テレビアニメ「進撃の巨人」の荒木哲郎監督が、「進撃の巨人」をはじめ「SPY×FAMILY」で話題の制作スタジオ、WIT STUDIOと再タッグを組んだオリジナルアニメーション『バブル』(公開中)。脚本に「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄、キャラクターデザイン原案には「DEATH NOTE」「バクマン。」の小畑健、さらに『プロメア』(19)などにも参加した澤野弘之が音楽を手掛けるほか、キャスト陣として志尊淳、宮野真守、梶裕貴、畠中祐、広瀬アリスらが名を連ねている。謎の泡(バブル)により重力が壊れた東京を舞台に、運命的な出会いを果たす少年と少女の姿が描かれる。

日本が世界に誇るトップクラスのクリエイターが集結し、透明感あふれる映像美と、縦横無尽なカメラワークで炸裂するハイスピードのアクション、音に導かれて出会う孤独な少年ヒビキ(声:志尊)と謎の少女ウタ(声:りりあ。)のピュアな恋物語が見どころだ。

そんな本作についてMOVIE WALKER PRESSでは、『花束みたいな恋をした』(21)のインスパイアソング「勿忘(わすれな)」などのヒットも記憶に新しく、第72回NHK紅白歌合戦にも出場したAwesome City ClubのPORINにインタビュー。本編を鑑賞した感想やヒビキとウタの魅力、音楽で注目したポイントなどを聞いてみた。

■「ヒビキの持つナードさ…内向的な雰囲気は現代を生きる若者を象徴している」

本作を観てすぐに感じたことについて、「映像の美しさに惹き込まれた」と振り返るPORIN。“崩壊と再生”というメッセージが強く印象に残っているようで、「東京を舞台に崩壊と再生が繰り返される、このような映像表現そのものが新鮮に感じました。崩壊した世界で人々が生きていくというのは普遍的なメッセージにも思われますが、見慣れた場所がなくなっていく描写には、やはり衝撃を受けました」と説明する。

主人公ヒビキは幼いころから特殊な聴覚を持っており、常にヘッドフォンをして周囲から距離を取っている。彼のようなキャラクターは、PORINにとっても「好きなタイプ」と好印象だったようだ。

「ヒビキの持つナードさというのかな…。内向的な雰囲気は現代を生きる若者を象徴している感じがしました。一見コミュニケーションが苦手そうな感じがするけれど、本当はみんなと同じように人とつながりたいタイプ。心は温かくてアウトプットが苦手なだけ、みたいなところは、『自分と“似ている”』と共感する人も多いのではないでしょうか。劇中で彼が感じていた、街の音がうるさすぎるという表現も“わかる”と思いました。現代社会は人があふれかえり、便利になりすぎて、逆に退化していると感じる点もあるので、喧騒が邪魔に聞こえるヒビキの気持ちにはとても共感できました」。

■「ウタは表情や仕草が印象に残る、とてもアイコニックな存在」

ヒビキの前に突然現れたウタは不思議な力を持った少女で、鮮やかなブルーの髪色が特徴だ。PORINも以前髪色を青くしていたことがあり、実は「青髪の女の子といえばPORIN」というイメージから今回のインタビューをオファーしている。

その経緯を伝えると、「青髪ショートカットは無敵です(笑)」と笑顔に。「ウタは言葉数が少ないキャラクターですが、その分、表情や仕草が印象に残り、とてもアイコニックな存在と感じました。ウタはファッションにも原色を取り入れていて、とてもカラフル。見ているほうも元気になるキャラクターだと思います」。

2人にしか聞こえない“音”をきっかけに心を通わせるヒビキとウタ。アウトプットが苦手で自分の世界にこもりがちだったヒビキだが、ウタだけでなく仲間たちにも心を開いていく。ヒビキの心情の変化について聞いてみると、「ヒビキとは真逆で、ウタは動物的。本能の赴くままに生きているウタに、気づいたら心が動かされ、どんどん惹かれていったんじゃないかな、と想像しています」と分析する。

続けて2人の関係性には、「恋愛のような感じもしたけれど、友愛のような印象もあって…」と思い返す。「人とのつながりの大切さを感じさせてくれた関係性でした。東京が崩壊する、そんな状況下でも出会いと別れはあるし、誰かとの交流を求めたりするものなんだなと思いました。ウタが“心を取り戻した”という意味の発言をするシーンはとても印象的で、取り戻した喜びと同時に、寂しい感情が出てくるという複雑な心境にはなりますが、心に強く残っています」。

■「『バブル』の『にんぎょ姫』は日本の情緒が加わっていて、刹那的に感じた」

本作の物語は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話「にんぎょ姫」がモチーフとなっている。「(「にんぎょ姫」は)『リトル・マーメイド』のように、ファンタジーでドリーミーなイメージを持っていたのですが、『バブル』では日本の情緒が加わっていて、刹那的に感じました」と名作に新たな視点が加わっていることを指摘する。

