5月17日に第75回カンヌ国際映画祭が開幕した。一昨年はオンラインでのオフィシャル作品発表のみ、昨年は7月に開催時期を移して行われていたので、バカンスシーズンが始まったばかりの南仏に映画祭が戻ってきたのは3年ぶり。

映画祭開幕に先駆けて行われた審査員団の記者会見では、審査員長のヴァンサン・ランドン(昨年のパルムドール受賞作『TITANE/チタン』に出演)は、「電球を外すように心をクリアにして偏見をなくし、世界中の映画を受け入れる心づもりでいます」と抱負を述べた。審査員には、昨年のコンペティション部門で主演のレナーテ・ラインスヴェが女優賞を受賞した『わたしは最悪。』のヨアキム・トリアー監督、グランプリ受賞の『英雄の証明』のアスガー・ファルハディ監督、ジェフ・ニコルズ監督、レベッカ・ホール(『PASSING −白い黒人−』)、ノオミ・ラパス(『LAMB ラム』)、ラジ・リ(『レ・ミゼラブル』)などが名を連ねている。

開会式では「映画は世界を変えることができるか?」をテーマにトークが行われた。司会を務めた女優のヴィルジニー・エフィラが「映画は世界を変えることができるかは、確かなことではありません。それでも、映画は私たちの心を揺さぶることができるのです」と述べると、名誉パルムドールを受賞したフォレスト・ウィテカーが「映画が持つ力を祝福するこの場に立っていることを誇りに思います」と応えた。式典の後半にはウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで登場し、75年前にカンヌ映画祭が誕生した理由と、現在の世界状況を重ね合わせるスピーチを行った。

今年の開幕作品『キャメラを止めるな!』(英題:Final Cut)は、上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』(17)を、『アーティスト』(11)のミシェル・アザナヴィシウス監督がフランスでリメイクした作品。ストーリー、演出やセリフだけでなく、主演のロマン・デュリスの発声や動き、衣装や小道具まで“本家”とそっくりに作られていて、映画を観ると「一語一句変えずに作られた」理由がわかる粋な構成になっている。開会式が行われた会場を埋めた大勢の招待客は、映画の前半はおとなしく鑑賞していたが、後半の展開が始まると大爆笑の連続で、久々に大きなスクリーンで映画を観て、観客と共有することを楽しんでいるようだった。

今年のコンペティション部門には、是枝裕和監督が韓国のキャストとスタッフを集結し撮った『ベイビー・ブローカー』、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『Crimes of the Future(原題)』、パク・チャヌク監督の『Decision to Leave(英題)』、リューベン・オストルンド監督の『Triangle of Sadness』などが選出されている。パルムドールなど受賞作品の発表と閉会式は、5月28日に行われる。

取材・文/平井伊都子