いまなお絶大な人気を誇る1980年代の傑作コミックを、ハリウッドで実写映画化した『聖闘士星矢 The Beginning』がいよいよ公開となった。車田正美の「聖闘士星矢」を原作とする本作は、女神アテナを守る戦士“聖闘士(セイント)”になる運命を背負った青年の活躍を描く物語。個性あふれるキャラクターや神話をモチーフにした壮大な世界観、壮絶なバトルを満載したアクション・エンタテインメントだ。そんな本作を「実にハリウッド映画らしいアプローチ」と分析するのが、“アメキャラ系ライター”を自称する杉山すぴ豊。SF、ファンタジー、コミックなどジャンルを超え、古今東西のヒーローコンテンツに精通し、原作ファンでもある杉山が、本作のコミック・ヒーロー映画としての見どころを語ってくれた。

幼いころに姉と生き別れになった星矢(新田真剣佑)は、彼女の行方を追いながら地下格闘技の世界で生計を立てていた。そんなある日、星矢は試合中に体内から強いエネルギーを放出し、宿敵カシオス(ニック・スタール)を倒してしまう。やがて星矢は謎めいた男アルマン・キド(ショーン・ビーン)から、自身が女神アテナの生まれ変わりの少女シエナ(マディソン・アイズマン)を守る聖闘士であると告げられる。半信半疑の星矢の前に、シエナをねらうヴァンダー・グラード(ファムケ・ヤンセン)率いる武装兵士が出現する。

■「膨大な情報量を誇る原作を、わかりやすく再構成しています」

壮大な善と悪の戦いを全246話にわたって描きだした原作コミックの「聖闘士星矢」。今回の映画化では、邪悪なものがはびこる時に現れる戦いの女神アテナと彼女を守る聖闘士という流れを押さえながら、「The Beginning」とあるように、星矢が聖闘士として覚醒する“はじまり”の物語が展開する、ヒーロー映画でいう「誕生編」という位置づけだ。

「膨大な情報量を誇る原作を、そのまま1本の映画として再現するのは無理な話です。そこで本作では、設定をシンプルにまとめ、複雑なストーリーをわかりやすく再構成しています」と語る杉山が感じたのは、映画としてのリアリズムだったという。「この映画は星矢が聖闘士として聖衣(クロス)を着るまでの話がきちんと描かれ、そのあとにバトルがあるので、知識がない方であっても楽しめます。あの原作を1本の映画にするのであれば、『こうなるよね』と納得できる作りになっていますね」。

■「原典へのリスペクトを欠かさないことが、コミック映画化の重要なポイントです」

そんな杉山が「観ていて重なった」と語るのは、ブライアン・シンガーが監督を務め、のちにシリーズ化もされた、現在まで続くユニバースの原点『X-MEN』(00)だ。「原作は登場人物も多く、舞台も大きな物語でしたが、映画版はウルヴァリンを中心にした5人程度の群像劇としてまとめていました。このアレンジのおかげで映画として非常に楽しめましたし、『聖闘士星矢 The Beginning』を観た時に『X-MEN』もこんな感じだったよなと思い出しました」と振り返る。

さらに、大切なのは「原作をどう切り取るか」だとも続ける。「アメコミは一つの作品をいろんなアーティストが描くという事情もありますが、例えば『バットマン』にしてもアダム・ウェスト主演のテレビドラマ版やクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』など、いくつものまったく違う解釈で映像化されてきています。原作どおりに映像化するのが必ずしも重要なのではなく、ちゃんと原典へのリスペクトを欠かさなければいいのだと私は考えています」。

■「アクションはもちろん、テレビアニメ版を思わせる表現にも注目!」

そのうえで、「聖闘士星矢」の核になるのが聖闘士たちのアクション。本作にも、地下格闘技の世界で生きる星矢の格闘アクションに始まり、カーチェイス、銃撃戦、戦闘ヘリによるスペクタクル、そして小宇宙(コスモ)を燃やして激突する聖闘士バトルが描かれる。「アクションはどれも迫力があり、見やすく描かれていました。クライマックスはマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『シャン・チー/テン・リングスの伝説』に近いものがあって、格闘アクションを展開しつつ、最後にはSFやファンタジックな要素が出てくる快感が味わえます。マーシャル・アーツ系のアクションだけでは終わらせないところは、流石にうまく作っていますね」と称賛。

