『翔んで埼玉』『かぐや様は告らせたい 〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』(ともに19)の脚本家・徳永友一が初めて手掛けるオリジナル小説として、「DVD&動画配信でーた WEB」特別連載。脚本家を目指す中年男・吉野純一、若手脚本家として闘う男・宮間竜介、2人を巧みに操る男・滝口康平、3人の男のリアリティドラマが始まる。宮間は面倒事に巻き込まれていることを薄々感じつつも、滝口プロデューサーの言いなりとなって仕事を進めていく。そんな日々の疲れとストレスが遂にプライベートにまでおよび始める。

■第9回「脚本家の彼女 宮間編」

 恵比寿の喫茶店で吉野さんを見送った後も、滝口プロデューサーとの話は続いていた。

「じゃあ、明日から打ち合わせ始めるぞ」

「待って下さい。本当に僕があのおっさん……、いや、吉野さんのゴーストライターをやるんですか?」

「無理ならいいよ。他に話振るから」

 出た……。そう言われると脚本家は何も言えなくなる。

「わかりました。やります」

「そうか。この後、俺本社で会議だから。お前も一緒に来い。会議後にまた話そう」

「はい……」

 本社の会議室で待つこと1時間。滝口プロデューサーが戻って来た。

「よし、じゃあやるか」

「はい。ストーリーの骨格ですが、吉野さんのキャリアも考えると、あまり登場人物が多くならない王道の話を――」

「話はあのおっさんに考えさせる」

「え?」

「とりあえず、電話して」

「あ、はい……」

「明日遅めの時間で、吉野さん入れて打ち合わせをやる。そう伝えてくれ」

「わかりました……」

 一体、この人は何を考えているのか⁉よくわからないまま、吉野さんの携帯に電話を入れると、すぐに応答があった。

「はい、吉野です!」

 うるさっ!耳がキーンとなるほどの大声だ。

「いえ……。で、早速なんですが明日遅めの時間から打ち合わせ出来ませんか?」

「え?」

「実は、今回サポートと言うわけではないんですが、僕も一緒に打ち合わせに入ることになりまして……」

「あ、そうなんですか……」

 明らかに落胆の声だ。その態度に思わずイラッとしてしまう。本当に自分一人で書けるとでも思ってるのか?吉野さんがスケジュールを確認すると、明日の夜はファミレスのバイトが入っていると告げられた。

「バイトですか……。休めたりしませんかね?」

 その時、目の前で「休ませるな」と滝口プロデューサーが口を出してきた。

「え? あ、ちょっと待って下さい」

「バイト行かせろ。そこに俺らも行く」

「あ、すみません。バイト入ってても大丈夫です」

 慌てて吉野さんにそう告げると、滝口プロデューサーが“代われ”と合図して来た。

「もしもし、滝口です。先ほどはどうもありがとうございました」

 吉野さんと楽しそうに話す滝口プロデューサーを、僕はボンヤリと眺めながら、何だかとても面倒なことに巻き込まれている気がしていた。


 自宅に戻って来ると、明かりが点いていた。

「おかえり」

 出迎えてくれたのは彼女の渚だ。歳は僕の二つ上で、30歳。付き合ってもう4年。僕がデビューする前から支えてくれている彼女だ。彼女の仕事は大手派遣会社のキャリアコーディネーター。残業が多い仕事ではあるが、たまに早く仕事が終わるとうちに寄って夕飯を作ってくれる。

「その仕事、やめた方がいいと思う」

 渚が作った夕飯を二人で食べている時だった。普段は何があっても応援してくれる渚が、初めて反対して来た。

「そうは言っても、やらなきゃ食べていけないし」

 思わず語気が強くなる。

「でも、それって何のキャリアにもならないでしょ?もう実績あるんだし、滝口さんとの仕事だからって引き受けなくてもいいと思うよ」

「いや、でもこれをやる代わりに映画化まで決まってる連ドラの仕事もらえることになってるし」

「それって本決まりなの?」

「言われてるんだから決まった話だろ」

「どうだかわかんないよ。いつも竜くん言ってるじゃん、また企画変わったって。その話だっていつ変わるかわからなくない?」

 確かに渚の言う通りだった。滝口プロデューサーから“映画化まで決まっている連ドラの話だ”と言われた時、すんなりと受け入れることが出来ないでいた。それでも僕が、おっさんのゴーストライターを引き受けたのは、滝口プロデューサーから嫌われたくないからだった。あの人に嫌われれば、仕事を振ってもらえなくなる。本当はその恐怖から引き受けた仕事だ。

「今からでも断れないの?絶対やめたほうがいいって。多少仕事空いたって、他に一緒にやってくれるプロデューサーを探した方が――」

「うるさいな! こっちの業界よくわかんないくせに、口挟むのやめてくれよ」

 溜まっていたストレスが爆発したのが自分でもわかった。

「TVのゴールデンタイムで連ドラ書ける脚本家なんて、年間60人もいないんだよ?脚本家はみんなそこ書きたくて勝負してんだよ。勝ち続けるためには、嫌な仕事だって引き受けなきゃなんないんだって。渚の仕事と一緒にしないでくれよ」

「……ごめん」

 重い沈黙が流れる。

「今日はもう帰るね……」

 そう言うと、渚は荷物を手に出て行った。クッソ!何でこんな喧嘩しなきゃいけないんだ。全てはあの仕事のせいだ!                

(つづく)