本日11月8日まで開催された第34回東京国際映画祭で、昨年に引き続き行われた「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」。東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターの共催のもと、アジアをはじめとした世界を代表する映画人と、日本の第一線で活躍する映画人が様々なテーマでトークを展開していく。

11月7日に行われた最終回では、今年『竜とそばかすの姫』(公開中)が大ヒットを記録更新中であることも記憶に新しいアニメーション監督の細田守監督と、『パラサイト 半地下の家族』(19)で韓国映画として史上初めてのアカデミー賞作品賞など世界中の多くの映画賞に輝いたポン・ジュノ監督の豪華対談が実現。『パラサイト 半地下の家族』の公開時にも対談した両者は、今回それぞれオンラインでの参加となったが、『竜とそばかすの姫』を中心にした互いの作品の話など、予定時間を超過しながら楽しく語り合った。

1969年生まれのポン・ジュノ監督は、『ほえる犬は噛まない』(00)で長編監督デビュー。以後『殺人の追憶』(03)や『グエムル-漢江の怪物-』(06)などで韓国映画界のヒットメーカーとしてその名を轟かせ、『スノーピアサー』(13)でハリウッド進出。長編第7作となった『パラサイト 半地下の家族』は第72回カンヌ国際映画祭パルムドールを皮切りに、数えきれないほど多くの“韓国映画初”の快挙を達成。世界の映画の歴史を大きく塗り替えた。現在は初の英語作品と初の長編アニメーション作品を準備していることが報じられている。

細田「ご無沙汰しております!そちらはロサンゼルスだとお聞きしました。もう新作の準備に入っているのでしょうか?」

ポン・ジュノ「いま新作2本の準備を始めていて、アメリカで撮る作品が来年にクランクインする予定なんです。そのためにロサンゼルスに来ているのですが、細田さんも数日前までロサンゼルスにいらっしゃっていましたよね?」

細田「はい、『竜とそばかすの姫』のキャンペーンで各地の映画祭を回っておりました」

ポン・ジュノ「『竜とそばかすの姫』は僕も最近拝見しまして、ものすごい映画だと感じました。プレミアのカンヌでも大成功で、日本でも大ヒットと聞いております。きっとアメリカでも大盛況になると思いますよ」

細田「観ていただけて光栄です!パンデミックのなかで作品を作るのは大変なことでしたが、スタッフ内に感染者も出ずに作品が完成したことは幸運なことだと思っています。カンヌではパンデミックを経て、映画を通して自由を取り戻そうという気持ちがあふれているなかで上映ができて、改めて映画の力が僕らには必要なのだと感じることになりました」

■「映画は現実に起こっている出来事と無縁ではない」(細田守)
ポン・ジュノ「ストーリーそのものがオフラインとオンラインの間を行き来する。2つの異なる世界が並行して描かれている。最近はカンヌや東京国際映画祭でもオンラインとオフラインの狭間で悩んでいる真っ最中で、それがまさに映画のストーリーのなかで描かれていたと思います。とくにエンディングですずが竜の実際の人物と対面してハグをするシーンは、とても強烈な感動を味わいました」

細田「ありがとうございます。元々はパンデミック前から考えていたストーリーでしたが、現場がコロナ禍となったことで大きな影響を受けたように思います。オンラインによって出会う人が限りなく広がって、世界中の人と出会うことができる一方で、同じ場所にいて同じように向き合って出会う人との関係が重要であると再認識させることができたらなと。パンデミックによって世界中の人がよりそれを実感したのではないでしょうか。映画は現実に起こっている出来事と無縁ではない。とても密接にリンクしていると思います」

ポン・ジュノ「細田さんがこれまで描いてこられた家族というテーマに対する考察もありましたし、2つの世界が同時に描かれてたり、欠乏や傷の克服など、我々が監督の作品で期待するものがさらに深まって描かれていると感じました。特に今回はストーリーのレベルが拡張している。展開が大胆で果敢だとかんじました。長い道のりのなかで新たなステージに登られたような感じも受け取りました」

