映画やテレビドラマに撮影可能なロケ地の情報を提供し、案内、調整もおこなう組織「東京ロケーションボックス」は、映像作品を通して東京の魅力を国内外に発信しながら、ロケ撮影で地域活性化を図ることを目的としている。
その活動内容の紹介として、実際にサポートを受けた作品にフォーカスするこの企画。今回は、『東京リベンジャーズ』(公開中)より様々なロケ地をピックアップし、映画にどのような彩を加えているかを見ていく。

本作は、「週刊少年マガジン」で2017年より連載が開始されて以降、いまなお多くの読者を熱狂させ続け、累計発行部数1000万部を突破した和久井健による超人気コミック「東京卍リベンジャーズ」の実写映画化。ヤンキー×タイムリープという異色の組み合わせを軸に、観る者の心を揺さぶる、胸アツの青春ドラマとして完成させたのは、『映像研には手を出すな!』(20)や『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』(公開中)などのヒットメーカー、英勉監督。主人公のタケミチを演じる北村匠海をはじめ、吉沢亮、山田裕貴、磯村勇斗、今田美桜ら人気、実力共に最強の若手キャストが集結した。

定職に就かず、うだつが上がらない日々を送るタケミチ(北村)は、ある日、テレビのニュースで、高校時代に付き合っていた人生唯一の彼女であるヒナ(今田)が、弟のナオト(杉野遥亮)と共に事故に巻き込まれて死亡したことを知る。2人の死に衝撃を受けた翌日、駅のホームにいたタケミチは何者かに背中を押されて線路へ転落。電車が目の前に迫った次の瞬間、タケミチがいたのは、自身が負け犬人生を歩むきっかけとなった10年前の高校時代だった。この時代に、ヒナを救う唯一の方法があると知ったタケミチは、現在と過去を行き来しながら、ヤクザも恐れる危険な組織「東京卍會(通称トーマン)」を消滅させようと奔走する。

■渋谷のスクランブル交差点や日暮里駅近くの穴場な公園でも撮影

タケミチが最初のタイムリープで行き着いたのは、10年前の渋谷。赤髪のリーゼントが特徴的なアッくん(磯村)をはじめとする同級生5人と、ちょうどこれから他校生に殴り込みをかけに行くというタイミングだ。怖いものなどなく、調子に乗っていた高校時代に戻ったタケミチが、懐かしい仲間と一緒に意気揚々と渋谷の街を歩くシーンは、人出の少ない早朝をねらって、実際に渋谷のスクランブル交差点で撮影されている。人通りの多さで世界的にも有名な渋谷スクランブルは、その要望の多さとは裏腹に、最も撮影のしにくい場所として知られている。ここは、“東京”が舞台の映画ながら、神奈川、千葉、埼玉など広いエリアでロケをおこなった本作において、東京のど真ん中で撮影できた貴重なシーンだ。

この後、タケミチたちがキヨマサら上級生の不良グループにボコボコにやられてしまうシーンは、原作設定の渋谷ではなく、台東区立芋坂児童公園で行われている。日暮里駅から陸橋を渡ってすぐ、線路とコンクリートに囲まれた公園で、普段ほとんど人がいない谷中の穴場的スポットだ。中央の広場で打ちのめされたタケミチたちは、この日を境にキヨマサの奴隷となり、地獄の日々が始まることになる…。

■真冬の寒さのなか、北村匠海らの熱心さが印象的だった隅田川テラス

2度目のタイムリープをしたタケミチが、トーマンのツートップであるマイキー(吉沢)とドラケン(山田)に初めて出会う喧嘩賭博のシーン。大勢のヤンキーが広い階段に集まって、タケミチとトーマンのメンバーであるキヨマサ(鈴木伸之)のタイマンを、熱狂しながら見物する様子はまさに原作コミックのイメージどおり。広々とした階段があり、なおかつ大人数のキャストとスタッフがいても、混乱なく撮影できる場所として選ばれたのが隅田川テラスだ。

