又吉直樹の同名小説をこれまで数々の恋愛映画を手掛けてきた行定勲監督が映画化した『劇場』(近日公開)。恋愛の幸せからそれと隣合わせの葛藤や矛盾といった側面まで、きれいごとだけでは済まない恋の本質が真っ向から描かれている本作で、これまでになかった汚れた姿を見せているのが山崎賢人だ。

少女漫画原作もので見せる爽やかで凛とした印象の強い山崎だが、福田雄一監督作での振り切ったユーモラスな演技にも挑むなど、演技の幅を着実に広げてきた。今作で彼が演じているのが、劇作家として演劇に情熱を燃やすが、なかなか日の目を見ることができない男だ。

中学からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で演劇に身を捧げるも、前衛的な作風が酷評され、劇団員にも見放されてしまった永田。言いようのない孤独を感じていた彼は、そんな時、街で自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡茉優)を見かけると、自分でも驚くほどの積極性を発揮し、彼女に声をかけてしまう。突然の出来事に戸惑う沙希だったが、様子のおかしい永田を放っておくことができず、こうして2人の恋は始まっていくのだが…。

山崎が演じる永田は、社会や周囲と協調できず、芽が出ないことへの焦りや才能がないのではという自意識から、沙希や周りの人間を傷つけてしまう自己中心的な男。さらにお金がないことから沙希の家に転がり込み生活を依存するという、弱いところばかりのダメな人間だ。

そんな永田を山崎は、前髪が目にかかるほど伸び放題でモサっとしたのヘアスタイルに無精ヒゲ、黄ばんだ歯とアンヘルシーな印象を放ち、これまでのイメージとは180度異なる見た目で体現。監督からクランクインの前に歯がきれいすぎることを指摘され、自ら永田役を近づけていったという。
演技面でも、どこか俯きがちな姿勢や、濁った眼差しでやさぐれ感を出しており、かと思えば、どこか人たらしな表情を見せるなど、潔いほどに自己中でクズな男になりきっているのだ。

さらには沙希の言葉に反発し、怒号を浴びせるシーンでも、どこか情けなさが漂わすなど、これまでの健全なイメージから完全に脱却。「自分にとってとても挑戦的な作品でしたが、以前からご一緒したかった行定監督のもと、今しか出せない自分のものを全部出せているのではないかと感じています」という言葉通り、感情を前面に出した人間味のある芝居を披露しているのだ。

自分の殻を破り、役者として新たなステージへと足を踏み入れた山崎賢人が見せる汚れた姿を、ぜひスクリーンで確認してみてほしい。

文/トライワークス