細田「そう言っていただけてうれしいです。元々は18世紀フランスの『美女と野獣』をモチーフにしたのですが、あれは野獣についての物語でした。野獣の二重性は描かれていたけれど、美女の二重性は描かれておらず、ある意味で時代的な背景があったのかなと。それが現代ではどうなるのかを考え、教室の隅にいる少女がインターネット世界ではスターであるという二重性のなかで、現代ではどういう人を美女とするのかというテーマに辿り着きました。難しい作業でしたが、もうひとりの自分と出会うことで、元々の自分も強くなり守るべき人を守れる。強く変化することを現代では美と呼べる、自分で自分を強くしていくというのがポイントでした」

ポン・ジュノ「具体的な話をしましょう。すずが住んでいる田舎の村がとても美しく描かれていました。またオンライン世界である<U>は以前『サマーウォーズ』で表現された仮想世界よりもさらに立体的に描かれていました。<U>の世界のアートワークをどのようにされたのか気になります」

細田「グローバルな世界を表現する時に、インターネットを通して世界にどんなデザイナーがいるのかを探したのです。劇中ですずがインターネット世界で才能を開花させたように、<U>の世界をデザインする人もインターネット世界にいるのではないかと思いました。そしてエリック・ウォンというロンドンに住む27歳の建築家と出会い、彼にお願いしようと決めました」

ポン・ジュノ「映画の世界と同じアプローチで探されたのですね。<U>の世界とすずの住む現実世界のトーンの違いと同じように、アメリカの野球選手の作画も印象的でした」

細田「実は映画の中に登場する日本以外のキャラクターデザインも、ネットで発見した方にお願いしたのです。テキサスに住むアフリカ系アメリカ人の学生なのですが、作画監督とキャラクターデザインをお願いしました。ほかにもベルのデザインはディズニー作品を手掛けてきたジン・キムさんにお願いしたり、アイルランドのカートゥーンサルーンにも協力してもらったり、国境を超えていろいろな方と作っていきました。アニメはいままで国ごとに分断されてきたけれど、もうそれを飛び越えて、互いに協力しながら新しい流れを作っていけるのではないかと感じています」

■「ポン・ジュノ監督にアニメの新しい可能性を開いていただきたい」(細田守)
細田「ポン・ジュノ監督が作ろうとしているアニメにもそういうところがあるのではないでしょうか?どのように作られているのか教えてください」

ポン・ジュノ「実はですね、公式に僕のフィルモグラフィとして紹介されているわけではないですが、僕が生まれた初めて作った作品は短編アニメだったんです」

細田「!?」

ポン・ジュノ「大学の映画サークルで作ったのですが、人形を使ったストップモーションアニメだったのです。ただ、この作業があまりにも大変で、1日に2秒か3秒しか作ることができない。それで実写に移っていったんです」

細田「それを聞いて驚きと共にいろいろ納得がいきました。『グエムル』の時も『オクジャ』の時も、監督のなかにアニメスピリットが流れていると感じていたので。ちなみにその作品は、どこかで観られるのでしょうか?」

ポン・ジュノ「家にありますが、外部への公開は防いでおります。公開されたら大災害ですよ(笑)。『グエムル』や『オクジャ』でCGアニメーションのキャラクターを扱った経験をもとにして、今回は本格的なCGアニメを作ってみようと思っているんです」

細田「どういうものを作られるのか、ワクワクしてしょうがないです」

ポン・ジュノ「細田監督の最近の作品を観ると、セル画とデジタル画が奇妙に美しく混ざり合っていて、どういうアプローチをされているのか気になっていたんです」

細田「それは15年ぐらい前に『時をかける少女』で海外の映画祭を行った時からよく言われてきた、『どうしてCGアニメを作らないのか』という話にもつながっています。CGはすばらしい技術ですが、もちろん優秀なアニメーターが描く1本の線もすばらしい。そういうものを僕らアニメーション製作者は手放すべきではないと思っているのです。CGか手描き、どちらも単なる技法でしかない。どっちもいいところがあるわけで、僕は一つの作品のなかに両方の技法を重ね合わせることで相乗効果を生みだしたいと思っているのです。ポン・ジュノ監督はCGアニメを作られるとおっしゃいましたが、それはこれまでの経験の蓄積の上でのアニメーションなのでしょうか。それとももっと新しいなにかがあるのでしょうか?」

