アニメーション映画としてアカデミー賞史上初の作品賞候補となり、名作曲家アラン・メンケンが作曲賞&歌曲賞を受賞した『美女と野獣』(91)や、劇中歌「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」で社会現象を巻き起こした『アナと雪の女王』(13)。古くは「いつか王子様が」の『白雪姫』(37)に、「星に願いを」の『ピノキオ』(40)など、ディズニー映画は時を経ても色褪せることなく、初めて聴いた時の感動がみずみずしく甦る名曲の宝庫である。

特に近年は、多様なジャンルで活躍するアーティストがディズニー音楽を手掛けることも珍しくなく、ディズニー傘下の20世紀スタジオ最新作『ロン 僕のポンコツ・ボット』(公開中)では、ボーイズグループ、ワン・ダイレクションのメンバーである、リアム・ペインとコラボした主題歌が話題を集めている。そこで今回、近年のディズニー映画とビッグアーティストとのコラボレーションをピックアップし、どのように作品を彩ってきたのか振り返ってみたい。

■『美女と野獣』(17)×アリアナ・グランデ&ジョン・レジェンド

冒頭でも紹介したディズニーアニメーション不朽の名作をエマ・ワトソン主演で実写化。魔女の呪いによって野獣の姿に変えられてしまった王子と、彼の前に現れた聡明で心優しい女性ベル。孤独な魂を抱えた2人の出会いが、やがて互いの運命を大きく変えていく。

名曲ぞろいの本作のなかでもひときわ高い人気を誇るのが、主題歌「美女と野獣」だ。アニメーション版においてセリーヌ・ディオンとピーボ・ブライソンが歌っていたこの楽曲のエンドロールバージョンが、ポップカルチャー界の歌姫アリアナ・グランデと、R&B界の大スター、ジョン・レジェンドによるデュエットで生まれ変わった。

圧倒的な歌唱力を誇るグランデは、世界中の有名アーティストがディズニーの名曲を歌うディズニー・ソング・アルバム「ウィ・ラヴ・ディズニー」に『ヘラクレス』(97)の「ゼロ・トゥ・ヒーロー」で参加。一方のレジェンドは、2018年にエミー賞を獲得したことで、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞のすべて受賞(EGOT)を史上最年少で、さらに黒人男性としては初めて達成する快挙を成し遂げている。

2人が歌った「美女と野獣」は、数多くのディズニー音楽を生みだしてきたメンケンらしい、うっとりするような甘いメロディに、現代的なアレンジが加えられた極上のナンバー。ミュージックビデオでは、ベルと野獣が心を通わせながらダンスをする美しいシーンも織り交ぜられ、感動もひとしお。まさにディズニー史上屈指の名曲である。


■『ブラックパンサー』(18)×ケンドリック・ラマー

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)で、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に初登場したヒーロー、ブラックパンサーを主人公に描くアクションエンタテインメント。“一国の主”と“スーパーヒーロー”という2つの顔を持つ超文明国家ワカンダの若き国王ティ・チャラ。彼は祖国の平和のため、超人的な身体能力を与えられたブラックパンサーとして、世界の脅威から国を守ることを決意する。

本作のインスパイア・アルバム「ブラックパンサー ザ・アルバム」を担当したのは、ヒップホップ界を牽引するラッパーで、音楽プロデューサーのケンドリック・ラマー。4thアルバム「ダム」では、2018年の第60回グラミー賞で最優秀ラップパフォーマンス賞をはじめとする5部門に輝いたほか、ラッパーとしては初の快挙となるピューリッツァー賞も受賞。本作の監督であるライアン・クーグラー自身が、ラマーとのコラボレーションを熱望したことから、この企画が実現した。

クーグラー監督とラマー、ラマーの所属レーベル、トップ・ドッグ・エンタテインメント(TDE)のCEOであるアンソニー“トップ・ドッグ”ティフィスの3名は、映画の各シーンに必要な音楽を一から制作。1作品のために多くのオリジナル楽曲を起用することは、マーベル・スタジオ初の試みだったという。

