1883年に発表されたイタリア児童文学の草分け「ピノッキオの冒険」は、寓話としてのおもしろさはもちろん、すぐれた冒険談として世界中で親しまれてきた。ディズニーの『ピノキオ』(40)をはじめ、何度も映像化されてきた名作の最新映画化作が『ほんとうのピノッキオ』(公開中)である。原作を尊重して制作された本作は、物語だけでなく原作が書かれた19世紀の街並みや貧しい人々の日常までリアルに再現。これまで主流だったファミリー向けエンタメ路線とはひと味違う、ダークな色合いの作品になっている。

そんな本作でひときわ存在感を放っているのが、ピノキオの生みの親、ジェペットじいさんを演じたイタリアのコメディ俳優、ロベルト・ベニーニだ。ジェペットと聞いてまず思い浮かぶのは、わんぱくなピノッキオに翻弄されるやさしく真面目な木工職人。ベニーニはそんなイメージを受け継ぎながら、より人間味あるキャラクターとしてジェペットを演じている。ひとり貧しさに耐える姿やピノッキオという息子を得た喜びなど、感情をかみしめるようなベニーニの枯れた演技の数々が、その後に彼らを待ち受ける波瀾のドラマを盛り上げた。

■ジム・ジャームッシュとの出会いが飛躍のきっかけ!

実はベニーニにとって本作は2本目の「ピノッキオの冒険」の映画化作品。前回は2002年のイタリア映画『ピノッキオ』で、ここでは主人公のピノッキオを演じていた。つまり主人公とその生みの親、両方を演じた俳優ということになる。

ベニーニは1952年10月27日生まれ、イタリアはトスカーナ出身。貧しい家庭に生まれたため10代よりサーカス一座で働いていた。この時の経験が、彼のショーマンシップの基礎を築いたと考えていいだろう。1972年にローマに移ると舞台やテレビで役者として活動を始め、持ち前の陽気なキャラクターとマシンガントークでコメディアンとして人気を博す。

そんなベニーニに転機が訪れたのが1985年のこと。イタリアのサルソ映画&TV映画祭でジム・ジャームッシュ監督と出会い、彼の3本目の長編『ダウン・バイ・ロー』(86)にメインキャストで出演することになったのだ。ベニーニの役は、刑務所に収監された英語がほとんど話せないイタリア人。人なつこくて不器用で、お調子者のキャラクターはベニーニの十八番。コワモテの“先客”ジョン・ルーリーとトム・ウェイツを相手に、登場1分で笑いを誘う絶妙な間と言動で囚人たちのおかしな友情ドラマを盛り上げた。その後もジャームッシュの連作短編集『コーヒー&シガレッツ』(03)の第1話「変な出会い」(撮影は1986年)、オムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)にそれぞれ主人公の役で出演。得意の話術で観客を魅了した。

■監督&主演作『ライフ・イズ・ビューティフル』でオスカー受賞の栄光に輝く

国際的に活躍するようになったベニーニが、名実ともにスターの仲間入りを果たした作品が監督&主演作『ライフ・イズ・ビューティフル』(97)である。父の幼少時代の体験をモチーフにしたこの作品で、ベニーニは妻子と共にホロコーストに送られるイタリア系ユダヤ人を熱演した。サイレント喜劇を思わせる得意のドタバタ調の前半から、収容所での日々を綴ったもの悲しい後半まで、常に希望を信じる主人公を演じ、イタリア語作品にもかかわらず第71回アカデミー賞で主演男優賞を獲得。作品も外国語映画賞(現、国際長編映画賞)でオスカーに輝いたほか、第51回カンヌ国際映画祭審査員グランプリなど多くの受賞を果たし、俳優、監督として国際的な評価を固めた。

■原作に忠実に映画化した実写版『ピノッキオ』でラジー賞を受賞してしまう

そんなベニーニは、1990年にフェデリコ・フェリーニ晩年の監督作『ボイス・オブ・ムーン』に主演している。その時、フェリーニはベニーニをピノッキオのような男と評し、ベニーニ主演による「ピノッキオの冒険」の映画化を構想する。「フェリーニのピノッキオ」とは絶妙な企画だが、残念ながら93年にフェリー二は心臓発作で死去。そこでベニーニは『ライフ・イズ・ビューティフル』に続く監督&主演作として『ピノッキオ』の製作に着手した。

(原作小説の)誕生から120年のアニバーサリー映画となったこの作品は、これまでになく原作に忠実な映画化となった。ただし、ピノッキオを演じた当時50歳のベニーニをはじめ、すべての配役を大人の俳優で撮影。視覚効果を抑えた舞台劇のような世界観も賛否を呼び、結果、第23回ゴールデンラズベリー賞でワースト主演男優賞に選ばれたほか、作品賞や監督賞など5部門にノミネートされてしまう。イタリアでは記録的な大ヒットとなったが、評価の面では『ライフ・イズ・ビューティフル』からほど遠く、天国と地獄を味わうことになった。

■『ほんとうのピノッキオ』で7年ぶりのスクリーンに登場!

それでめげるベニーニではなく、2005年にも監督&主演作『人生は、奇跡の詩』を発表。仕事先のバグダッドで爆撃に巻き込まれた元妻を救うため、イラクで大騒動を巻き起こす男を飄々と演じている。なお本作のテーマ曲はトム・ウェイツが担当。オープニングの結婚式のシーンでは、ピアノを弾くウェイツと『ダウン・バイ・ロー』以来の共演を果たした。

近年は舞台など国内を中心に活躍しているベニーニにとって『ほんとうのピノッキオ』は、ウディ・アレン監督作『ローマでアモーレ』(12)以来7年ぶりの映画出演。これまで多くの作品で愛する人のために奔走するお調子者を演じてきたベニーニにとって、本作のペーソス漂う演技は新境地といってよいだろう。これを機に、再びスクリーンで活躍してくれることを期待したい。

文/神武団四郎