南米の小国スリナムで、影の麻薬王として君臨する牧師と、ひょんなことから国家情報院のスパイとして作戦に加担することになった民間人、そして彼らを取り巻く癖のある男たち――9月9日よりNetflixで独占配信されている「ナルコの神」は、21世紀初頭に実在した人物をモデルに、国際潜入捜査ものとしてスケールアップさせたアクション・サスペンス。配信開始週も、グローバルTOP10で非英語シリーズ初登場5位という好記録でデビューした。配信に先駆け、世界各国の記者向けに出演者と監督が登壇した記者会見が韓国ソウルで行われた。

■「17年間、いつか共演できたらと願い続けてきました」(ハ・ジョンウ)

この日登壇したのはユン・ジョンビン監督、ハ・ジョンウ、ファン・ジョンミン、パク・ヘス、チョ・ウジン、ユ・ヨンソクの6名。そして、チャン・チェンもビデオメッセージで登場した。今作はユン・ジョンビン監督にとって初のドラマシリーズだが、もともとは映画の企画だったそうだ。「2時間の映画の脚本を読んだ際に、様々な要素が欠けていると感じました。2時間の映画よりも、ドラマシリーズのほうが向いているのではないかと考えたのです。その時ちょうどNetflixと企画開発をしていたので、提案しました」と、ユン・ジョンビン監督は語る。新事業を求めて南米に向かう男カン・イングを演じたハ・ジョンウは、『許されざるもの』(05)から『ビースティ・ボーイズ』(08)、『悪いやつら』(12)、『群盗』(13)と、ユン・ジョンビン監督と何本もの作品を共にしている。さらに、カン・イングがスリナムで出会う、表の顔は牧師、裏の顔は麻薬王のチョン・ヨファンを演じたファン・ジョンミンは、ハ・ジョンウがデビューした頃に同じ事務所に属し、「それから17年間、いつか共演できたらと願い続けてきました」と明かした。

「カン・イングは、生存する術を知る男です。危機的状況のなかにチャンスを見出します。物語を通じて挑戦することを怠らず、絶え間なく生き続けようとするのです」と、自身が演じた男の生存能力の強さを強調するハ・ジョンウ。カン・イングとギリギリの攻防戦を繰り広げる麻薬王、チョン・ヨファンを演じたファン・ジョンミンは、「彼は慈悲深い牧師のように見えますが、本当は麻薬で財を築く長者で、非情な悪党です。信者の前では偽りの姿で、自分の手を汚さずに周りに犯罪や非道な行為を強制する、サイコパスのようなものです。最初に渡された脚本は6話分がひとかたまりになっていて、重みがありました。とてもおもしろい本を読む時、ページをめくる手が止まらないことがあるでしょう。この脚本がまさにそうでした」と語る。

チョン・ヨファンのモデルとなった実在の麻薬王チョ・ボンヘン氏は、1990年代後半から2000年代前半まで、スリナムで麻薬密輸組織を営んでいた人物。2009年にブラジルで逮捕され韓国に送還、収監されたが、2016年に死亡していたことが明らかになっている。ドラマシリーズが配信されるまでチョ・ボンヘン氏の消息は不明で、服役後にスリナムに戻ったという報道もあったようだ。彼の物語に、“牧師”というツイストを加えた理由について「カン・イングが彼に取り込まれ利用される信憑性を付加したかったからです。チョン・ヨファンを無条件に信頼する理由を考えた時に、この職業を思いつきました。そして、一般市民のカン・イングが囮捜査に参加するのが、ほかの麻薬組織を描いた作品と一線を画すると考えました。彼は訓練を受けたエージェントではないので、まったくスマートではありません。ですが、生き残る術を知る男なのです」とユン・ジョンビン監督は語っている。「ナルコの神」が配信され世界的人気を獲得したことを受け、スリナム政府が「自国の名誉を傷つけられた」として、製作会社と韓国政府に苦言を呈したという驚愕のニュースも流れた。

■「オリジナルの韓国語と字幕で観ていただくと、真髄を味わってもらえると思います」(パク・ヘス)

国家情報院のエージェントで、囮捜査に自ら乗り出すチェ・チャンホ役を演じたパク・ヘスは、「イカゲーム」や「ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え」など、公開待機作を含め6本ものNetflix作品に出演している。巷では「Netflixの正社員」「Netflix公務員」などという異名で呼ばれているという。エージェントからドラッグ・ディーラーへ様変わりする“2役”を演じたパク・ヘスは、「監督は私のなかにあるユーモアの部分を抽出したいと考えていたようです。脚本ではキャラクターごとに象徴的なセリフがあてがわれていたので、演じるのは難しくはなかったです。韓国以外でドラマを観ている方は字幕や吹き替えで観ていると思いますが、オリジナルの韓国語と字幕で観ていただくと、真髄を味わってもらえると思います」と、役ごとにしゃべり方や発声を変えて演じた点を強調していた。

「賢い医師生活」などで知られるユ・ヨンソクは、彼のイメージを覆すような麻薬組織の法務担当、デヴィッド・パク役を演じる。「弁護士の役ですが、彼は知的な弁護士ではなく、知識のあるごろつきです。この屈強な共演者の方々のなかに入った時に、僕だけソフトな印象を与えないように溶け込む努力をしました」と役作りについて語っていた。彼らの話を聞いていたユン・ジョンビン監督は、「このキャストが揃い、そしてセットで演じる彼らを見るたびに、エネルギーが爆発しているのを感じました。視聴者の皆さんも、キャストの名前を聞いただけで興奮したと思いますが、控えめに言っても、本当に最高でした」と述べ、さらにこう付け加えた。「ハリウッド映画に出演する彼が快諾してくれ、天にも登る気持ちでした」。スリナムの中華街を仕切る中国系マフィアを演じたチャン・チェンの近作は『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)で、ユン・ジョンビン監督は出演オファーをするために飛行機で駆けつけ直談判したのだそうだ。

■「あまりにも見事な美術と小道具で、ロケとセットの違いを見分けることができません」(チョ・ウジン)

スリナムのシーンはドミニカ共和国で撮影が行われたが、南米のジャングルのシーンは韓国のチェジュ島に作られた。美術監督が椰子の木を植えると共に、CGI監督がそれらの木々の数をVFXで増やすといったチームワークで完成されている。中国系韓国人のマフィアを演じたチョ・ウジンは、「あまりにも見事な美術と小道具で、ロケとセットの違いを見分けることができません。プールのそばで寝そべっていると、南米にいるような気分で演技ができましたから(笑)」と、パンデミックで思うように海外ロケができない際にも、美術監督や大道具、小道具のスタッフの並並ならぬ努力によって切り抜けられたことに感謝していた。

全6話のうち、ここにいるキャストが勢揃いするシーンがいくつかある。それらのシーンこそが「ナルコの神」の白眉で、「まるで真のマフィアゲーム(誰がマフィア役かを推測し合うゲーム)がその場でプレイされているよう」と、チョ・ウジンは表する。ユ・ヨンソクは「諜報員の騙し合いジャンルなので、お互いを疑い、お互いの正体を探ろうとする過程の演技が、とても楽しかったです。ドラマでありながら、舞台で何百人もの観客の前に立って演劇を演じているような気分でした。それらのシーンを撮影した時のスリルをいまだに覚えていています」と付け加えた。そのスリルは画面を超えて視聴者の元にも届く。全6話だが密度が濃く、ページをめくる手が止められないように、次のエピソードに進むのを止めることができなくなるだろう。

取材・文/平井 伊都子