ラマーと共に主題歌「オール・ザ・スターズ」を歌ったシザは、彼のレーベルメイトであり、TDEの所属シンガーの紅一点。そのほか、劇中で使用されている「プレイ・フォー・ミー」は、ラマーがR&Bシンガーのザ・ウィークエンドとコラボしたナンバーだ。マーベル・スタジオ初の黒人ヒーローが活躍する作品だけに、ヒップホップやR&Bの楽曲で盛大に彩られている。ティ・チャラが責任と重圧に苦しみながら、その葛藤を乗り越え、自らの使命を果たそうとする物語と実は深くリンクする、ラマーの音楽のメッセージ性にも注目してみてほしい。


■『ムーラン』(20)×クリスティーナ・アギレラ

強く美しいヒロインに世界中が魅了された『ムーラン』(98)の実写リメイク作品。病弱な父親の身代わりになり、男性のふりをして戦地に向かった少女ムーランが、様々な試練と出会いを通して、戦士として成長していく。アニメーション版のエンドロールで流れる主題歌「リフレクション」を歌ったのは、当時17歳だったクリスティーナ・アギレラ。そして実写版でも同じく、アギレラが同曲の歌唱を担当した。

グラミー賞5冠を誇るアギレラは日本でも人気の高い歌姫として知られているが、“自分を偽ることなく、自分らしく生きること”をテーマにした「リフレクション」は、まだ少女だったアギレラをデビューへと導いた運命の楽曲だ。新人とは思えない堂々としたパフォーマンスは賞賛を浴び、第56回ゴールデングローブ賞のオリジナル歌曲賞にもノミネート。アニメーション版の公開から1年後、「リフレクション」も収録されたデビューアルバム「クリスティーナ・アギレラ」は大ヒットし、第42回グラミー賞の最優秀新人賞も獲得した。

それから約20年。ポップアイドルとしてキャリアをスタートさせたアギレラは、ヴォーカリストとして多くの経験を積み、真の意味でのアーティストへと見事に変貌した。私生活でも2児の母親になった彼女の新しい「リフレクション」は、より力強さと深みを増した歌声で、聴く者の心を震わせる。また、エンドロールで「リフレクション」に先立って流れるアギレラの新曲、戦士として生きるムーランの決意を綴った「ロイヤル・ブレイブ・トゥルー」の熱唱も必聴だ。


■『ファインディング・ドリー』(16)×シーア

ディズニー/ピクサーの冒険ファンタジーの傑作『ファインディング・ニモ』(03)の続編。カクレクマノミのマーリンが、ナンヨウハギのドリーと共に、愛する息子ニモを救出してから1年。今度はドリーが、マーリン&ニモ親子と共に、生き別れになった家族を捜す旅に出る。本作のエンドソングの歌い手を務めたのは、顔を見せないというポリシーを持つ謎めいた天才シンガー、シーア。もともと彼女の大ファンだというアンドリュー・スタントン監督からの熱烈なオファーにより、タッグが実現した。

オーストラリア出身の歌姫シーアは、色の異なる髪が半々に分かれたウィッグがトレードマーク。ビヨンセやリアーナなど様々な大物アーティストに楽曲を提供し、現代ポップス界のヒットメーカーと言われている。また、自身もアーティストとしてキャリアを築き、2014年にリリースした大ヒット曲「シャンデリア」は、第57回グラミー賞で最優秀レコード賞を含む4部門にノミネートされるなど、その才能を認められている。

そんな彼女が歌う楽曲には、忘れん坊のドリーが、唯一忘れられなかった思い出である“家族”を捜しだすというストーリーにちなみ、世代を超えて愛されている「アンフォゲッタブル」が選ばれた。かつて、伝説的ジャズシンガーのナット・キング・コールが歌ったことで有名になり、彼の娘ナタリー・コールが亡き父の音源とコラボし、1992年のグラミー賞最優秀レコード賞に輝いた名曲だ。映画の世界観に合った幻想的な雰囲気の曲調に、シーア特有のパワフルかつソウルフルな歌声で、忘れられない大切な人への愛を情感たっぷりに歌い上げている。


