第69回カンヌ国際映画祭をはじめ世界中の映画祭を席巻し、韓国で爆発的なヒットとなった映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』がいよいよ日本上陸(9月1日公開)。時速300キロで疾走する特急列車を舞台に、ゾンビ化した人間たちが大暴れする本作。ゾンビの恐怖におののき、そのなかで生まれる人間ドラマに胸熱くする、興奮必至のサバイバル・アクションとなった。メガホンをとったヨン・サンホ監督を直撃し、ゾンビを描く上でのこだわり。ゾンビというモチーフがクリエイターたちを刺激する理由について語ってもらった。

舞台は、日本の新幹線にあたる韓国の高速鉄道KTX。父と幼い娘、夫と身重の妻などあらゆる人々を乗せた列車に、人間を凶暴化させる謎のウイルスに感染した女性が乗車。次々と感染者は増殖し、残された乗客たちが壮絶なサバイバルを繰り広げる姿を描く。

思えばゾンビというモチーフは長年、多くのクリエイターたちを刺激してきた。「なぜ作り手はこれほどまでにゾンビに惹きつけられるのか?」と聞いてみると、サンホ監督は、“ゾンビの父”とも言われ、2017年7月に亡くなったジョージ・A・ロメロ監督の存在が大きいと話す。「ゾンビというモチーフはとても魅力的。ロメロ監督が“ゾンビ映画”というジャンルを作ってくれたけれど、基本的な設定や彼らの起源など、ロメロ監督はあらゆることを未知のままに残しておいてくれたんだ」。

ゾンビを描く上では、彼らの動きをどう表現するのか?ということにも注目が集まる。本作では、雪崩のように人間に襲いかかる大量ゾンビ団など、スピード感もたっぷりな“ダッシュ系ゾンビ”を見ることができる。サンホ監督は「ゾンビはゆっくり動くべき、いや、速い方がいいと論争になることがある」とにっこり。「ダニー・ボイル監督が『28日後...』で走るゾンビを描いてから、その論争はますます激しくなった。それに対してロメロ監督は、何年か前に『ゾンビは速くない』と公式的に答えたんだけどね(笑)」。

ではサンホ監督の持論はいかに?「ゾンビというのは“生きている死体”だ。だから死後硬直があると思うんだ。死後硬直が始まると筋肉が動かなくなるので、ゾンビというのはそこまで速く走れないんじゃないか?というのが、私の考え。でもザック・スナイダー監督が『ドーン・オブ・ザ・デッド』を撮ったときに、発病しはじめの頃は、まだ新鮮なゾンビなので腐っていない。だから速く動けるんだと主張していて。これはとてもうなずけるものだった」と時間の経過に注目している様子。本作では、ゾンビの感染レベルに注目して、イメージや動きも変化させたという。

また、「ゾンビという存在が持つ根本的な恐怖も描きたかった。これはゾンビ映画の持つ、クラシカルな部分だと思う」とこだわりを語る。「ゾンビが恐ろしいのは、自分が愛していた人が“別の存在”に変わってしまうことへの恐怖。そして、もしかしたら自分も“別の存在”に変わってしまうのではという恐怖。そのふたつの恐怖があると思う」というが、その恐怖を見た目として表現するためにあるアイディアを思いついたそう。

「ゾンビの動きを考える上では、アルツハイマーの病気にかかった方の動きというのも、参考にさせてもらった。家族から見ると、これまで家族だったのに、まったく“別の存在”になってしまったことを目にする瞬間もあるわけで。これは本当に心が痛むこと。同時に自分がそうなるかもしれないという恐怖もあるよね。振付担当のパク・ジェインは、そういう動きも反映してくれたし、あとアクティブなゾンビについては、ボーンブレイクダンスという関節を曲げるダンスも取り入れてみたんだ」。

「ゾンビは、見た目が“普通の人”だからこそ、あらゆるインスピレーションを与えてくれる」とサンホ監督。阿鼻叫喚の地獄絵図と化す車内。迫力の恐怖描写とゾンビ映画のカタルシスを存分に堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】