あまりにブッ飛んだ内容に話題騒然、「ホラー映画を観に行ったハズなのに…」「まさかそう来るとは思わなかった!」と衝撃の声が続出している『マリグナント 狂暴な悪夢』(公開中)。本稿では、ネタバレ全開すぎて映画公開前には解禁できなかったジェームズ・ワン監督のインタビューをお届けする。物語の核心に触れる内容を嬉々としてしゃべくり倒すワン監督を前に、「このインタビューほとんど使えないんじゃないかな…?」と不安になっていたので、こうしてお披露目できてうれしいかぎり。というわけで、以下、映画を未見の方は絶対に読まないように!

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■「『マリグナント』は大作の合間の“お口直し”」

「私が『ソウ』の1作目を作った時、ホラー・ジャンルは世間的には小馬鹿にされるような傾向がありましたが、ここ10年間で広く受け入れられるようになりました。そして、しばしば映画産業を救うのはホラー映画だったりするんですよね。なによりもお金が大事なハリウッドにとっては、軽視できる存在ではないでしょう。うれしいのは、若い世代がこのジャンルを快く受け入れてくれていること。ホラー映画をジャンルとして好きでいてくれれば、昔の名作にも手を伸ばすに違いないと思ってるんです」。

と、のっけからホラー映画への矜持と愛が溢れて止まらないワン監督。2004年の長編デビュー作『ソウ』以来、「インシディアス」「死霊館」シリーズなどの人気フランチャイズを手掛け、21世紀のホラー映画界を牽引する彼だからこその言葉だ。そんなワン監督が、ホラーに限らず映画を作るうえで常々こだわっているのは、「同じことを繰り返さない」ことだという。

「例えば『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』の監督を名乗り出なかったのは、1〜2作目ですでにやりたいことをやってしまったから。超大作の『アクアマン』を完成させて、小規模な作品を撮ろうとしたとき、『次はなにか違う、オリジナルなものを作りたい』と思ったんです。キャリア初期の『ソウ』や『デッド・サイレンス』『狼の死刑宣告』のような、より土臭い映画を」。

『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)や『アクアマン』(18)のようなブロックバスターを大ヒットに導いたあとに、原点回帰の小規模作品を手掛けるというのも、彼ならでのキャリアの重ね方だ。

「大作を作るときは腰が引けてしまうことが多いので、そのたびに『次の映画は小さい作品にしよう』と思うんですよ(笑)。すると今度は『必要なツールが揃っていない!次は大作を撮ろう!』となる(笑)。気持ちは行ったり来たりするんですが、おかげで惰性に陥ることがありません。『アクアマン』の続編制作も決まっていたのですが、一度間に“お口直し”を入れたいと思い、それが『マリグナント』になったんです」。

■「大作での経験を生かして、ガブリエルに命を吹き込みました」

本作は、ある日を境に、目の前で漆黒の殺人鬼“ガブリエル”が殺人を起こすという悪夢に苛まれるようになってしまった女性、マディソン(アナベル・ウォーリス)を主人公に展開していく。
『マリグナント』のインスピレーションの源は、「80〜90年代の、自分が幼少の頃から親しんできた作品たち」と明かすワン監督。1977年生まれで、現在44歳。10代の多感な時期は、マリオ・バーヴァ、ダリオ・アルジェント、ブライアン・デ・パルマ、ウェス・クレイヴン、デヴィッド・クローネンバーグらのジャンル映画を観て育った。実際、『マリグナント』を観ると、『サスペリア PART2』(76)や『悪魔のシスター』(73)、『バスケット・ケース』(82)、はたまたクローネンバーグのボディ・ホラー群を想起せずにはいられない。本作のヴィラン、ガブリエルの驚くべき正体に関する描写においては、特にそうだ。

「『マリグナント』は私にとって10作目の監督作。過去9作品の経験を踏まえて作りました。いつも前作からの学びを次の作品に活かすように心がけていますが、今回は大作で得た技術的な知見を活かし、ガブリエルに命を吹き込みました。ガブリエルは技術的にかなりの困難を極めるヴィランで、アニマトロニクスやパペット術、VFX、ボディ・パフォーマンスなどを駆使する必要がありました。ここまでハイレベルなものは初めてでしたが、未知の領域に挑戦するのは楽しかったですね」。

