第95回アカデミー賞の最重要前哨戦としても注目されている第80回ゴールデン・グローブ賞の授賞式が現地時間1月10日に開催。最もアカデミー賞に直結すると言われている作品賞(ドラマ部門)を制したのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』(3月3日公開)。そして作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を制したサーチライト・ピクチャーズ制作の『イニシェリン島の精霊』(1月27日公開)が最多3部門に輝いた。

■賞レースを牽引する2作品が順当に戴冠!

世界的巨匠であるスピルバーグ監督が、自身の原体験を描いた『フェイブルマンズ』。アカデミー賞への一番切符とも称される第47回トロント国際映画祭観客賞を受賞して以来、今年の賞レースの主役候補と目されてきた同作は5部門にノミネートされ、作品賞(ドラマ部門)と監督賞の2部門を受賞。これまで作品賞(ドラマ部門)を受賞した作品は、過去50年間ですべての作品がその年のアカデミー賞作品賞にノミネートされ、うち25作品が受賞を果たしている。

また、監督賞を受賞したスピルバーグ監督は今回が史上最多14回目のノミネートとなり、マーティン・スコセッシとクリント・イーストウッドに並び史上最多の3度目の受賞を果たした。過去にスピルバーグ監督は『シンドラーのリスト』(93)と『プライベート・ライアン』(98)でも同部門を受賞。両作品ともゴールデン・グローブ賞に続いてアカデミー賞の監督賞も受賞しており、『フェイブルマンズ』にも大きな弾みがついたといえよう。

一方、『スリー・ビルボード』(17)のマーティン・マクドナー監督が手掛けた『イニシェリン島の精霊』は、アイルランドの平和な島を舞台に2人の男の対立を描いた悲喜劇。主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞したコリン・ファレルは、マクドナー監督とタッグを組んだ『ヒットマンズ・レクイエム』(08)以来14年ぶりの同部門制覇となった。

昨年秋に行われた第79回ヴェネチア国際映画祭で男優賞(ファレル)と脚本賞を受賞したことを皮切りにいっきに注目度が増した同作は、すでにアカデミー賞の前哨戦とされる全米各地の批評家協会賞などで受賞多数。その多くを主演男優賞と脚本賞が牽引しており、今回の作品賞(ミュージカル・コメディ部門)受賞を機に、ほかの部門での前進にも期待が持てそうだ。

■演技部門は多様な顔ぶれが勢ぞろい!

全米各地の批評家協会賞で他の作品を寄せ付けない圧倒的な快走を続ける『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3月3日公開)は、ミシェル・ヨーの主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)と、20年ぶりにハリウッド復帰を果たしたキー・ホイ・クァンの助演男優賞を受賞。近年のアカデミー賞を大いににぎわせているアジア系俳優の快進撃は、今年も続くことだろう。

作品賞(ドラマ部門)と同様、アカデミー賞に直結している部門とされているのが主演男優賞(ドラマ部門)。過去10年でこの部門の受賞者は皆アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされ、9人が受賞を果たしている。今年この部門を制したのは『エルヴィス』(22)のオースティン・バトラー。エルヴィス・プレスリー役という大役を演じ抜いたハリウッドの新星が、いっきに頂点にのぼりつめる可能性も充分だ。

主演女優賞(ドラマ部門)は『TAR/ター』(5月公開)のケイト・ブランシェットが受賞。これまでアカデミー賞に7度(主演4・助演3)ノミネートされ2度受賞(主演・助演各1ずつ)している現代の大女優は、『ブルージャスミン』(13)以来9年ぶり4度目(主演3・助演1)のゴールデン・グローブ賞受賞。また、助演女優賞を受賞した『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2月1日よりディズニープラスにて独占配信)のアンジェラ・バセットは、アカデミー賞候補となった『TINA ティナ』(93)以来29年ぶりのゴールデン・グローブ賞受賞となった。

ほかの部門では、『バビロン』(2月10日公開)が作曲賞を受賞。世界中で大熱狂を巻き起こしているインド映画『RRR』(公開中)は主題歌賞を受賞し、インド映画初の快挙を達成。アニメーション映画賞は『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』(Netflixにて配信中)が受賞し、非英語作品賞では『アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判』(Amazon Prime Videoにて配信中)がアルゼンチン映画としては37年ぶりの受賞を果たした。

第95回アカデミー賞のノミネートは、現地時間1月24日(火)に発表される。それぞれの作品から届けられる続報に注目していきたい!

■第80回ゴールデン・グローブ賞受賞結果

映画部門

作品賞<ドラマ部門>
『フェイブルマンズ』

作品賞<ミュージカル/コメディ部門>
『イニシェリン島の精霊』

監督賞
スティーヴン・スピルバーグ/『フェイブルマンズ』

脚本賞
マーティン・マクドナー/『イニシェリン島の精霊』

主演男優賞<ドラマ部門>
オースティン・バトラー/『エルヴィス』

主演男優賞<ミュージカル/コメディ部門> 
コリン・ファレル/『イニシェリン島の精霊』

主演女優賞<ドラマ部門>
ケイト・ブランシェット/『TAR/ター』

主演女優賞<ミュージカル/コメディ部門> 
ミシェル・ヨー/『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

助演男優賞 
キー・ホイ・クァン/『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

助演女優賞 
アンジェラ・バセット/『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

外国語映画賞
『アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判』/アルゼンチン

アニメ映画賞 
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

作曲賞
ジャスティン・ハーウィッツ/『バビロン』

主題歌賞
「Naatu Naatu」/『RRR』

TVシリーズ部門

作品賞<ドラマシリーズ部門>
「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」

主演男優賞<ドラマシリーズ部門>
ケビン・コスナー/「イエローストーン」

主演女優賞<ドラマシリーズ部門>
ゼンデイヤ/「ユーフォリア/EUPHORIA」

作品賞<ミュージカル/コメディ部門>
「アボット エレメンタリー」

主演男優賞<ミュージカル/コメディ部門>
ジェレミー・アレン・ホワイト/「一流シェフのファミリーレストラン」

主演女優賞<ミュージカル/コメディ部門>
クインタ・ブランソン/「アボット エレメンタリー」

作品賞<リミテッドシリーズ/テレビムービー>
「ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル」

主演男優賞<リミテッドシリーズ/テレビムービー>
エヴァン・ピーターズ/「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」

主演女優賞<リミテッドシリーズ/テレビムービー>
アマンダ・サイフリッド/「ドロップアウト〜シリコンバレーを騙した女」

助演男優賞
タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ/「アボット エレメンタリー」

助演女優賞
ジェニファー・クーリッジ/「ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル」

文/久保田 和馬