聖闘士たちが戦闘で身に着けるクロスもテレビアニメ版をさらに発展させたようなアーマー風のデザインで、テレビアニメ版同様に装着シーンも見せ場になっている。「クロスはペンダント状になっていて、装着する時に巨大化してモチーフになっている聖獣が登場人物のバックに現れ、ガシャガシャと変形しながら体を覆っていくところもきちんと描いていましたね。このあたりのトランスフォームはどうするんだろう?と思っていたら、アニメに近い表現になっていたので、注目してみてください」。

■「豪華なキャスティングと、真剣佑さんの筋肉も必見です」

本作は新田真剣佑のハリウッド初主演作としても注目を浴びている。カリフォルニア生まれの新田はこれまでも『パシフィック・リム:アップライジング』(18)などハリウッド映画に出演してきたが、本格的に主人公を演じるのはこれが初めて。「この実写化でもっとも大切だと思うのは、星矢を演じるのが東洋人でなきゃいけないということ。真剣佑さんはアクションができるのはもちろんですが、暗い境遇の影響でアウトサイドに走ってしまう役が一番似合う俳優だと思うんです。それは『るろうに剣心 最終章 The Final』や『鋼の錬金術師 完結編』でも実証済みですよね。筋肉質に鍛え上げられた肉体もすごかったです!」と絶賛する。

脇を固める共演陣も豪華だ。星矢を見いだすアルマン・キドを演じるのは、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのショーン・ビーン、ヴァンダー・グラード役に前述の「X-MEN」シリーズでジーン・グレイを演じて人気を博したファムケ・ヤンセンと、ハリウッドスターが出演。日系人を母に持ち、近年では『ジョン・ウィック:パラベラム』で強い印象を残したマーク・ダカスコスも、執事のマイロック役で切れ味鋭いアクションを披露した。また、「ジュマンジ」シリーズで注目されたマディソン・アイズマンがシエナを演じ、原作やアニメとはまた違うアクティブなキャラクターになっているのも本作の魅力といえる。「豪華なキャスティングですよね。ファムケはシンガー版『X-MEN』のヒロインじゃないですか。彼女が演じたジーン・グレイはダーク・フェニックスになるキャラクターなので、“フェニックスの聖闘士”と戦うグラード役はねらってキャスティングしたのか気になります(笑)。マイロックを原作どおりにスキンヘッドでダカスコスが演じてくれたのもよかったです」と、実力派で固められたキャスティングに納得。

■「『アベンジャーズ』的な展開が予想される『2』に期待!」

本作は日本語吹替版も同時公開されるが、ボイスキャストも注目すべきポイントだ。「まず星矢は、真剣佑さんご自身が吹替えています。ショーン・ビーンは磯部勉さんで、『X-MEN』のウルヴァリンの雰囲気を感じられたのが僕的にはすごくうれしいです(※テレビ朝日放送版でウルヴァリンの吹替えを担当)。シエナは潘めぐみさんが担当しているのですが、テレビアニメ版では同じ役をお母さまの潘恵子さん演じていたんですよ!コアなファンにも刺さる絶妙なキャスティングではないでしょうか」とプッシュする。

星矢が聖闘士という過酷な運命を受け入れるまでを描いた本作。今後のシリーズ展開はいまのところ判明していないが、神々との戦いが幕を開け、さらなる聖闘士たちの登場も予想されるなど楽しみは尽きない。続編への期待を杉山に聞いてみると、もっとも注目しているのは「アベンジャーズ」的な展開になる2作目以降だという。

「パート2が作られるなら、共にアテナを守る聖闘士探しの物語が軸になり、『アベンジャーズ』のようなヒーローの結集が描かれるかもしれませんね。原作における『ポセイドン編』などアテナをねらう敵対勢力も次々と登場するでしょう。行方不明の星矢のお姉さんがどう絡んでくるかも気になりますね。神々同士の戦いが近づき、それにアテナと聖闘士が立ち向かうという設定がわかっているので、次からは見せ場をどんどん作っていける。アメコミ映画もそうですが、すでに基本ができている『2』のほうがよりおもしろくなると思います。早く続きが観たいですね!」と、コミック・ヒーロー映画らしい『2』の誕生に期待を寄せた。

取材・文/神武団四郎