NetflixやHuluといった既存のサービスに加えて、2019年の11月に開始される「Disney+」や「Apple TV+」、そして膨大なコンテンツを提供することで注目されている「HBO Max」(2020年4月に開始予定)など、次々と新しい配信サービスが展開しているストリーミング業界。その競争へ少し違ったアプローチで参加することで注目されているのが短尺作品を専門とする「Quibi」(クウィビー)だ。

米調査会社eMarketerの調べによると、2019年に米国の消費者は、史上初めてテレビの視聴時間よりも、モバイル機器の使用時間が長くなるという。モバイル機器のうちスマホがその70%を占め、 スマホの使用時間の90%がアプリで費やされるというデータからも、メディアの強豪会社がこぞって独自のストリーミングアプリの開発に勢力を注ぐ理由がわかる。

「Quibi」は、ドリームワークス・アニメーションの元CEOであるジェフリー・カッツェンバーグと、ヒューレット・パッカード(HP)の元CEOのメグ・ホイットマンが立ち上げた。こちらは、広告収入とサービス料からの収入の組み合わせで提供される配信サービスで、2020年の4月に開始される予定。CNBCを含める経済サイト複数が報じる情報によると、「Quibi」はすでにP&GやGoogle、アンハイザー・ブッシュ、ウォルマート、ペプシといった米国の大企業と1億ドル相当の広告契約に成功しているそうだ。そのほかにも、カッツェンバーグのハリウッドのコネを駆使し、21世紀フォックス、ディズニー、ソニー、ワーナーメディア、ヴァイアコム、Entertainment One、ITVといった映画やテレビスタジオ大手からの出資も確保。加えてアリババからの出資も受けて、調達できている資金総額は総計10億ドルに上るそうだ。

Quibiがストリーミング・サービスとしてユニークなのは、広告表示の有無をユーザーが選択でき、月額4.99ドル(約540円)、または7.99ドル(約860円)という料金設定2つが用意されている点と、モバイル・ユーザーを完全なるターゲット層として開発しているため、配信される動画すべてが短尺作品であるという点だ。サービスの名前である「Quibi」は 「quick bite (気軽に短時間で食べられるもの)」を意味しており、通勤中やお昼休みなど、スマホ・ユーザーの行動パターンとして定着し易いよう、コンテンツの尺はどれも10分以下になる。

カッツェンバーグはVanity Fairとのインタビューで、「Quibiは、テレビの代替でも競合でもないと確信しており、断言し続けたいと思っています。このサービスは、(ユーザーがテレビを見ない)午前7時から午後7時までの、携帯電話の使用時間帯を狙っています。私たちの主なターゲットである25歳から35歳のユーザー層は、現在YouTube、フェイスブック、インスタグラムやスナップチャットのコンテンツを毎日60〜70分間視聴しています。Quibiはこのように確立されたユーザーの行動パターンに切り込もうとしているんです」と語っている。

加えてカッツェンバーグは、Netflixやアマゾン、Huluの視聴者のたった10%がスマホでコンテンツを視聴しているのに対し、「Quibi」のターゲット層はモバイル機器のユーザーのみであることが特徴だと強調している。Quibiのアプリは、スマホのために開発されているため、アプリ内でコンテンツを縦向きでも横向きでも自由に視聴できるようになっており、クリエイターたちは製作の段階で「縦向き」の画角を意識した映像作りに挑むことになる。

また、ハリウッド屈指の有力人物であるカッツェンバーグのストリーミング・サービスとあって、トップ・クリエイターがコンテンツを手がけることでも注目を浴びている。米国で有名なお笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ」(SNL)のプロデューサー、ローン・マイケルズが手掛ける殺人ミステリーや、スティーヴン・スピルバーグ監督が書き下ろした、日沈後のみしか視聴できない仕掛けが施されるホラー・シリーズの「Spielberg's After Dark(原題)」、ギレルモ・デル・トロ監督が手掛ける「現代のゾンビ」をテーマにしたシリーズ、リアム・ヘムズワースが主演のアクション・スリラーや、イドリス・エルバが、モータースポーツ選手のケン・ブロックとスタント・ドライビングで対戦する「Elba vs. Block(原題)」など、現在約7000本以上のオリジナル・コンテンツの企画製作が進められている。Quibiは、これらオリジナル・コンテンツの独占配信権を7年間保持する契約になっているが、Quibiでの配信開始の2年後以降、コンテンツのクリエイターたちはその短尺動画を1本の長編作に編集し直し、世界に販売&配給することが許されるのだそうだ。

「Quibiには、ビジネスとしての可能性がクリエイティブな可能性と同等にあることは間違いありません。その発想の元は昔のテレビ業界にあります。昔はテレビ局がコンテンツの知的財産権を持つことはなく、特定の期間だけ放送権を取得していました。クリエイター達は、放送終了後のコンテンツの権利を持つことで、真の利益を得ることができていたんです。Quibiは、オリジナル・コンテンツを手掛けるクリエイター達にきちんと割のいい報酬を提供し、なおかつ素晴らしい作品を製作した2年後に、彼らが作品の知的財産権を得ることができるのも特徴で、魅力なんです」と、カッツェンバーグはコメントしている。

実際に、「イコライザー」シリーズで有名な映画監督のアントワン・フークアは、「#FreeRayShawn(原題)」という元米軍兵がドラッグ取引に巻き込まれるという作品を長編映画として監督予定だったのだが、 視聴者が求める形でコンテンツを届ける「Quibi」の企画に賛同し、同プラットフォームで製作することを決意したそうだ。フークアは「これに勝る環境はないね。Quibiが映画の製作費を提供してくれて、数年後には僕が作品の知的財産権を得ることができるんだ。素晴らしいよ」と語る。

いままでに米国で、スマホをベースにした短尺動画のストリーミング・サービスはVerizonのGo90や、Vesselなどがあったが、どれも視聴者層の獲得とコンテツ開発の壁にぶち当たり失敗に終わっている。カッツェンバーグは、IT業界のノウハウを持つメグ・ホイットマンを味方に、 ユーザーが気軽に使うことができ、なおかつクリエイターたちが意欲的に作品の製作ができる場所として、 スマホ特化の配信サービスを再開拓しようとしているようだ。(Movie Walker・LA在住/小池かおる)