サザンオールスターズのドキュメンタリー映画やCM、ミュージックビデオなどを手掛け、国内外から高い評価を獲得してきた常盤司郎監督。構想7年という渾身の脚本で長編映画監督デビューを果たした『最初の晩餐』が公開中だ。主人公の東麟太郎役を演じた染谷将太に、「台本から立ち上る香りそのまま」だったという現場の舞台裏や、食にまつわる家族の思い出、「錚々たる面々」との共演エピソードなどを聞いた。

染谷が扮するのは、父(永瀬正敏)の葬儀のために故郷へ帰ってきたカメラマンの麟太郎。姉の美也子(戸田恵梨香)と通夜ぶるまいの準備を進めていると、母のアキコ(斉藤由貴)が勝手に仕出しをキャンセルしていたことが判明。しかも「自分で作るから大丈夫」と言いだした。運ばれてきたのは、父が初めて家族に作ってくれた料理である目玉焼き。懐かしい料理に父との思い出が蘇ってくるなか、家族も知らなかった父のある秘密が浮き彫りになっていく…。

「かなり早い段階で声を掛けられた」という染谷は「最初に台本を読ませていただいたのは、確か23か24くらいの時だったと思います。本当に素敵な台本で、すごくありがたかった。やらせてくたさいと手を上げさせていただいた後、ちょうど自分が結婚したのもあり、常盤監督が『家族を作ろうとする話にしたい』とおっしゃっていたのが印象的でした」と振り返る。

「麟太郎は受け身の役だと捉えていたので、そこに居てなにを感じるのかを一番大事にするつもりで現場に臨んだ」という染谷だが、斉藤、戸田、窪塚洋介という世代の異なる実力派俳優たちとの共演には、かなり翻弄される場面も多く、大いに悩んだという。

「錚々たる共演者の皆さんに掻き乱されたといいますか(笑)。自分の想像をはるかに超えてくる感情が周りに広がっていて、皆さんがこちらにいろいろなものを投げかけて下されば下さるほど、悩みが深くなっていったんです。でも途中から『麟太郎は悩んでいるのだから、悩みながら演じたほうがいい』って思って、そのままやることにしました(笑)」

戸田扮する“勝気な姉”美也子と繰り広げる姉弟喧嘩や、窪塚演じる血のつながらない“シュン兄”との距離感も絶妙だ。

「今回は戸田さんの圧倒的な“姉貴感”のおかげで、僕の“弟感”も引きだされたような気がしています。洋介さんとは過去に何度か共演させてもらったことがあるんですが、現場でそれらが全部リンクして、『久々に現れた!』って言う感じがすごくリアルだったんです。現場で初めて4人が揃った時は、なんとも言えない微妙な温度感になりました。若干人見知り気味の大人たちが、お互いに距離感を探っているような感じとでもいいますか…(笑)」

染谷が演じた麟太郎は「常盤監督自身を投影した役柄でもあった」ことから、染谷は現場で監督と何度も試行錯誤を重ねたという。

「台本が既に一つの作品として完成していたので、それを映像化するためにはどんな表現が正しいのかを、監督と一緒に現場で探っていきました。撮影中もずっと不安だったんですが、ラストシーンを撮り終えた時に、僕自身ようやく解放された気がしたんです。回想シーンの子どもたちのお芝居が素晴らしくて、それが強く僕の背中を押してくれました。回想部分があれだけ豊かであれば、現代パートではある程度なにをやっても成立するんじゃないかと思って(笑)。今回は本当に、皆さんに甘えさせてもらった感じですね」

『最初の晩餐』というタイトルからも想像されるように、映画のなかには、家族で食卓を囲むシーンが何度も登場する。あまり広くはない台所で、誰かと肩を並べて料理を作り、それを一緒に食べることで、次第に距離が近づいていく。

「ご飯を食べるシーンって、もともと観るのも演じるのも好きなんです。食べることは、まさに生きることだと思うので。この映画は長野県の上田市にある一軒家を借りて撮ったんですが、虫の鳴き声や風の音が聞こえてくるような、都会にはない、ゆったりとした時間が流れる穏やかな場所。カメラマンの山本さんが家のなかのすごく狭いところに入って、大きなカメラを振っていたのが印象的でした。食べ物の香りだけじゃなくて、お通夜のお線香の匂いであったり、上田という土地の空気感だったりとか。美術部や照明部の方々も、台本から立ち上ってくる香りや匂いを見事に再現されていて。僕には完成した映画にもちゃんとそれが映っているように見えて、すごく感動したんです」

映画の通夜ぶるまいでは「目玉焼き」や「すき焼き」が父の思い出の料理として登場したが、「それぞれの家庭の味はお雑煮にあらわれる」というのが染谷ならではの見解だ。

「お雑煮って、それぞれの家庭によって全然中身が違ったりしますよね。同じ家族間ですら、母親が作るものと、祖母が作るものでは味つけが違うし。そんな料理はほかにはあまりないような気がして。素敵だなぁって思いますね」

映画で演じたカメラマンの麟太郎と同様、かなりの写真好きとして知られる染谷だが、意外にも「撮るという行為自体は単なる記録でしかないと思っているんです」と、てらいがない。

「でも写真って、何年か経ってから改めて見返した時に、その時々によってそこから受け取れるものが変わってくる。それこそが写真の面白さなんじゃないかって思うんですよね」

本作の撮影を通じ「自分にとっては家族を作ることほど、クリエイティブなことはないんじゃないか」と感じたという染谷にとって「家族は“帰るところ”であり、ある意味、ゼロからスタートするものでもある」そうだ。そしてさらに「お互い分かったつもりになっても、もっと分かり合うことのできるのり白があるところが家族の魅力なんじゃないか」と、感慨深げな様子を見せていた。今年また新たな家族を迎えたばかりの染谷は、きっと「分からないからこそ、とてつもなくクリエイティブ」な日々の真っ只なかにいるに違いない。(Movie Walker・取材・文/渡邊 玲子)