山田洋次監督が映画への愛を込めた最新作『キネマの神様』(8月6日公開)で、昭和のスター女優、園子役に抜てきされた北川景子。一瞬にして周囲を惹きつける存在感を漂わせ、うっとりするほど美しい園子役に、見事な説得力を持たせている。銀幕スターを演じることに「プレッシャーがあった」と告白する彼女だが、本作は自身の出産前、出産後の両方の姿が収められた特別な作品となったと明かす。撮影と妊娠期間が重なったことで「皆さんにご迷惑をおかけしてしまうのでは」と不安を抱いていたそうだが、それを取り除いてくれたのは、山田監督からの温かな激励の言葉だったという。北川が、往年のスターの空気を“吸い込みながら”挑んだ役作りの秘密や、本作からもらった女優として歩む勇気について語ってくれた。

■「自分でいいのかな?というプレッシャーと日々戦っていました」

松竹映画100周年記念作品となる本作。いまや妻や娘にも見放されたダメ親父だが、ひたすらに映画を愛し続けた男、ゴウを主人公に、時代を越えた愛と友情、家族のありようを描く。過去パートのゴウ役を菅田将暉、現代パートを志村けんが2人1役で演じる予定だったが、志村が2020年3月29日に急逝。志村の遺志を引き継いだ沢田研二が、現代のゴウ役を演じた。

北川扮する園子は、映画黄金期と言われた1950年代から60年代に活躍した昭和の銀幕スター。華やかさと気品を兼ね備えつつ、撮影所で働くゴウや、彼に想いを寄せる淑子(過去パート:永野芽郁/現代パート:宮本信子)を実の弟妹のように気にかけ、現場の誰からも慕われている女性だ。役を引き受けた心境を聞いてみると、北川は「撮影が終わるまで、ずっとプレッシャーがありました」と打ち明ける。

「松竹さんにとっても特別な作品。山田監督とご一緒させていただくことも初めてでしたし、とても緊張しました」と吐露。「山田監督と言えば、たくさんの名作を生みだしている巨匠で、すばらしい女優さんたちを撮ってこられた方です。脚本を読むなかで、園子という役は『山田監督がお会いになって心に残っている女優さんたちとの思い出や、いろいろなエッセンスが詰め込まれた役柄なんだろうな』と感じました。すてきな女優さんたちを目にしてきた山田監督の前で銀幕女優の役をやるとあって、『自分でいいのかな?』と日々プレッシャーと戦っていました」と語る。

北川は「当時の女優さんって、いまよりもずっと“雲の上の存在”だったと思うんです」と園子役にあらゆるハードルを感じたという。

「映画が一番の娯楽だった時代に、観客の方々が『この人のクローズアップやワンカットがあるだけでも、いいものを見た!』と思えるような、本当に選ばれた人だけが、スクリーンに映っていたんだと思います。『現代を生きる自分が、匂い立つ雰囲気やまとっている空気まで昭和の銀幕女優になるためには、どうしたらいいんだろう?』と考えることが、今回のテーマになりました」とひたむきに役柄と向き合った。

■「山田監督の思い出話が、イマジネーションを掻き立ててくれた」

不安があったという北川だが、完成披露舞台挨拶のステージでは山田監督が「撮っていて、うっとりするくらいきれいな人。あるワンカットは、彼女が出ている映画やテレビドラマのなかでも一番きれいだと密かに自負しているカットがある」と、園子役とのハマり具合を絶賛していた。

山田監督も惚れ込むほどの園子を作り上げるうえで、当時ならではの衣装やヘアメイクにも大いに助けられたと語る。北川は「今回いろいろな衣装やカツラを用意していただき、ヘアスタイルも何パターンか変えていって。衣装さんやメイクさん、 結髪さん(髪を結う職人)など皆さんが作り上げてくださったものが、ものすごく役作りの助けになりました。劇中では『東京物語』へのオマージュとなるシーンがありますが、あそこは『東京物語』の実際の衣装やカツラ、メイクとそっくりにしてくださったんです。本読みをしているだけではわからない部分が、扮装をしてその時代のセットに入るとつかめるような感覚がありました」。

さらに「画像を検索したり、写真集を見たり、これまでの松竹映画の名シーンを載せた本を読んだり…」と時代の空気を吸い込んだというが、山田監督と話すなかで大きなヒントを得たという。

「山田監督から、昔の撮影所についてのお話をたくさん聞くことができました。『撮影が終わった後には、みんなで撮影所の食堂でご飯を食べたんだよ』とか、『原節子さんはとてもカジュアルな方で、大きな口を開けてカラッと笑う方だった。演じる役柄とギャップがあるけれど、そういったところもとてもすてきだった』など貴重なお話ばかり」だったそうで、「原さんのギャップについてのお話を聞いて、スクリーンのなかの園子と、撮影所の仲間と話したり、ゴウや淑子ちゃんと出かけたりするプライベートの園子とでは、雰囲気を変えられたらいいなと思いつきました。監督の話してくださる思い出話が、ものすごく自分のイマジネーションを掻き立ててくれました」としみじみと語る。


■「これからも役者という仕事を諦めず、果敢に挑戦していきたい」

北川は、2020年秋に第1子となる女児を出産した。本作の撮影中に子どもを授かっていたそうで、「まだ皆さんに報告していない時期で。山田監督に一番にお伝えしました」というが、妊娠期間と撮影が重なったことで「皆さんにご迷惑をおかけしてしまうかもしれない」との想いがよぎることもあったと告白する。

「園子役をいただいた時は、子どもを授かるとも思っていませんでした。お腹もだんだん大きくなってきますので、妊娠していない状態で衣装合わせしていたものが、徐々に入らなくなってしまうのではないか…という心配もよぎり、『各部署の方にご迷惑をおかけしてしまうのではないか。どうしよう』という気持ちが強かったです」と憂慮した。しかし山田監督に報告したところ、「いいお母さんになってくださいね。子どもを持つという経験がまた女優業をやっていくうえで糧になって、成長できるでしょうから、次のステップに行っても頑張ってください」という温かな言葉をかけてもらったのだとか。

北川は「心配があったり、それを感じさせないようにしっかりと働きたいと思ったり、いろいろと考え込んでしまっていましたが、山田監督からそういった言葉をかけていただけたことが、ものすごくうれしかったです」とにっこり。「山田監督がおっしゃるように、“人生経験を積む”ということが、役者にとっては大切なんだなと改めて思いました。励ましをいただいたことで、元気な子どもを産もうという勇気と共に、『これまでと同じように…とはいかないかもしれないけれど、これからも役者という仕事を諦めずに、ご縁がある作品には果敢に挑戦していきたい』と感じました。『私はこの仕事が好きなんだな』と実感することもできた」と山田監督の言葉から、大きな力をもらったと語る。

また「スクリーンには、子どもを授かってお腹にいる時の私と、出産後の私、どちらも映していただいているんです。そんな機会も、なかなかないですよね」と微笑みながら、「そういった意味では、松竹映画100周年記念作品であり、山田監督と初めてご一緒させていただいた作品であり、人生の節目を残していただいた作品。私にとって、忘れられない作品になりました」という。そう話す笑顔はハッとするほど美しく、母となり、年齢を重ねていく北川景子のこれからがますます楽しみになった。

取材・文/成田 おり枝