●良血馬を次々と落札したDMM.com
7月10日、11日の2日間に行われた国内最大の競走馬のセリ市「セレクトセール2017」。古くは7冠馬のディープインパクト、近年はサトノダイヤモンドなどを輩出したことで有名なセリ市だが、今年の主役は馬そのものではなく「DMM.com」だった。

競馬メディアではないため細かな血統背景の説明は省くが、GIを7勝した「ジェンティルドンナ」の妹や、現役最強馬とも言われる北島三郎さん所有馬「キタサンブラック」の弟を、それぞれ3億7000万円、1億4500万円で落札。目玉とされていた計3頭の幼駒を立て続けに手中に収めたことで、競馬メディア以外にも大きく取り上げられた。

同社が馬を購入した理由は、クラブ馬主として事業をスタートするため。なぜDMMが「DMMバヌーシー」としてクラブ馬主をやるのか、競走馬ファンドビジネスに対する考え方について、DMM.com 取締役でチーフクリエイティブオフィサーの野本 巧氏に話を聞いた。

○鍵は「証券口座」

タイトルで種明かししている通り、クラブ馬主事業を検討した理由の一つは「DMM.com証券」にある。クラブ馬主は金融商品取引法における第二種ライセンスの競走馬ファンドに該当しており、証券業の第一種ライセンスを保有しているDMM.com証券の法人格と組み合わせることで「少額決済が可能になる」(野本氏)。

元をたどること約4年前、社内のプレゼンテーション大会で、ある社員が「馬主クラブを運用してはどうか」という提案をしたそうだ。

「ただ、その提案は『DMM.comには男性客が多いから』というシナジーのみの提案でした。それに対して私は『入会金、月額費用要らずで、賞金受け取るだけなら面白いよね』と講評したんです。でもその直後に『それなら出来るかも』と自分で考え、自分で思ってしまった(笑)」(野本氏)

入会金や月額費用要らずという仕組みは既存クラブでは難しい。それは、前述の競走馬ファンドでは出走手当などが発生するたびに法律上、出資者に対して振り込まなければならないためだ。

「想定している1万口などで募集する場合、出走手当が数十円程度にとどまる可能性がある。それを振り込む時に都度手数料が数百円必要となると、誰が負担するのでしょうか。出走手当だけでなく、競走馬ファンドでは競走馬の育成費用といった変動コストが多分にかかる。振込の不便さが既存クラブの課題であり、これをクリアできる仕組みがDMM.com証券にはあったんです」(野本氏)

第一種の証券口座があれば該当口座への入金で済み、自社内であるため手数料はかからない。飼葉代などの諸経費については出資時に概算前払いとすることで、出走手当や配当金などを受け取るだけの"明朗会計"になる。これが、野本氏の考えた"面白いクラブ馬主"のスキームだ。

野本氏はDMM.com証券立ち上げ時の担当者であり、金融商品に対する知見を持っていた。「DMMだから節操なく、また新しいビジネスを始めたのか、と思われるかもしれませんが、今回の実態は『DMM.com証券』の新規事業なんです」(野本氏)。

なお、リリース日は8月5日を予定しており「その日はかなり新規登録が増えるはずですし、証券口座の開設には審査が必要になる。今のうちに口座開設することをおすすめします(笑)」(野本氏)。

●DMM 亀山会長は「面白そうだから社内秘に」
野本氏がDMM.com証券の事業として2年半前から徐々に外堀を埋めていったため、DMM.com創業者でDMMホールディングス 会長の亀山 敬司氏にも「セレクトセールの予算などは許可を取っていなかった」(野本氏)。「最近どんなことをやっているのか」と亀山氏に尋ねられたら答えてこそいたが、「ほかの社員からも話を聞いて、ようやく全容を知ったと思う」(野本氏)。その後、「面白そうだから社内秘にしようか」と亀山氏が決めたことで、先日のセレクトセール関連の報道後に「初めてサービスがリリースされることを知った役員もいた」(野本氏)そうだ。

○バヌーシーの出資者は儲からない?

さまざまな媒体で報道されている通り、野本氏がDMMバヌーシーで目指すのは感動体験の共有。実は取材終盤、野本氏は「DMMバヌーシーの出資者は儲かる確率が低い」と言い切った。もちろん、元本保証の金融商品ではない以上、誰もが認識している事実とも言えるが、代表者が明言するのは珍しい。

しかしそれを語ってもなお、クラブ馬主として出資者を集められる理由に、冒頭で触れた「良血馬の落札」を挙げる。

「クラブとしての目標は、もちろんGI勝利であり、本当に勝てたら良いと思うのはダービーです。例えば競走馬は、セリで100万円しか値がつかなかった馬でも年間で約1000万円のランニングコストがかかります。数年間走ると3000万円〜4000万円というお金がかかるわけです。

100万円の馬がマイナスになる可能性と、6000万円稼いでプラスになる可能性、ドナブリーニの仔(ジェンティルドンナの全妹)が4億円弱の投資で5億円稼げる可能性、どちらが高いのか。どちらも高くないということを考えると、『(出資者が)どこに夢を託すのか』ということが重要になります。(クラブ法人名である)DMMドリームクラブのドリームはダービー馬のオーナーに、(1万口という)大勢のチームとして夢を叶える意味を込めています」(野本氏)

既存クラブの多くは400〜500口が上限であり、DMMが購入したような良血馬の多くは1口あたり数十万円からの募集となる。DMMは1万口の募集によって1口あたりの出資額を1万円から高くても数万円程度に抑え、リスクを分散しつつ「好きだったあの馬の仔のオーナーになれる」という可能性を幅広く提供する。

「目指しているユーザー層は、"競馬偏差値"が50〜55くらいの人。自分は53くらいだし、(同席した)広報は42とか43くらい(笑)。みんな競馬ってほとんど知らないし、でも強い馬、有名な馬ならなんとなく何頭か知ってる。良血馬を落札したことが『センスない』と思われる方はいらっしゃると思いますけど、そういう方は既存クラブに行かれると思います。活躍馬が出ていない血統に挑戦するような方々も、ある意味で結果論としての成功に期待されているので私たちのクラブではないと考えています。

玄人の方々が言いたいことは分かるんですが、その枠の外に競馬ファンを拡大すると考えた時に『ベタな感じ』って大切だと思うんです。偏差値53の僕でも理解しているジェンティルドンナの全妹なら、偏差値47の人でも名前は知ってる。『年に1、2回馬券を買ったり、1回くらい競馬場に行く』『ディープインパクトは知ってる』『キタサンブラックは知ってる』。そういう環境の人であれば、競馬の体験価値を理解できるし、面白そうと思ってもらえる。そう考えています」(野本氏)