『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(81)の公開から40年が過ぎ、いよいよ最終作となるシリーズ第5作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(6月30日)の公開が迫ってきた。

主人公のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は、普段は大学で教鞭を執る考古学の教授だが、太古へのロマンを愛し、未知の秘宝を探し求める好奇心あふれる冒険家だ。そのインディの敵となるのは、アドルフ・ヒトラーが率いるナチス・ドイツや東西冷戦時に西側諸国と対立していたソ連の軍隊。なぜ、インディは軍隊を相手に古代文明の秘宝を奪い合うのか?そこには、1970年代に世界を沸かしたオカルトブームと作品の背景となる時代性が大きく関係している。

■社会情勢への不安を背景に盛り上がりを見せたオカルトブーム

心霊、UFO(未確認飛行物体)、UMA(未確認生物)、オーパーツ、超能力など。現代科学では解き明かすことができない、神秘に満ちた超自然的な事象を“オカルト”と呼び、1970年代には「1999年七の月に人類は滅亡する」という「ノストラダムスの大予言」をはじめとしたオカルトブームが巻き起こった。ブーム発生の理由は諸説あるが、70年代は東西冷戦を発端とする核開発競争による社会情勢の悪化、公害やオイルショックといった社会問題からくる将来への不安を背景に、超自然的なものへと興味が移り、「“怖い”をおもしろがる」という風潮が広がり始め、世界各地にある超古代文明の残した謎の遺物などにも関心が広まっていく時代だった。シリーズ第1作『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』は70年代後半から製作がスタートしており、世界的に広がったこのオカルトブームの影響を大きく受けていることは間違いないだろう。

■ナチス・ドイツやソ連がオカルト的な遺物を求めていたという逸話がストーリーの軸に

一方で、そんなオカルト関連の秘宝をナチス・ドイツやソ連の軍隊がなぜそんなに欲しがるのか…?と思う方もいるだろう。実は、第二次世界大戦期から冷戦にかけて、オカルトと軍隊は密接に関わる要素を持っていたのだ。

有名なものを挙げると、ナチス・ドイツの母体の一つとなったのは、国粋主義者のトゥーレ協会という団体であり、その前身は神秘的なものを信仰する秘密結社であった。そうした流れから、ヒトラー自身も軍事顧問のなかに占星術師を入れていた事実や、「勝利や繁栄につながる」とされるキリストの聖遺物への執着があったとも言われている。そうした背景があることから、ナチス・ドイツとオカルトを関連付けて、マンガや小説などフィクションのネタに何度も取り入れられてきた。

ソ連に関しては、「ソ連は超能力を軍事利用したサイキック兵器を開発しているのではないか?」とCIAが疑いをかけていたことがあった。ソ連によるサイキック兵器の信憑性や有用性に関して、CIAが調査していたことを記した文書などが発表された経緯もあり、ナチス・ドイツとは異なる方向でオカルトと兵器開発のつながりが噂されていたのだ。これには、スプーン曲げで有名な超能力者ユリ・ゲラーの登場の影響も大きかったようだ。

こうした時勢的な背景を受けて「インディ・ジョーンズ」シリーズでは、「軍によるオカルト的な遺物の兵器転用」が重要な要素となっていた。特殊な力を持った秘宝に触れた古代の人々は、それが悪用されないように封印する。しかし、時が流れて軍事や政治目的で秘宝を利用しようとする者が出現し、考古学者だからこそ先人たちの思いに理解があり、悪用されないように行動するインディとの攻防が勃発。この対立構図がストーリーの基本となっているのだ。では、そうしたバックグラウンドを踏まえ、改めてシリーズを振り返っていこう。

■「十戒」が収められた聖櫃(アーク)を巡る戦いを描く『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』

『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』では、モーゼが神から預かった10の掟が記された石版「十戒」が納められている契約の箱とも言われる聖櫃(アーク)を巡る戦いが描かれた。舞台となるのは第二次世界大戦の開戦が迫る1936年で、ナチス・ドイツが勢力を拡大し、ヒトラーの独裁体制が強固となっていた時代。旧約聖書によると聖櫃には超自然的な力が秘められており、敵と戦う際には街を壊滅させるほどの武器にもなったと記されている。ナチス・ドイツが今後のヨーロッパ進出に向けて聖櫃を手に入れ、その強大な力を軍事利用しようとして本格的な発掘作業を始めたと、インディはアメリカ政府の諜報員から知らされる。そこで彼は、考古学的な知識を駆使して聖櫃をナチス・ドイツよりも先に手に入れるべく奮闘することになる。

クライマックスでは、聖櫃の神がかった“力”がどういうものか、その蓋が開かれ、旧約聖書に記された驚異的な力の正体がわかるシーンが描かれている。この人智の及ばない超自然的な力の存在は、シリーズの大きな指針を作ったと言えるだろう。

■秘石「サンカラ・ストーン」の力で人々を苦しめる邪教集団との戦い…『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』

