累計発行部数470万部を突破した東野圭吾の人気シリーズ小説を映画化し、興行収入46.4億円をたたきだした『マスカレード・ホテル』(19)。その大ヒットシリーズの第2弾『マスカレード・ナイト』が公開中だ。ホテル・コルテシア東京を舞台に、木村拓哉が演じる破天荒な警察庁捜査1課の刑事の新田と、長澤まさみによる生真面目なホテルマンという異色バディが難事件に挑む本シリーズ。狡猾な犯人との攻防戦にドキドキする一方、接客にあたる一流ホテルのホテルマンたちの洗練されたサービスにうっとりさせられる。そこで今回は、『マスカレード・ナイト』が描く“ホテルマンのモットー”について探ってみたい。

■「無理です」は禁句!ホテルのルールはお客様が決める
大学受験の際ホテル・コルテシア東京に宿泊し、ホテルマンの心くばりに感銘を受けたという山岸。そんな彼女は「無理です」を禁句に、お客様からのどんな要望でも“ホテルとして当たり前のサービス”として提供するよう心掛けている。

本作に登場するコルテシア東京の宿泊客、日下部篤哉(沢村一樹)は、大切に思っている女性との時間を特別なものにするため、すでに予約が多数入っているホテル内のレストランを貸し切りにするよう山岸に申し付ける。また、一人旅でやってきた秋山久美子(田中みな実)はホテルの権限が及ばないようなことについて無茶ぶりし、ワケありそうな仲根緑(麻生久美子)は写真と全く同じに再現した “思い出のケーキ”を作るよう願い出る。

特殊な事情を抱えたゲストたちは、時には無理難題と思えるような要望をすることもある。しかしそんな依頼をワガママだとむげに断ることなく、いかに実現させるかがホテルマンの腕の見せどころ。その高い志とホスピタリティ力を見込まれ、ホテルクラークからコンシェルジュへと昇格した山岸は、ゲストから寄せられるリクエストにあっと驚くアイデアで次々と応えていく。

前作では、チェックアウトの混雑をなんとかしろと詰め寄るゲストを新田が激怒させてしまったことがあった。山岸に注意された新田は「順番を待つのは小学生でも分かるルールだ」と反論するが、対する彼女は「ここではルールはお客様が決める。だから私たちはそのルールに従わなければなりません」と諭していた。これらのシーンからも、ホテルマンのモットーとして“お客様ファースト”という精神があることが分かるだろう。

■お客様を信じる!“宿泊客”という仮面の下の素顔をのぞくことなく最上のおもてなし

一流ホテルであるコルテシア東京にはエグゼクティブやセレブリティ、家族連れなど様々な利用客が訪れる。特別な時を過ごしたい彼らは普段とは異なる“よそいき”の顔をしていて、本シリーズではその秘匿性を“仮面(=マスカレード)をかぶっている”と例えている。


そしてホテルマンたちも決してその仮面の下の素顔をのぞこうとはせず、ゲストが不自由に感じることがあればケア&アシストし、たとえその利用が不倫であってもプライバシーに干渉することなく、最上のもてなしをするべく奔走するのである。

その根底にあるのは「ただ我々はホテルのサービスを提供するだけ」というホテルマンのモットー。ただし、その提供サービスの適用範囲は驚くほど広い。本作では山岸が「お客様を信じる」と断言するシーンがあるが、そこにはゲストとホテルとの間にある種の信頼関係が築けていることが見てとれる。その信頼があるからこそ、ゲストはゆったりとくつろいで滞在することができるのだ。

■“人を疑う”刑事と “人を信じる”ホテルマンという真逆の立場

しかしホテルマンたちが誠心誠意作り上げた最高のひと時が、事件によって妨げられてしまう。コルテシア東京で12月31日に行われる年越しカウントダウンパーティ「マスカレード・ナイト」に殺人犯が現れるという匿名の密告が警察に届き、新田を始めとする多数の刑事たちがホテルの潜入捜査を開始したのだ。

捜査官たちはパーティの招待客500名を容疑者として扱い、その動向を常に監視することに。そして “人を疑う”刑事とは真逆の“人を信じる”ホテルマンという、まさに“水と油”な新田と山岸は、お互いの立場の違いからまたしても衝突してしまう。

前作で山岸から「ホテルマンの仕事を甘く見ないでください」と告げられた新田は、彼らのホスピタリティ・マインドを目の当たりにすることによりホテルマンに対して敬意を払うようになった。一方、 “死”のカウントダウンが始まったコルテシア東京で今度は2人にどんな出来事が降りかかり、何を学び取っていくのか。そんな成長のドラマも本作の見どころの一つとなっている。

■「一歩足を踏み入れると別世界」ゴージャスで重厚感あるホテル・コルテシア東京

山岸らホテルマンたちが誇りをもって働くコルテシア東京は、重厚感あるラグジュアリー・ホテルだ。ホテルの入り口正面にはクラークが接客にあたるフロント、入り口から向かって左手にはコンシェルジェデスクがあり、山岸はこのデスクに陣取りゲストからの特別なリクエストに応えている。このコルテシア東京のロビーは前作と同じく東宝スタジオに作られたセットで、シンメトリーを意識した空間の中に機能性と優美さを兼ね備え、訪れる者を別世界へと誘う。

また、原作者である東野がロイヤルパークホテル(東京・日本橋)をモデルに「マスカレード」シリーズを手掛けたのはよく知られるところだが、マスカレード・ナイト(=仮面舞踏会)のパーティシーンはこのロイヤルパークホテルの宴会場を貸し切りにして撮影。仮面をつけた者しか入場できないパーティ会場では思い思いの仮装に身をつつんだ招待客がさんざめき、正面にディスプレイされた真っ赤なベネチアンマスクが本作にミステリアスな華を添えている。

コルテシア東京のホテルマンがゲストの出発の際に「お気をつけていってらっしゃいませ」と声をかけるのは、ホテル外では無力な彼らには幸運を祈ることしかできないからだという。新田と山岸は、お客様という仮面の上にさらに本物の仮面をかぶったパーティの参加客の中から犯人を見つけ出し、ホテルにいる人々を守ることができるのか?手に汗握る犯罪サスペンス劇とともに、ホテルマンたちが心に掲げるモットーにも注目してほしい。

文/足立美由紀