ポン・ジュノ「長編アニメは初めてですので、容易いことではないとわかっていますが、あまり観たことのないような新しいトーンのビジュアルを作っていきたいと思って試行錯誤を重ねているところです。CGだけど、もっと人間的な感触が伝わってくるもの。人間的な情緒や香りが詰まったCGを作ってみたいと思っています。もしよろしければ、細田さんに一度直接伺って指導を仰ぎたいです」

細田「ポン・ジュノ監督にアニメの新しい可能性を開いていただきたいと思います。ちなみに内容は深海の話だとお聞きしましたが」

ポン・ジュノ「そうです。フランスの科学書籍を妻が本屋で見つけてプレゼントしてくれたのが始まりでした。生きているうちに直接出会うことのない深海数千メートルの奥底に住む生物たちは、独特な美しさやカラーを湛えていて、すでにアニメ的なカラーを持っていました。同じ地球に住んでいるけどなかなか出会えない、まったく日の当たることのない主人公たちが、ある事件を通じて人間たちと出会ったりするストーリーを構想することになりました。今年頭からシナリオを書いていて、スタッフたちとあれこれ考えながら準備をしています」

■「カンヌからオスカーまでの道のりは事件でした」(ポン・ジュノ)
細田「僕が聞きたいのは、“越境”というテーマです。それまでの映画の世界のなかにあった高い壁を打ち崩したのがポン・ジュノ監督。ブレイクスルーをして、それまであった国境の壁を崩すことで映画の新しい価値を世界中に見せつけてくれました。それを成し遂げた監督が新しい作品を作る上で、越境を意識することやご自身の体験は物語に影響していくのでしょうか?」

ポン・ジュノ「正直なところ、そこはよくわからないのです。僕は個人的な衝動に忠実に、絶えず映画を作ってきました。映画を作るというその過程に没入する人間なので、まずは完成させることにすべての神経を集中させる。完成した後にそれがどのように出ていくのかは僕のコントロールが及ばない部分です。『パラサイト』は僕自身の映画のなかで最も個人的なことを描いた作品だと思っています。目的意識を持ってアプローチしたわけではなかったので、これだけ世界中の人に受け止められたこと、特にカンヌからオスカーまでの道のりはまさに事件でした」

細田「それは作品が含む小さな壁を越える行為そのものが、よりたくさんの人々の思い当たるものだったということだと思います。実際、越境やグローバルと言っても、身近で些細ななんでもないことであっても世界中に同じことを思って悩んでいる人がいるかもしれない。映画はそういう様々な人とコミュニケーションできるカギのような気もしています」

■「役所広司さんをお迎えして映画を作りたい」(ポン・ジュノ)

ポン・ジュノ「『竜とそばかすの姫』で描かれた身近な人たちとのコミュニケーションの難しさといえば、大きな出来事を経験して戻ってきたすずが、それまでほとんど会話をしていなかった父から焼き魚を食べようと言われるシーンでじわじわとくる感動がありました。あれは家族の映画を描きつづけてきた細田さんならではの情感だったと思います。ちなみに僕は映画を観終わったあとに焼き魚を食べました。あの父親役の声優さんは役所広司さんですよね?」

細田「そうです。出番はわずかですが、それまでの父親の葛藤というか娘を思う気持ちがうまくいかなかったことを見事に表現してくれました。すばらしい俳優さんにあの役をやっていただけたことをうれしく思っています。もしも役所さんをポン・ジュノ監督が演出されたら、と夢想してしまいます」

ポン・ジュノ「僕も役所さんをお迎えして映画を作りたいとずっと思っています。細田さんや黒沢清さん、西川美和さん、是枝裕和さんも役所さんと一緒に仕事をされていますよね。羨ましいという気持ちと嫉妬心も芽生えています。役所さんと映画を撮るならどんなものがいいかなと考えますと、例えば若い漫画家の元に門下生で入って苦労するアシスタントとかどうでしょうか」


