「原作を元にしたものからドラマオリジナルまで、実写化していただくにあたり各監督の素敵な持ち味を出していただいています」とは、原作者のノッツのコメント。『月刊コミックフラッパー』にて連載され、単行本にもなった『初情事まであと1時間』がドラマ化され、1話完結のオムニバス形式で現在、放送&配信されている。

監督・脚本に参加したのはバラエティに富んだこの4人――橋口亮輔、三浦大輔、大九明子、谷口恒平なのだが、ひときわ目を惹くのは『ぐるりのこと。』(08)や『恋人たち』(15)などで日本映画史にしかと名を刻む橋口監督だろう。橋口監督のキャリアからは異色とも思えるプロジェクトへの参加と、新作の構想までを独占インタビューで聞いた。

■「やっぱり僕はヘンなことをやりがちで、『特殊なんだなあ』とも思いましたね(笑)」
「全12話のうち、僕が引き受けた3話分はすべてオリジナルの作品です。タイトルが謳っているようなこと、つまり最後は必ずエッチに至るとか、『初情事まであと何分』とテロップを入れるとか、ある程度の決まりごとはありましたが、それだけ守ればあとは自由でした。ただ、こういった題材ですと、どうしてもメインの2人の密室劇でシリアスなものになりがちです。シリーズ物で同じような話が続くと視聴者も飽きるだろうと。もしそうなってしまったら、つまらないじゃないですか。なので、僕の担当回は軽いコメディ色を持たせようと努めました」と、橋口監督は当プロジェクトでの自身のスタンスをまず明かす。

すでに放送済みの第1話「心の容れ物」は、工藤阿須加と臼田あさ美がカスタムドールの愛好家を演じた。オフ会で出会って意気投合、ついにホテルへ行くと彼女の提案で互いの大切なドールを2体、ベット近くに置くことに。その目の前で2人は愛を交わそうとする。「人形といえども“他者の目線”があると、倒錯的で妙な高揚感が生まれる。プロのモデラ―に作ってもらうカスタムドールというのは奥が深く、自我と密接な関係があり、自意識とも連動しているんですよね。〈ロボットは人の心の容れ物だ〉という『ブレードランナー』や『∀ガンダム』などの世界的デザイナー、僕の好きなシド・ミードの考え方に沿って、人間のようで人形、そして人形のようで人間的な不思議な世界を探ってみました」。

これだけで、単なる「性春ドラマ」ではないことがわかるはず。作家性に秀でた4人のクリエイターたちの競作が楽しめる企画なのだ。そんな番組の特性についてはこう語る。「例えば富士山の絵も、画家によって色遣いや筆のタッチが違うものになる。同じ景色を見ていても、物事の捉え方が個々の視点で変わるんです。ほかの方の作品を先に拝見しましたが、どれもとてもユニークでおもしろかった。で、やっぱり僕はヘンなことをやりがちで、『特殊なんだなあ』とも思いましたね(笑)。ディテールへのこだわりと物語の粒立て方が」。

間もなくオンエアされる第8話「鍋の中」の主演は細田佳央太と大友花恋。監督を手掛けた自主映画で準グランプリを受賞した映画青年と女優志望の役である。2人を合わせて“一方通行の恋”をしている若者5人が一つの鍋を囲み、それぞれの想いを沸騰させながら交錯させる。

「細田くんにお願いした主人公はちょっと天然。運だけで賞を獲ってしまったような青年なんだけど、悪いヤツではないんですよ。屈託がなく真っ直ぐで誰をも惹きつける魅力があり、それこそ劇中のセリフにあるように“お日様”の匂いがするナイスガイなんですが、報われない人の気持ちには無頓着で、心の機微に疎いんです。花恋さんのほうは、計算高くて特に同性からは嫌われる女の子像。2人ともよく演じてくれましたね。きっとやりにくいだろうから花恋さんには、自分のことを『絶対に間違っていない』と思い込んで、終始振舞ってほしいと伝えました。僕もそうだし、おそらく視聴者の皆さんも残りの3人に感情移入することでしょうけれど、後ろめたさのまったくない、浮きまくったこの美男美女のカップルはある意味、最強の存在なんです」。

■「遺作が『ずっくん』ならば全然後悔はしません。それくらい好きですね」
もう一本、第12話の「ずっくん」では篠原篤、成嶋瞳子という、橋口監督のワークショップから輩出されたあの『恋人たち』の主演コンビの再タッグが実現している。タイトルロールを演じたのは篠原篤だ。「『恋人たち』のころよりも太った篠原がね、さらに肥えてしまった時だったんですね。彼を生かせるシチュエーションを考えなければ…と頭を抱えていたら大津の体験談を耳にしまして」。“大津”とは彼もまた、『恋人たち』に出ていた役者、バイプレイヤーとして知られる大津尋葵のことである。

さらに橋口監督は続ける。「大津とは前からたまに飲む機会があったのですが、バイト先の都内のカラオケ居酒屋店の同僚、巨漢の男が愛称“ずっくん”だったんです。どうやら世間のレールから外れた吹き溜まりみたいなところで、けれどもバイトの仲間同士が尊重しあって助け合い、しかもみんなに愛されているという“ずっくん”の話を聞いて、これは群像劇ができるな、と。急いで言い添えておきますが、もちろんアレンジを施し、実話はドラマには入れていません」。カーくん役を演じた大津尋葵に関しては、原案を提供してくれたのでキャスティングしないわけにはいかず、「ダブル主役扱いにしました(笑)」と橋口監督は冗談めかしたが、「今回の3作品の中では一番自分の心情に近いというか、万が一、いま、僕になにかあったとして遺作が『ずっくん』ならば全然後悔はしません。それくらい好きですね」と言い切った。

■「あっけらかんと、世の風潮を笑い飛ばすようなコメディを撮りたいです」
テレビドラマに関わるのは久々で、脚本では2006年のNHKドラマ「みちくさ」(演出・西谷真一)、演出となると1997年の深夜ドラマシリーズ「恋、した。」の第12話、片岡礼子主演「出走!ラビアン・ローズ」以来となる。このコロナ禍で厳しいなか、オファーを引き受けたのは、「監督の仕事というのは自分の作品に携わるだけではなく、キャストやスタッフのために仕事を生みだすことも含まれている」から。

さて、今後の映画の新作も気になるところ。企画は進行中だという。「3本ぐらい同時に考えています。一本は“堕落” をテーマに主役の俳優さんもすでに決めている。あと、『ハッシュ!』のその後というか、続編的なものもどうかと。これに関してはけっこう迷っていますね。どれもなかなか定まらず、中学の時に英語の先生によくかけられた『惜しいなあ、橋口はわかってるんだけどなあ…』という言葉を思い出します(笑)。こんな時代だからこそ、あっけらかんと、世の風潮を笑い飛ばすようなコメディを撮りたいです。敬愛する木下惠介監督が戦後の逆境に放った『カルメン故郷に帰る』みたいな、秋の突き抜けた青空みたいなコメディをね」。時間はいくらかかっても大丈夫。ゆっくりと、期して待とう。

取材・文/轟夕起夫