隅田川の両岸約47kmのうち、約28kmの区間がきれいに整備され、都心の貴重な水辺空間として、ウォーキングやランニングをする人たちにも人気の隅田川テラスだが、ロケが行われたのは、もともと人通りがほとんどない墨田区の堤通付近。派手なシーンにもかかわらず、ギャラリーが集まることはまったくなく、じっくりと撮影に集中することができたという。

カメラを川に向けると、東京スカイツリーが見えるほのぼのとした雰囲気が出てしまうため、あくまでも首都高速の下の階段部分を中心に撮影。美術装飾では、落書きを施したコンクリートパネルを細かいピースで用意し、それらをつなぎ合わせてもとの壁面に貼ったり、壊れた自転車や工事用具、張り紙やゴミなどを配置したりと、時間をかけて不良の集まる荒廃した広場の雰囲気を演出していった。

このシーンの撮影に、最初に取り組んだのは2020年3月末だったが、コロナ禍の影響で一時中断。2021年1月の追加撮影を合わせて、トータルで5日間が費やされた。夏という設定のシーンだったため、特に2回目の1月は、半袖姿のキャストたちが寒さを耐え忍びながら撮影を行う厳しい現場に。そんななか、主役の北村がちょっとした空き時間を見つけては、アクション監督の諸鍛冶裕太に指導を仰ぎ、何度も入念にアクションのチェックをする姿が印象的だったそうだ。

隅田川テラスは“ロケのメッカ”として知られており、勝鬨橋付近では北野武監督作『アキレスと亀』(08)、中央大橋の印象的な大友啓史監督作『3月のライオン前・後編』(17)など、多くの映画やテレビドラマ、CMで使われてきた。隅田川にかかる橋はそれぞれに独特の趣があり、クリエイティビティを刺激し続けている。そんな河岸を、首都高速とその橋脚や階段の位置関係から違和感なく劇中にフィットさせた創造力もまた、映画づくりの醍醐味と言える。

■普段とは違う顔も見られる土手を使ったシーンが次々と登場

現在パート、過去パートともに、川沿いの土手が印象的なシーンで何度も登場する。例えば、学校を抜けだしたタケミチ、マイキー、ドラケンが自転車でのんびり走る土手は、荒川の綾瀬橋付近。タケミチとアッくんが自転車で2人乗りをしながら将来を語るシーンは、江戸川の流山橋付近など、何か所もの河川敷で撮影が実施されている。広い空とキラキラ光る川面、ゆったりとした空間は、観ているだけで清々しい気持ちになり、キャラクターたちのいつになく素直で優しい表情にもグッと胸をつかまれる。

ほかにも、本作では様々なロケ地で撮影したシーンを使用し、 “東京”という舞台を作り上げている。半殺しにされ、これからの日々に絶望するタケミチはボロボロの姿のままヒナに会いに行き、優しく傷の手当てをしてもらう。その帰り道、中学生のナオトに遭遇するヒナのマンション近くの公園は、千葉県流山市にある平和台2号公園。住宅街の公園にしては広めの面積で、タケミチはチンピラに絡まれていたナオトを助け、「10年後に死ぬ運命にある姉を守れ!」と必死の想いで訴えたことがきっかけとなり、未来が変わり始める。

また、最初のタイムリープから戻ったタケミチが、大人になったナオトと再会する駅に、千葉県成田市の京成電鉄東成田駅。ヒナと出かけた夏祭りの途中、タケミチがキヨマサたちにボコられてしまう神社の人気のない場所には、神奈川県伊勢原市にある相模國三之宮 比々多神社を使用するなど、思わず訪ねてみたくなるようなロケ地が多数登場する。その撮影にまつわるエピソードを知れば、さらに作品を観る楽しみが増えるに違いない。

文/石塚圭子