第2作『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(84)は、時系列的には『レイダース』の前年にあたる1935年を舞台にしている。前作がヨーロッパからエジプト方面にかけてナチス・ドイツとの攻防を描いていたことから、作品の雰囲気や仕上がりは異なるテイストに。インドの奥地にある小さな山村で奉られている秘石「サンカラ・ストーン」を巡り、石を奪った邪教とインディとの戦いが繰り広げられる。

インドが舞台ということでオリエンタルな雰囲気が全体に漂うだけでなく、村々からさらって来た子どもたちを鉱山で働かせる邪教集団の禍々しさ、東洋的なオカルティシズムを感じさせる信仰の描写はとにかく不気味。シリーズのなかでも特に異色の作品となっているが、落下する飛行機からの脱出やトロッコを使ったチェイスなど連続活劇的なアドベチャー要素は、結果作品イメージを広げることに成功したとも言える。

■“聖杯”を求めてインディとヘンリーの親子が大活躍する『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』

第3作『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(89)は『レイダース』から2年後の物語。鍵となるのは、イエス・キリストが最後の晩餐でワインを飲み、その後、彼がローマ帝国に捕まって十字架に磔刑され、ロンギヌスの槍で貫かれた際に脇腹からこぼれ落ちた血を受けたとされる“聖杯”。キリストに関連した聖遺物として有名で、「アーサー王物語」でも騎士たちが探す宝物として登場しており、病気を治癒する超自然的な力を持つという伝承もある。

アメリカの富豪から依頼され、聖杯を見つけようとしていたインディの父親ヘンリー(ショーン・コネリー)が行方不明に。そのことを富豪から聞かされたインディは、生涯をかけて聖杯探しをしていた父が残した「聖杯日誌」をもとに、ヘンリーの助手であったエルザ(アリソン・ドゥーディ)と共にその行方を追うことになる。物語が進むなかで、インディは今回の事件はナチス・ドイツの陰謀であり、聖杯から得られる「永遠の命」をねらっていることが判明する。『レイダース』に続いてナチス・ドイツが暗躍し、豊富な人材と資金を投入して大規模な秘宝の奪取を試みるのをインディが阻止するという構図が、この作品でも大きな縦軸となっていると言える。

■超常的な力を秘めた水晶の髑髏を巡る攻防『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』

第4作は『最後の聖戦』から約20年ぶりに製作された『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(08)。1957年が舞台で、第二次世界大戦は終結し、ナチス・ドイツも崩壊。しかし、世界はソ連と共産主義陣営が集まる東ヨーロッパとアメリカを中心とした西ヨーロッパ諸国によって分断された東西冷戦の状況にあり、政治から軍事、外交、経済、宇宙開発などの面で対立していた。特に、双方共に核開発を推し進める様子、アメリカ国内での反共産主義運動が盛んになる状況が色濃く描かれているところが印象的だ。

インディはアメリカに潜入していたソ連兵に捕まり、1947年にニューメキシコ州のロズウェルで起こったUFO墜落事件で、軍が入手した強い磁気を発する箱を機密保持倉庫から捜すように命じられる。その中にあったのは、磁力を発する小さなミイラだった。この事件をきっかけに、FBIからソ連との関係を疑われたインディはアメリカを離れようとするが、その途中でマット(シャイア・ラブーフ)と名乗る青年と出会う。マットが母親から託された手紙によってインディはペルーに向かい、絶大な力を持つという水晶の髑髏=クリスタル・スカルを探す冒険に旅立つことになる。

クリスタル・スカルはペルーで発見されたもので、その精緻な仕上がりは当時の技術では作りだすことができないレベルのものであり、該当する年代に合わない場違いな工芸品=オーパーツではないかと言われていた。特殊な屈折率を持つ髑髏型の水晶の存在は、想像力を喚起させる要素に富み、多くのフィクションにおいて特殊な力を発揮するキーアイテムとして登場している。『クリスタル・スカルの王国』では、これを宇宙人やUFOと結びつけることで、よりオカルティックな方向性を模索していたと言えるだろう。

■米ソの宇宙開発競争にナチスの陰謀が絡むシリーズ集大成『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』

そして、シリーズ最新作にして最終作と言われる『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は1969年が物語の舞台に。前作に続いて東西冷戦期を背景にしており、アメリカとソ連による苛烈な宇宙開発競争を題材に、インディがかつてナチス・ドイツで科学者をしていたユルゲン・フォーラーを相手に歴史を変えるとされる秘宝「運命のダイヤル」の争奪戦を繰り広げる。

マッツ・ミケルセン演じるフォーラーは、元ナチス党員であり、その後NASAに務めて米ソの宇宙開発競争の中心人物であったヴェルナー・フォン・ブラウンがモデルと言われている。米ソの宇宙開発競争にナチスの陰謀が絡むという展開は、シリーズの集大成としてはまさに申し分ないものだと言えるだろう。オカルトと軍隊は今作でも、「インディ・ジョーンズ」シリーズのバックグラウンドとして大きく機能しそうだ。

文/石井誠