■『トロン:レガシー』(10)×ダフト・パンク

世界で初めて本格的にコンピュータ・グラフィックスを導入したSFアドベンチャー『トロン』(82)の続編となる3D作品。デジタル界のカリスマだった父親が創造したコンピュータの世界へ導かれた若者が、命をねらわれながらも人類の存亡を懸けた壮絶な戦いに挑む。コンピュータ内のサイバー空間を、最新技術による革新的映像で描く本作の音楽を手掛けたのは、フランスのエレクトロミュージックデュオ、ダフト・パンクだ。

トーマ・バンガルテルとギ=マニュエルによるダフト・パンクは、ロボットのようなヘルメットを被ったビジュアルが特徴で、母国フランスはもちろん、世界中のアーティストたちに多大な影響を与えてきた。そんな彼らがフルスコアで書き下ろした『トロン:レガシー』では、スタイリッシュな近未来的映像とシンセサイザーやオーケストラで構成されたエッジが効きつつも壮大さも感じさせる音楽が美しく融合。オリジナル・サウンドトラックは2012年の第54回グラミー賞にてベスト・スコア・サウンドトラック・フォー・ヴィジュアル・メディア賞にノミネートされた。ちなみに、2人はクラブDJ役で本編にも出演。公開10周年の2020年12月には本作の未発表曲も収録した「トロン:レガシー ザ・コンプリート・エディション」をリリースするが、2021年2月に解散を発表し、28年間の活動に終止符を打った。


■『ロン 僕のポンコツ・ボット』(21)×リアム・ペイン

ディズニー傘下となった20世紀スタジオが贈るのは、ロンドンを拠点とする新進気鋭のアニメーションスタジオ、ロックスミス・アニメーションの記念すべきデビュー作。スマホよりハイテクなデジタル機能に加えて、持ち主にぴったりな友達まで見つけてくれる夢のような最新式ロボット型デバイス、Bボットが普及した世界で、孤独な少年バーニーと、不良品のBボット“ロン”が、“本当の友情”を見つけようとするハートウォーミングなアドベンチャーだ。

本作の主題歌として、イギリスのボーイズグループ、ワン・ダイレクションのメンバー、リアム・ペインがニュー・シングル「Sunshine」を書き下ろした。ペインは2016年3月にワン・ダイレクションとしての活動休止を発表したあと、2017年5月に全米10位を獲得したシングル「ストリップ・ザット・ダウン feat. クエイヴォ」でソロデビュー。2019年12月にはソロデビューアルバム「LP1」をリリースした。ソロアーティストとしての世界総ストリーミング再生回数は累計51億回にものぼるなど、いまなお絶大な人気を誇っている。

SNSでの人間関係が主流になりつつある現代を舞台にした本作を盛り上げる「Sunshine」は、本当の友情の在り方へのヒントにあふれた爽やかな楽曲。ミュージックビデオは、本編のアニメーションと実写の現実世界が混じり合ったような構成で、思わず踊りたくなるような楽しさだ。タイトルどおりの明るいメロディと歌詞のポジティブなメッセージが、ちょっと落ち込んだり、自信がなくなったりした時にも、勇気を与えてくれるはず。



このほか、ディズニー映画には、『美女と野獣』や『ムーラン』のように、リメイクする際にかつての珠玉のナンバーを現代に甦らせるケースも多い。『アラジン』(19)では名曲「ホール・ニュー・ワールド」のエンドソングをワン・ダイレクションの元メンバー、ZAYN(ゼイン)と、新星ジャヴァイア・ワードが熱唱。実写版『ライオン・キング』(19)では、エルトン・ジョンとティム・ライスのコンビによる壮大なラブソング「愛を感じて」をヴォイスキャストとしても出演したドナルド・グローバーとビヨンセがカヴァーし、グラミー賞13冠に輝くファレル・ウィリアムスが「王様になるのが待ちきれない」や「ハクナ・マタタ」など計5曲をプロデュースしている。


多くの人が自然と口ずさんでしまうメロディと、バラエティ豊かなアーティストたちの個性の融合こそが、ディズニー音楽の醍醐味。映画と音楽が気に入ったら、ぜひサントラもチェックして、世界中のアーティストが全身全霊を懸けて生みだした楽曲の奥深い魅力を堪能してほしい。

文/石塚圭子