■「どのようにすれば創作活動を続けていけるのか?どうやったら挫けずに映画に向き合っていけるのでしょうか?」

細田「映画を作り続けるというのは本当に大変な力が必要です。だけど映画を作れなくなるのは外的な要因で、作り手そのものはネタが尽きたとかやりたいことが無くなったとかはあまりない。人はいろんなことを感じながら生きている。もしかしたら幸せな人は映画を作る必要はないのかもしれないけれど、そうでない人は作らずにはいられないのかもという気がします。ポン・ジュノ監督はどう思いますか?」

ポン・ジュノ「僕もそのお話に共感します。これは芸術家に限らず、人間であれば誰しもが言いたいことをたくさん持っていると思います。シナリオを書くリサーチの過程でインタビューをすると、最初に話しづらそうにしていたひともどんどん自分の話を聞いてほしいと語り出す。映画を作る人はそれを形にしていくわけですが、どんな人にも自分のことを語りたい、物語に対する欲求というのはあるものだと思います」

細田「僕はアニメをやっているせいか、子どもがいまどういう状況に置かれているのかとか、社会福祉事務所や児童相談所の人と話すことがあるんです。すると、彼ら彼女らの体験をお伝えするんで、形にしてくださいというような気持ちを受け取ることがあり、ある種使命のようなものを感じることがよくあります」

ポン・ジュノ「だからこそ細田さんの作品には人間的な息遣いが感じられるんだと思います。傷や孤独感、息遣いが繊細に描かれているからこそ観客の心を動かしていくことができる。ちなみに僕は映画づくりで挫けそうになった時、よくアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』やジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』、黒沢清の『CURE』を観るようにしています。頭が混乱している時にも、これらを観ると心に平静と平和が訪れます。それぞれの監督が持つシネマティックな自信が感じられるからだと思います。細田さんはどうでしょうか?」

細田「実は僕も『竜とそばかすの姫』を作る時に『羊たちの沈黙』を観ました(笑)。主人公が追い詰められることの参考に観たはずだったんですが、最終的には参考とかそっちのけで映画の世界にどっぷりと浸かってしまって…。あと僕がよく観るのは黒澤明監督の『用心棒』です。いつかこういう作品を作りたいという憧れがあるんですが、まだまだ程遠いですね」

ポン・ジュノ「でも『バケモノの子』の熊徹は『用心棒』の三船敏郎っぽさがありますよね(笑)」

■「パンデミックをきっかけに世界の人と繋がりやすくなった。そのなかで自分の作りたいものを掴むため、自分自身のアンテナを立てるための努力をしているのでしょうか?」

細田「アンテナということもそうですが、いまは世界中の人がどの国で作られたものでもおもしろければ観るという環境になったことの凄まじさがあります。それは作り手にも影響を与えていて、これまではアメリカ映画、例えばアニメではディズニー作品に参加するためにいろいろな国の人たちが一つの場所に集まっていたけれど、それでは国際共同制作とはいえない。これからは世界中の人がそれぞれの場所から協力しあって、1本の作品を作るようになってくるのではないでしょうか。そして作品の内容も現実を反映したような作品になっていく。いままであった国境の壁みたいなものが、いつの間にか取り払われていくのではと希望を持っています」

ポン・ジュノ「先程のお話にもあったように、今回の『竜とそばかすの姫』で細田さんはまさにそのようなアプローチで作業をされた。自由にネットワークを広げて新しい形を示す。それができるのは、監督の中心にある力強いものがぶれていないからでしょう。創作者の中にある力強い確信や繊細な物事の捉え方や個人的な衝動が、より作品を強くしていくのだと思います。それがあってこそ、気軽で自由に世界と繋がりながら映画を作っていけるのです。そして出来上がった作品はストリーミングを通して国境を超えてリアルタイムで共有される。新しい意味での新しい時代が、いま目の前で繰り広げられていると感じています」

取材・文/久保田 和馬