ウタはある理由からヒビキに触れることができず、たびたびせつない表情を浮かべる。それでも、彼の力になりたいというピュアな気持ちにも言及し、「自己犠牲をいとわない人って、めちゃくちゃ少ないからこそ、ウタの感情は稀なものだと感じました」と共感している。

■「同じメロディなのにシーンごとに異なるコードで表現されている」

ヒビキとウタにしか聞こえない“音”は、作曲家の澤野によって劇伴の一部としても引用されている。様々なパターンにアレンジされ、シーンごとに違った表情を見せては、物語を盛り上げる。ミュージシャンであるPORINもこれらの音楽には目を見張るものがあったようだ。「同じメロディなのにシーンごとに異なるコードで表現されていて、印象づけの方法にハッとしました。こういう表現方法があるんだなと勉強になりました」。

また、澤野による音楽は、「作品に寄り添っている」という印象を持ったそう。「泡がたくさんあふれているシーンには宇宙のような雰囲気があり、すごくダイナミックでカッコよかったです。だけど、音楽はスッと自然に入ってくる感じがしました。“音楽がかかっています!”と主張するのではなく、すごくナチュラルに盛り上げていると感じました」。

オープニングテーマはEveの「Bubble feat.Uta」、ウタを演じるりりあ。がエンディングテーマの「じゃあね、またね。」を担当している。まっさらな状態で作品を楽しみたかったため、楽曲情報も事前に調べずに作品を鑑賞したというPORIN。「(「Bubble feat.Uta」は)Eveさんらしさを感じる楽曲で、疾走感にあふれ、これから始まる物語にワクワクさせられました。りりあ。さんは、ウタの声も担当していたこともあり、ウタの心情を綴ったような、映画全体を集約したエンディングになっていると感じました」。

■「自分のエゴを通すよりも、楽曲が一番よくなるボーカルを意識しています」

崩壊した東京ではライフラインが断たれ、人々はほかの土地へ離れていってしまったが、そこに身寄りのない少年たちが住み着いている。彼らは市街地の障害物を乗り越えながら行う競技、パルクールをプレイし、それぞれがチームを結成して、“バトルクール”という対抗戦で生活物資を賭けて競い合っている。ヒビキは渋谷を拠点にする「ブルーブレイズ(通称BB)」のエースで、ほかにも秋葉原の「電気ニンジャ」や練馬の「関東マッドロブスター」、高性能ブーツやマスクを装備した「アンダーテイカー」といったチームが登場する。

このバトルクールは現実のスポーツさながら、メンバー同士の連携が不可欠なのだが、当初のヒビキは高い身体能力を持ちながら協調性が皆無。しかし、そんなヒビキが仲間の大切さを実感し、ソリの合わなかったリーダーのカイ(声:梶)やBBの新メンバーとなったウタらと協力し、強敵に勝利を収める流れは物語に大きなカタルシスをもたらしている。Awesome City Clubのメンバーとして、またソロとしても様々なアーティストとのコラボを多数手掛けているPORINに、チームプレーで大事にしていることも聞いてみた。

まず、バンド活動で重きを置いていることには、「メンバー3人の顔が見える楽曲作り」という回答が。「時代的には古い、と言われるかもしれませんが、ギターソロを入れたり、男女それぞれが歌うパートを入れたり、ハモリがそれぞれ“おいしい部分”を入れる。これは一番気を使っている部分です」。

ほかのアーティストとのコラボの際には、「自分よりも楽曲を活かすボーカル」を心掛けているという。「私は自由度の高いボーカルだと思っています。求められることは基本的にはやりたいというスタンスです。自分のエゴを通すよりも、楽曲が一番よくなるボーカルを意識して取り組んでいます」とバンドとコラボでの表現の違いを明かしてくれた。

■「『SPY×FAMILY』で感じた立体的なカメラワークが『バブル』にもあった」

全編を通して展開される大迫力の“パルクール・アクション”や映像美は大きなスクリーンで観てこそ。PORINにとっても映画館での鑑賞は、「スマホを見ることもなく、物語の世界観に没入できる特別な時間」だという。今回のインタビューにあたってはオンラインでの視聴になったのだが、『バブル』をスクリーンで観るなら以下の点に注目してほしいとのこと。

「(劇中で)画面いっぱいに花が咲き誇ったり、光が幻想的になびいたりしてとてもきれいだと感じました。泡の描き方もファンタジックになりすぎず、ヒビキやウタの体のしなりかたの美しさは、実写映画を観ているような感覚でとても感動しました」。

さらに、現在追いかけているアニメーション作品として、偶然にも本作と同じWIT STUDIOが手掛ける「SPY×FAMILY」をピックアップ。両者の共通点にも触れながら、「『SPY×FAMILY』で特に感じたのは立体的なカメラワークです。そのようなこちらへ迫ってくる感覚が『バブル』にもあったので、映画館の大きなスクリーンで観てもらったらどうなるのか、想像するだけでワクワクします。ウタの透明感のある歌声も、映画館ならより美しく響くと思います。映像と音を思いっきり浴びてほしいです」。

構成・文/タナカシノブ