スイスのパウル・シェラー研究所(PSI)、スイス連邦材料試験研究所(Empa)などの研究チームは、水の電気分解による水素製造に利用できるペロブスカイト系触媒を開発した。太陽光や風力発電によって作り出した電気エネルギーを使って水を電気分解し、水素燃料の形にして貯蔵する仕組みが考えられているが、新開発の触媒によってこのエネルギー変換プロセスを低コスト化・高効率化できる可能性がある。研究論文は、材料科学専門誌「Nature Materials」に掲載された。

研究チームは、水の電気分解による水素製造に利用されている既存の触媒について、「効率は高いがイリジウムなどの貴金属を含んでいて高価なもの」と「より安価だが効率が劣るもの」の二極に分かれていると指摘する。このため、貴金属の使用を必要とせず、安価で、なおかつ効率の高い触媒の開発が目標となる。

研究チームは今回、バリウム、ストロンチウム、コバルト、鉄および酸素を成分とするペロブスカイト系材料を用いた触媒を作製した。触媒活性を高めて効率を向上させるため、ペロブスカイトを微小なナノ粒子の状態にして、反応部位となる表面積の割合を稼いだ。

ナノ粒子化には、火炎スプレー装置と呼ばれる技術が使われている。この装置では、複数の材料を同時に火炎にくぐらせる。このとき材料同士が溶けて融合すし、火炎から離すと溶けた材料が急速に固まって微粒子の状態を形成する。さまざまな材料を粉体状にするときに使える装置であるという。

ペロブスカイトの構成材料を火炎スプレー装置で微粒子化したときに、種類の異なる原子が適正な構造を形成するようにしたことが、今回の研究のポイントであるとする。また、酸素の含有割合を変えることにより、わずかに型が異なるさまざまなペロブスカイト材料を作り出すことができることも実証されている。

論文では、時間分解X線吸収分光などの手法を用いて、酸素発生反応中の200ミリ秒程度の時間に起こる触媒の変化を分析している。この分析手法では、反応中に起こる触媒の電子特性の変化や、原子の配置構造の変化を詳細にとらえることができる。

このような測定から、反応サイクルの中でナノ触媒の粒子の表面構造が変化し、材料の一部がアモルファス化して、原子配列の規則性が乱れた状態になることなどがわかってきた。予想に反して、このアモルファス化によって触媒性能が上がるとみられるという。

研究チームは、米国の電気分解装置メーカーProton Energy Systemsと協力して、実際の水素製造装置の中で用いたときの新規ペロブスカイト触媒の性能を検証している。その結果、既存のイリジウム酸化物系触媒を用いたときと比べても、新規触媒がよく機能することを実証できたとしている。