MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、時を越え愛され続けるディズニーの名作アニメーションの実写化、AI人形の狂気的なまでの愛情を描いたサイコスリラー、ターニングポイントを迎えた男が一歩踏みだすまでの日々を捉えたヒューマンドラマの、バラエティに富んだ3本。

■“シンギュラリティ“の最悪の形態!?『M3GAN/ミーガン』(公開中)

殺人人形というと『チャイルド・プレイ』(88)があまりに有名で、そのリメイク版では人工知能の暴走が描かれたが、本作のAI搭載ドールもゾッとするほどのスグレモノ!?その人形“M3GAN“は、子どものお友だちになるだけでなく、しつけもするし、家庭教師にもなるし、一緒にダンスもする。ユーザーと接すれば接するほど相手を知り、慰め、励ましてくれる。が、学習が行き過ぎて、ユーザーが憎んだ相手を容赦なく殺してしまうのだから恐ろしい。

人工知能が人間を超える“シンギュラリティ“の問題は現在進行で議論されているが、ここにはその最悪の形態がある。ブラックユーモアを味わうとともに、近未来に訪れるかもしれない現実に、ドキドキして欲しい。(映画ライター・相馬学)

■ときめきが一気に押し寄せてくる…『リトル・マーメイド』(公開中)

1989年のアニメーション版との「違い」が話題になっている本作だが、全体を通して「あの映像を実写にしたら、こうなる」というラインを守った印象。物語の基本的な流れはもちろん、ポイントとなるシーンでのアングルやカメラワークなどアニメ版をそのまま再現されたりして、ときめきが一気に押し寄せてくる。フランダーやセバスチャンなど実写化にハードルが高かったキャラも、だんだん目に馴染んでくるし、名曲「アンダー・ザ・シー」では、意外な海の生き物たちも大挙して楽しさを盛り上げる。

アリエル役のハリー・ベイリーも、舞台がカリブ海と明言されているので、その意味で納得のキャスティング。とにかくその歌唱力は圧倒的。特に陸に上がることを夢みる「パート・オブ・ユア・ワールド」では歌詞が切々と胸に迫ってきて、ミュージカル映画史上でも最高レベルのシーンとなった。そして別の見どころは、魔女アースラ(メリッサ・マッカーシー)まわりの描写。かなり振り切った豪快な演出は目を疑うほどで、ここにも実写化の意味を強く感じた。(映画ライター・斉藤博昭)

■監督が敬愛する光石研をアテ書き…『逃げきれた夢』(公開中)

名バイプレイヤーとして知られる光石研の、『あぜ道のダンディ』(11)以来12年ぶりとなる単独主演映画。長編初監督作『魅力の人間』(12)で世界的に注目を集めた新鋭、二ノ宮隆太郎監督が2019年のフィルメックス新人監督賞グランプリに輝いた自らの脚本を映画化した本作は、定時制高校の教頭として働く末永周平が、記憶が薄れていく症状に見舞われたのをきっかけに自らの人生を振り返り、新たな一歩を踏みだすまでを見つめた人間ドラマだ。

二ノ宮監督が敬愛する光石研をアテ書きした脚本、光石の故郷である北九州で撮影。シナリオハンティングを一緒にした際の光石の言葉や実体験なども盛り込まれていることもあって、優しそうだが、相手のことをちゃんと見ていない、実は自分勝手でズル賢い自身の半生を見つめ直す周平を演じた光石の芝居がいつも以上に生々しい。なかでも旧友の石田(松重豊)に痛いところを突かれてムッとしながらも笑ってごまかすシーンや冷めきった関係の妻(坂井真紀)と娘(工藤遥)、施設にいる物言わぬ父親(光石の実の父親が好演!)に本音をぶちまけるシーンでは目が釘付づけに。定食屋で働く元教え子(吉本実憂)から悩みを打ち明けられてもなにも返せないクライマックスでも嘘のない“丸裸の人間“がくっきりと炙りだされる。そんな周平=光石に自然と自分を重ね、心をかき乱されることになる。(映画ライター・イソガイマサト)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