「『search/サーチ』と『RUN/ラン』は、互いに大きな影響を与えている作品同士だといえます」。全編パソコンのモニター上で展開させる野心的な映像表現で話題を呼んだ初監督作『search/サーチ』(18)で一躍脚光を浴びたアニーシュ・チャガンティ監督は、同じ製作チームで手掛けた監督第2作『RUN/ラン』(公開中)が誕生した経緯について明かす。

「『search/サーチ』では技巧的で複雑な仕掛けをふんだんに使い、多くの“騙し”のテクニックも使った。個人的には、自分が普通の映画を撮ることができるのかを試したいと思いました。それも予算的に超小規模で、前作と同等の恐怖と緊張感を保つことができるのか。そう考えながら物語のネタを探していたら、ある新聞の見出しが目に付きました。“もしこの被害者が、実は英雄だったとしたら?”。そんな想像をして構想を練り直すうちに、次回作はこれだと確信したのです」。

本作は、1軒の家を舞台に、車椅子生活を送る娘と“完璧な母親”の濃密な心理戦を描いたサイコスリラー。生まれつき慢性の病気を患っているクロエは、地元の大学への進学と自立を望んでいた。そんなある日、彼女は自分の体調や食事を管理している母親ダイアンにある疑念を抱くようになり、ダイアンが新しい薬だと差し出してきた緑色のカプセルの中身が、人間が服用してはならない薬だと知ってしまう。そしてクロエは、ダイアンの監視下から脱出を試みるのだが…。

「僕がもっとも影響を受けたのはアルフレッド・ヒッチコック監督作や、M・ナイト・シャマラン監督の初期の作品です。メイキング映像やインタビュー映像をたくさん観て、彼らの手法をこの作品で再現したかった」と古典的なスリラー映画への、この上ないリスペクトをのぞかせるチャガンティ監督。

「すべての枠組みやカット割にも緻密な計算を施し、スタッフ全員に資料を配って目指すイメージを詳細に伝えました」とそのこだわりぶりを明かす。劇中にはほかにもスティーヴン・キング作品へのオマージュも込められており、スリラー映画ファンなら思わずにやりとしてしまうことだろう。

さらに「基本的には最初から最後までずっと恐怖の連続で、90分ノンストップで見入ってしまうことでしょう」と自信たっぷり。試写会での観客からの反応も狙い通りだったとのことで、「最小限の要素のみで観客を恐怖に陥れるのが今回の目標だとしたら、上々の出来だと思います」と、新たな挑戦を満足のいく形で成し遂げたことに安堵の表情を浮かべていた。

コロナ禍の昨年11月に配信公開されたアメリカでは、配信初週に記録的な視聴者数を叩き出すなど話題沸騰。日本ではより臨場感と緊張感を味わえる大スクリーンで体感できるだけに、是非とも劇場に足を運び、未来のスリラー映画界を担う鬼才の驚くべき手腕を目撃してほしい。

構成・文/久保田 和馬