汐見夏衛の人気小説を、11人組グローバルボーイズグループJO1のメンバー、白岩瑠姫と、ティーンに絶大な支持を集める久間田琳加のW主演で映画化した映画“夜きみ”こと『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(公開中)。新進気鋭の酒井麻衣監督がメガホンをとった本作は、優等生を演じるうちに周囲に本音を言えなくなり、マスクを手放せなくなった茜(久間田)の世界を、自由奔放なクラスの人気者である青磁(白岩)が変えていく青春ラブストーリーだ。

MOVIE WALKER PRESSでは今回、映画初出演にして初主演という大役を果たした白岩に単独インタビューを敢行。自身を作ったという過去の経験を振り返ってもらいながら、「運命的」という青磁との共通点について、語ってもらった。

■「僕は青磁の考え方にすごく親近感を抱いていた」

初主演作について「映像や音楽がきれいで、視聴者として観ても、すごくいい作品だった」と語る白岩。取材時までに4回鑑賞し、ようやく自分の演技を観ることに慣れてきたという。「1回目に観た時は、不安が多くてまったく集中できなかったんです。でも回を重ねるごとに、細かい部分を気にする余裕が出てきました。ここよかったな、ダメだったなっていうところも見えてきたし、『もしも次に演技をすることがあればこうしよう』と考えることもありました」。

「なにをしたら役作りになるのかっていうこともわからなかった」という状態での初主演。そのなかでも白岩は“あること”を強く意識していたという。「演じてしまうと嘘っぽくなりそうな気がして。自然に、“演じすぎない”ことを意識しました。僕は青磁の考え方にすごく親近感を抱いていたので、力を抜いて演じてみたほうが、青磁に見えてくることもきっとあると思ったんです」。

白岩が青磁に抱いたという「親近感」とは?「青磁は茜に、『人生は一度しかないから、言いたいこと言って、やりたいことやったほうがいい』とか、『時間は永遠じゃない』って言うんです。僕も、すべてのことが永遠だとは思っていません。いまJO1であることもそうだし、ファンの方がずっと好きでいてくださるわけでもないと思っている。切ない考え方かもしれないけど、始まってしまったら終わりがあると思っています。そういう、普段は言わないけどいつも思っていたことが、台詞になっているみたいに感じたんです」。

■「芽が出なかった時代が長かったことが、いまの僕の考えにすごく関わっている気がする」

白岩は現在、25歳。有限を知るには少し早いのではないか――。聞けば、中高生の頃にはもう「永遠はない」と思って生きていたという。そう思うようになったきっかけは、JO1としてデビューする前から芸能の世界に身を置いていた、彼の過去に遡る。

「以前活動していた時のファンで、JO1になったいまの僕をそのまま応援してくださっている方は、それほど多くはないんじゃないかと感じています。“好き”って言ってくれていた人が離れていってしまうのを経験してきて、『あと何年、僕を愛してくれるか』と考えては、『永遠ではないよな』と思ってしまうんです。決して、人を信用していないわけではないけど。そういうことを長年感じてきて、この考えに行きついたのかなと思います、多分」。

やや早口になる語調から、切実な思いが伝わる。しかしその考えに至った経験こそが、青磁を演じるにあたって活きた。作中で青磁が茜を変えたように、白岩にとって「自分を変えてくれた人」について尋ねると、しばらく悩んだ末にこんな答えが返ってきた。「経験」、すなわち「過去の自分」だ。

「前にいたグループもJO1と同じ11人組だったんですけど、11人より少ないお客さんの前でライブをすることもありました。芽が出なかった時代が長かったことが、いまの僕の考えにすごく関わっている気がします。その経験がなかったら、青磁を演じても共感できなかったと思います」。

■「過去があったからこそ、出会いも経験もあって、いまがあるから」

タイトルにちなみ、「夜が明けたら」――朝焼けの思い出を聞いた時にも、当時見たある景色が思い浮かんだという。

「地方でのライブの時、前のグループの時は夜行バスで、当日の朝に現地に着いて、その足で会場に向かって、ライブをやっていたんです。いま、ふいに“朝焼け”って言葉を聞いて、その時に見た景色を思い出しました。きつかったけど、大事な経験だったなって思います。いまは当時よりもずっと忙しいけど、あの経験があったからこそ、“ありがたいことだな”と思えます」。

過去と現在は地続き。そう語る白岩に、「過去の自分を褒めてあげたいか」と尋ねると、イエスとは言わず、苦笑いした。「苦しい時間ではあったから。戻りたいかって言われたら…ちょっと難しい(笑)。でも、決して無駄ではなかったなって思います。過去があったからこそ、出会いも経験もあって、いまがあるから」。

■「少女漫画を読むことも、観る方をキュンとさせることも、恥ずかしいことでもなんでもないと思う」

青磁の台詞を、改めて聞くようなインタビュー。嘘のなさに驚くと、白岩自身も同じように感じていた。

「原作を読み終えた日、『こんなにも、主人公が僕なことあります?』って、(事務所の)社長に連絡したくらい。運命だったんですかね」。

もう一つ、演技に活きた“経験”があると白岩。それは、少女漫画を読んで培った“キュンとするイズム”だ。

「高校の時、少女漫画が好きでよく読んでいたのですが、少女漫画を読むと演技の勉強になると思いました」。青春ラブストーリーはひと通り網羅。「(よどみなく)『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』、『オオカミ少女と黒王子』、『アオハライド』、『近キョリ恋愛』…公開されたら必ず観に行っていました。僕がいま、現役の高校生だったら、絶対に『夜きみ』を観に行っていると思います」。

