皆さんに楽しんでもらえる作品を届けたいとも思いました」。

そんな広瀬は、今回吉永との交流を経て、映画への情熱が再燃してきたようだ。「やっぱり自分のなかで、映画は特別というか、10代のころからたくさんの映画に出たいと思っていたので。だから、あんなふうに吉永さんに言ってもらえたのはすごく光栄で、心の中では大きな声で『はい!』と言ってました。テレビドラマも舞台も好きですけど、吉永さんのように映画の道を行くことに対して、強い憧れはあります」。

是枝裕和監督作『海街diary』(15)で新人賞を総なめし、若手演技派女優として頭角を現して以降、同じく是枝監督作『三度目の殺人』(17)や小泉徳宏監督作「ちはやふる」シリーズ、吉永から称えられた『怒り』などの作品群で、数多くの映画賞に輝いてきた広瀬。今年も『一度死んでみた』(20)で、第44回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞したが、吉永が背負ってきた日本映画界のバトンを、才能ある若き女優に託したいと熱望した気持ちもわからなくはない。いち映画ファンとしては、映画女優・広瀬すずの熱演を、今後もっとスクリーンで観たいものだ。

取材・文/山崎伸子