『パラサイト 半地下の家族』(19)などで知られる名優ソン・ガンホが主演を務める『王の願い ハングルの始まり』(公開中)。タイトル通り、ハングルの始まりを描く本作でスポットを当てられているのが、世宗大王と呼ばれる王の半生。これまで幾度となく映像化されているものの日本人にはあまりなじみのない世宗とは、どんな人物なのか? 

■銅像にお札まで!映像作品でもたびたび取り上げられてきた英雄

朝鮮王朝の歴代の王の中でも、すぐれた王だけに与えられる称号“大王”としてその功績が称えられている世宗。韓国・ソウルの光化門広場には高さ6.2mほどの銅像が建てられ、さらに1万ウォン紙幣にも彼の肖像画が使用されているほど。さらには世宗特別自治市など国の重要なプロジェクトにその名が当てられるなど、韓国では知らない人はいない偉人にして、国民的英雄だ。

朝鮮半島最後の統一国家、李氏朝鮮の祖である李成桂の5男で第3代国王となった太宗を父に持ち、自身も3男でありながらも、長兄が政治に興味のない自由奔放な人物であったため第4代国王に就任すると、李氏朝鮮の全盛期を作り上げた。

多岐にわたる特徴的な政策はもちろんのこと、王に即位したあとも、陰で実権を握っていた太宗が王権強化のために世宗の義父を処刑してしまうという、ドラマチックな悲劇も経験してきたため、映画やドラマの題材としても幾度となく取り上げられてきた。

たとえば、ハン・ソッキュが世宗に扮した「根の深い木」(11)では、先述の義父の処刑をきっかけに始まる復讐ミステリーが語られた。忠寧大君が世宗になるまでを描いたチュ・ジフン主演の『私は王である! 』(12)では、父の圧政に心を痛め、民のための政治を決意する真摯な人物像に焦点が当てられている。

また、科学的発展にも大いに貢献した世宗。「チャン・ヨンシル 〜朝鮮伝説の科学者〜」(16)や『世宗大王 星を追う者たち』(19)といった作品では、奴婢の身分だったチャン・ヨンシルのすぐれた頭脳を認めて武官に任命すると、様々な困難に立ち向かいながら彼を支え、天体観測器や水時計を生みだしていくという快挙がなされていく様子が描かれた。

■教育、科学にまつわる様々な制度を制定!

そんな彼の最大の功績といえば、やはりハングルの創製だ。朝鮮語を表記する固有の文字を持っていなかった15世紀、朝鮮半島。限られた高い身分の知識層は漢字を用いていたが、民衆たちには書記手段がなく、そのため学問を学ぶこともできなかった。そんな状況を変え知識を民にも分け与えようとする晩年の世宗を題材にしているのが『王の願い ハングルの始まり』だ。

1442年、漢字で書かれた多くの書物は民衆の目に触れることなく書架に眠り、もはや紙クズ同然という状況に。これに業を煮やした世宗は、「庶民が学びやすい朝鮮独自の文字を、どうにかして創り上げたい」という思いを強くしていく。

そんな時、父の太宗と約束を交わしていたという僧侶たちが仏教聖典「八萬大蔵経」の原版を受け取りに倭からやってくる。国宝同然の原版ゆえ、簡単には手放すことができない王。打開策を見いだせなかったところ、何か国もの言葉を操るシンミ和尚(パク・ヘイル)が倭の僧侶たちをサンスクリット語で説得。その様子を知った世宗は、彼に文字作りの協力を依頼することに…。

ハングル創製にまつわる空白の部分を大胆にアレンジしている本作。実際に交流があったことがわかっているシンミ和尚と世宗という二人、儒教を国教とし抑沸政策を行った李氏朝鮮の王と僧侶が手を取り合ってハングルに取り組むというドラマチックな要素を入れ込んでいる。

仏教徒と協力するということに加えて、権力の象徴である文字が庶民に広まることに危機感を抱く臣下たちの反発をはねのけ、命を懸けてハングルの創製、そして普及に尽力していく世宗。彼がどれだけ民に尽くす王だったかという点も強調されて描かれており、韓国で世宗がどのような人物として捉えられているかがよくわかる作品となっている。

民のための政治を全うし、数々の偉業を成し遂げた世宗大王。彼の功績や人柄をぜひ映画を通して知ってほしい。

文/サンクレイオ翼