そして、「その時感じたものが、今回の映画にも繋がっていると思う」と続ける。

「自転車で茜と二人乗りをするところで、青磁が茜の手を自分の腰に持っていくシーンがあるんですけど、もともと台本にはなかったんです。でも、『こうやった方がときめくんじゃないかな?』と、アイデアが出てきました。少女漫画を読むことも、観る方をキュンとさせることも、僕は恥ずかしいことでもなんでもないと思っています」。

■「僕が思っているよりも、感情がちゃんと出ているんだと最近知った」

自身の意見を出すまでに成長した、初めての映画作り。そのおもしろさについては、こう話す。

「普段は11人で仕事をすることが多いので、1人で撮影に行くことがまず新鮮でした。毎日が新しいことだらけで、学べることばかりで、全てが楽しかった。もしまた機会があれば、次はもっと成長した姿で頑張りたいです。演技に対する見方、考え方を変えてくれた、いろんなことを教わった作品でした」。

他者から見た自分像と、自身が思う自分像は異なる、という気付きも与えてくれる本作。自身について「感情が出にくいタイプ」と分析する白岩だが、取材時の彼は、好きなことを話す時には大きな瞳がきらきらと輝き、困った時には“困った”と、まるで顔に書いてあるかのようだ。そう伝えると、ほほえましいエピソードを明かしてくれた。

「そう!人から見ると、意外と出ているらしい(笑)。例えばメンバーが誕生日を祝ってくれた時も、すごくうれしい、でも恥ずかしい。『このサプライズにうまく喜べてるかな?』って客観的に見ている自分は確かにいるんです。でもメンバーからすれば、僕の声がワントーン上がるだけで、喜んでるってわかるみたいで。僕が思っているよりも、感情がちゃんと出ているんだなあと最近知りました」。

■「生きているうちに、できるだけ知識を増やしたい、知らないことを減らしたい」

こうした愛すべき白岩の人間味は、彼にとってのヒーローを聞いた時にも。挙げてくれたのは海外ドラマ「プリズン・ブレイク」の主人公マイケル・スコフィールド。「『プリズン・ブレイク』がとても好きだから」というのが理由だが、なぜいま、同作を、そして彼の名を挙げたのかについては、誰もが頷く理由があった。

「世界的に有名な映画を観たくなる時があるんです。『タイタニック』も大好き。大きな世界を観ると、『こんなことで俺、悩んでたんだ』って、前向きになれる。僕よりも大変な状況にいる人、世界規模で戦っている人を見ると、『こんなことでめげてちゃいけないな』って背中を押されるし、自信になるんです」。

最近、映画をよく観るようになったという白岩。理由の一つは、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』を経験したから。そして、もう一つ。

「生きているうちに、できるだけ知識を増やしたいというか、知らないことを減らしたいと思うようになって。それで、マーベルシリーズを1作も観たことがなかったから、観始めたんです。やっぱり知識が増えると、話せることも、話せる人も増えるし、幅が広がる。いっぱい映画も観て、いっぱい勉強して、知識を増やすべきだなと思っています」。

映画鑑賞は、食後に自宅でまったり派。実は映画館でポップコーンを食べた経験もないのだという。それゆえ鑑賞時には、“映画セット”と呼ぶちょっとしたこだわりがある。

「そんな大それたことではないんですけど(笑)。自分の好きなスイーツとか飲み物を宅配で頼んで、つまみながら観るんです。最近は『スパイダーマン』を1から『ホームカミング』までばーっと観たんですけど…(やや恥ずかしそうに)タピオカを飲みながら。いや、タピオカが特別好きとかじゃなくて、その日はタピオカの気分だっただけです(笑)」。

■「自分の存在をちゃんと尊重して、自信を持ってほしい」

最後に、いまを生きるすべての人に向けた、本作のメッセージについて。言いたいことをなかなか口にできず、他者の顔色をうかがってしまう茜のような人々に対して、青磁を演じた白岩だからこそ伝えられる言葉がある。

「茜みたいに、言いたいことが言えなかったり、空気を読んで周りに合わせてしまったり…それは、今の世の中全体がそうじゃないかなって僕は感じています。だからといって、みんながみんな青磁みたいに生きろっていうわけではないです。だけど、『きついことや辛いことから逃げるのがダメ』みたいな風潮について、僕はそう思わない。一度きりしかない人生で、そこまで辛い思いをして、我慢をするくらいなら、いっぱい別の道があると思う。そういう気付きや勇気が少しでも伝わればいいなと思いながら演じました」。

そして、白岩瑠姫としてもメッセージを寄せた。

「きついことや、逃げたくなるほどしんどいことがあった時は、無理をしないでほしい。周りの人ももちろん大事だけど、まずは自分を一番大事に思ってあげてほしいです。誰にも、代わりはいないじゃないですか。僕も、僕に代わる人はいないと思うし、僕が茜になれるわけでもない。だからみんな、自分の存在をちゃんと尊重して、自信を持ってほしいです」。

白岩が経験してきたこと、そのなかで感じ培ってきたもの――すべてを込めた初主演作となった。

取材・文/新亜希子