2020年に100周年を迎えた松竹映画の記念作品として製作された『キネマの神様』(公開中)。名匠、山田洋次監督が、志村けんからバトンを引き継いだ沢田研二と菅田将暉をダブル主演に、“映画の神様”の存在を信じ続けた男とその家族に舞い降りた奇跡を描いている。物語は現代と過去を舞台につむがれていくが、何といっても目を奪われるのは、主人公が青春時代を過ごした1950〜60年代のノスタルジックな世界!そこで今回は、『キネマの神様』が映しだすクラシカルファッションと、日本映画の黄金期の息吹が伝わる世界観の作り込みに注目したい。

無類のギャンブル好きで家族からも見放されたダメ親父のゴウこと円山郷直(沢田)は、行きつけの名画座の館主であるテラシンこと寺林新太郎(小林稔侍)とともに、かつて映画の撮影所で働いていた。才能に恵まれた助監督のゴウ(菅田)と映写技師だったテラシン(野田洋次郎)は、充実した日々を送りながら将来の夢を語り合う。

■“昭和の銀幕スター”になり切った北川景子によるエレガントなファッション

北川景子が演じるのは、ゴウとテラシンが通う撮影所の女優である桂園子だ。憧れの存在でありながらも、1日中ともに過ごすスタッフからは家族のように慕われている。プライベートではペールブルーのトップスとペールピンクの細身パンツにビタミンイエローのヘアバンドを合わせたり、スカートスタイルにベージュの上着でノーブルにまとめたり…。胸元に赤い花柄のスカーフ&赤い花柄のヘアバンドをあしらったりと、 “昭和の銀幕スター”ならではの小技の効いたエレガントなファッションに身を包んでいる。

また、ゴウたちとドライブに出かけるシーンでは、ボーダーのニットにペールグリーンの細身パンツ、そして大振りの花柄が入ったペールピンクのストールを頭に巻き付けた“真知子巻き”も。その都会的ないで立ちにサングラスをかけ、オープンカーを運転する姿が最高にカッコいい。

その一方、演者の衣装では浴衣姿も披露!上品な色気が漂い、はっとさせられる美しさだ。劇中では、現代のゴウが映画館で観ているモノクロ映画のワンシーンとしてこの浴衣姿のカットが登場し、時空を越えていく。山田監督が熱望し、VFX監修として山崎貴監督が参加したことで実現された、大切なシーンなのでお見逃しなく。

■明るく朗らかな人柄が伝わる黄色をポイントとする衣装に身を包んだ永野芽郁

そして現代パートでは宮本信子が務めたゴウの妻である淑子役に、過去パートでは永野芽郁が扮している。淑子はゴウや撮影所のスタッフが集う食堂“ふな喜”の看板娘で、ゴウに恋心を抱いている。初監督作の失敗から撮影所を去り、少しずつ酒やギャンブルに溺れていったゴウに、約50年たっても寄り添い続ける愛情深き女性だ。

劇中の淑子は、小さい花柄のワンピースにカーディガンを羽織るのが定番のスタイル。カーディガンの色合いはマスタード、レンガ、ブルーなどバリエーションが豊富だが、ポイントとなるイメージカラーはイエロー。明るく朗らかな人柄を黄色で象徴し、スカートスタイルがフェミニンな印象を与えている。

また、ゴウや園子たちと行ったドライブでは、ストライブの入ったワンピースにペールイエローのカーディガンを重ね、いつもよりも少し大人びた雰囲気に。密かに淑子に想いを寄せているテラシンがカメラを掲げて「写してもいいですか?」と質問する声に、「もちろん!」とにこやかに微笑む姿が生き生きとしていて、撮影所スタッフに人気があるのもうなずける可愛らしさだ。

■撮影所、スタッフが集う食堂…。当時の息吹まで織り込んだ1950〜60年代の再現シーン

人気小説家の原田マハによる同名小説を原作に、物語の主人公を“映画を愛する者”から“映画を制作する者”に変えて展開していく本作。

1950年代半ばに松竹に入社し、松竹大船撮影所で助監督として忙しい日々を過ごした山田監督の想いも投影され、夢と活気に満ちた当時の息吹を伝えてくれる。

映画スタッフたちの憩いの食堂“ふな喜”は、山田監督が助監督時代に顔を出していたという実在した「松尾食堂」がモデルとなっている。劇中では園子が撮影終わりの夕食をとったり、ゴウの師匠である出水宏監督(リリー・フランキー)や映画スタッフが打ち上げをしたりと何かと登場するが、当時は川島雄三監督や大島渚監督などが通う、なじみの店だったという。

そして淑子が出前を届ける映写室も細部まで作り込まれている。映写技師のテラシンは日がな映写室にこもってフィルムの状態をチェックしているが、今回セットとして設置されたフィルム映写機とデジタル映写機は本物を使用。壁に張られたメモ書きや膨大ながら整然と置かれたフィルムなど興味深い。

さらに劇中では小津安二郎監督の名作『東京物語』をオマージュしたシーンや、ゴウが出水監督に無茶ぶりされる海辺のシーンなど、映画ファンなら思わずニヤリとしてしまう映画の撮影シーンが数々登場する。また、大きな二つの円盤が特徴的なフィルムカメラも独特の味わいがあって、一見の価値ありだ。

がむしゃらになって夢を追いかけた“夢追い人”たちの哀愁を謳い上げたRADWIMPS feat.菅田将暉による主題歌「うたかた歌」が本作を彩る。そのしみじみとした情感と共に、映画を心から愛し、映画とともに青春の日々を駆け抜けた者たちの熱き想いをかみしめたい。

文/足立美由紀