“寄生性双生児”のガブリエルは、主人公マディソンの後頭部に寄生し、肉体と精神を彼女と共有している。あのなんとも奇っ怪なガブリエルの動きは、どのようにして撮影されたのだろうか。

「通常のシーンは特殊メイクをしたアナベル・ウォーリスが演じているんですが、アクション・シーンではマリナ・マゼーパが演じています。ダンサー、曲芸師でもある彼女が見事なパフォーマンスを見せてくれました。当初はカメラ・トリックを使ったり、映像を巻き戻したりして撮影しようと思っていたんですが、彼女が逆回しした人の動きを忠実にこなしてくれたので、その必要はありませんでした」。

なかでも終盤の拘置所での格闘シーンは、本作最大の見せ場の一つだ。

「(マゼーパは)通常の振り付けとは真逆のことをしながら、人に掴みかかったり、頭を殴ったり、首をへし折ったりして、まるで本当に後頭部に目があるかのような動きを見せてくれました。そのあと合成でアナベルの顔を貼り付けています。アニマトロニクスでコントロールした部分もあります。コンセプト段階からこのチャレンジにワクワクしていたのを覚えています。これだけ手の込んだプラクティカル・エフェクトは前例がなかったからです」
■「腫瘍は私たちにとって究極のヴィラン」

ガブリエルの初登場シーン、暗闇から地面に手をついてヌッと現れるその姿は、どことなく『リング』(98)の貞子っぽくもある。たびたび『リング』をフェイバリットに挙げているワン監督だけに、もしかしてアレは貞子オマージュ…?

「アジアのホラー・ストーリーには昔から親しんできたので、Jホラーも間違いなく私の作品に影響を与えています。ガブリエルは主人公の後頭部にくっついているキャラクターだから、顔に髪の毛がかぶさるのは当然…とはいえ、あからさまに貞子風にならないように意識はしました。ただ、『リング』は大好きなホラー映画の一つなので、ガブリエルを見て貞子を連想していただくぶんには構いませんよ!(笑)」。

見た目も、動きも、出生の秘密も、とにかく強烈なインパクトを残すガブリエル。彼はきっと、「ソウ」のビリー人形、「死霊館」のアナベル人形に続くホラー・アイコンとして今後も語り継がれていくに違いない。しかし、このような異形の存在に、ワン監督はなぜ惹かれるのだろうか。

「存在感のあるヴィランたちが好き…というか、彼らは誤解されているはみ出し者のようにも思えるんです。また、置物やランプのような静止物がいきなり動き出したりしゃべり出したりするのも好きです。言ってみれば、子どもの頃にアクション・フィギュアや人形を動かしたりしゃべらせたりしながら遊んでいたのを、大人になっても続けているようなものなんですよ。これでお金がもらえるのだからラッキーです(笑)。ありえないような状況を生み出したり、動かないものを動かしたりするのが映画作りの大きな魅力だと思います」。

童心のままに、映画を作る――それは彼が敬愛するスティーヴン・スピルバーグにも通じる作家性。永遠の映画少年は、大作とインディーズ作品を自在に往来しつつ、これからも私たちに驚きと恐怖を届けてくれるに違いない。ワン監督は最後に、本作の着想からテーマにつながる興味深い逸話を明かしてくれた。

「『マリグナント』のそもそもの着想は、私が幼い頃に父がガンを患った体験から来ているんです。ホラーの物語を作る時は、ガンや腫瘍が頻繁に頭に浮かびます。それらは私たちにとって究極のヴィランです。家族や友達や愛する者を奪うこのヴィランを、我々はまだ駆逐できていません。だから私の潜在意識において、モンスターの原点はガンや腫瘍なのかもしれません。もしくは、周りに悪影響を与える人物などのメタファーでもありますね。マディソンはひどい男性に虐げられ、ガン的な存在に体を蝕まれながら、それらと闘い自分自身を取り戻さなくてはなりません。これは映画終盤の『自分の体を取り戻す』というセリフに象徴されていて、この映画のテーマになっています」。

幼少期の記憶をモチーフに、いまだかつてないほどヒロイックで、アクション満載で、禍々しく、どこか物悲しい怪奇譚を生み出す唯一無二の発想力。天才ジェームズ・ワンの頭のなかを、少しだけのぞき見ることができた…ような気がした。

取材・文/西川亮