●販売台数下げ止まりの理由
アップルは米国時間8月1日に2017年第3四半期決算を発表した。アナリストの予想を上回る好決算の中で、特にメインのビジネスとなっているiPhoneの販売台数が予測を上振れし、アップル株は決算発表後の時間外取引で一時8%の上昇となった。また米国だけでなく日本や中国などの株式市場で「iPhone銘柄」と言われる関連企業の株も幅広く買われた。

iPhoneに注目が集まる中で、今回の決算でiPadの下げ止まりも、ハイライトの1つとなった。iPadは2014年第1四半期を境に、長い前年同期割れの下落トレンドを演じてきた。今回の決算では1142万4000万台の販売台数を報告し、前年同期比15%増と、大幅な伸びを記録した。iPadの販売低迷に歯止めをかけ、復活させることができるのだろうか。

○iPad販売台数、下げ止まりの理由とは?

iPadはiPhoneと同じiOSが動作するタブレット型デバイスだ。2010年に発売し、その後7.9インチのiPad mini、12.9インチのiPad Proを追加し、2017年のWWDCでは9.7インチに変わる新しいサイズ、10.5インチのディスプレイを備えるiPad Proを発表した。

新型iPad Pro発売直後の決算であることから、今回の販売台数下落のトレンドに歯止めをかけたのは、この新デバイスのおかげ、とは言えない。今回の決算の四半期が始まる直前に投入した新製品となる、9.7インチの第5世代iPadが、iPad販売台数浮上の役割を担った。

第5世代iPadは、生産終了となったiPad Air 2を引き継ぐ、ProシリーズではないiPadとなる。iPad Air 3とならなかったのは、iPad Air 2よりも厚く、iPad Airと同じ筐体デザインを採用していたことが原因だろう。

プロセッサにはアップルが「デスクトップクラス」とうたう64ビットのA9を採用し、iOS 11で導入される拡張現実フレームワーク、ARKitをサポートするアプリも動作させることができる。また端末の厚みが戻ったことで、iPad Air 2よりも32.4Whと容量が増加したバッテリーを搭載しており、カタログの上では同じ10時間という持続時間だが、実際にはそれ以上の持続時間を発揮することになるだろう。

このデバイスの魅力は価格だ。329ドルと、9.7インチのiPadの新製品としては最も安い価格から購入することができるようにした。

iPadの販売台数上昇にこの第5世代iPadが寄与したとみる理由は、15%の販売台数増加に対して、iPadの売上高は前年同期比2%増の49億6900万ドルだった点。平均販売価格が下がったことを読み取ることができ、第5世代iPadを中心として販売されたと推測できる理由でもある。

●iPadの復活は本物か
○市場のニーズに応えたアップル

第5世代iPadの投入によるビジネスメリットは、低価格化し十分高性能なタブレットを用意し、教育機関や企業などへ、まとまった台数の導入のハードルを下げた点であると指摘できる。同時に、2017年3月には、iPadのラインアップの整理も実施している。

第5世代iPadを投入する代わりに、iPad Air 2と、128GBモデル以外のiPad mini 4を廃止し、ラインアップを非常にシンプルにしたことが、販売台数上昇にとって大きく貢献したと考えられる。

これまで、iPad Proシリーズ2機種、iPad Air 2、iPad mini 4、iPad mini 2と、非常に多くのラインアップを揃えていたが、そのためニーズが高かった9.7インチのiPad Air 2の生産が追いつかず、2017年に入ってからは納期が10週になるなど、品薄状態が続いていた。そこでラインアップを整理し、ニーズが高い9.7インチのiPadの生産体制を整えたことで、需要に応えられるようになった。

iPadは教育機関や企業で人気のあるタブレットだ。デバイス自体の価格で比較すると、ChromebookやWindowsタブレットの方がまだ価格が安いモデルも存在している。しかし、iPadはデバイスの壊れにくさやメンテナンスコストの低さ、ワープロや表計算などのアプリが無料で利用でき、OSのアップデートも無償化されているという、ソフトウェア面での追加コストの低さ、そしてトレーニングコストの低さを加味した、トータルのランニングコストでは分があり、選ばれる理由となっている。

こうした大量導入では人気がある9.7インチiPadを、きちんと台数が揃えられる体制を築いたことが、iPadの販売台数浮上にとって大きな要因となった、と考えられる。言い換えれば、機会損失を防いで、iPadの下落トレンドを食い止めた、というわけだ。

○次のiPadの変革とは?

低価格のiPadによって販売台数の上昇へこぎ着けたアップルだが、これで「iPadが復活した」と結論づけるのは尚早だ。

アップルは2016年3月にiPad Pro 9.7インチモデルを投入する際、このモデルの役割は「5年以上古くなったPCのリプレイス需要」を狙うことだとした。特に、9.7インチから10.5インチにサイズを拡大させたiPad Proの役割は、日常やビジネスなどの一般的なコンピューティング全般を、iPad Proが担う世界へと移行することだ。

その武器としてWWDC 2017で披露したのが、今秋に公開予定のiOS 11だ。「iPad向けiOS最大のリリース」とうたう新しいソフトウェアには、PCやMacに対してiPadにかけていた、「一般的なコンピューティング」を担うための補強と、より新しいユーザー体験が盛りこまれていた。

●iPad Proの役割を果たすための武器
これまでiPadはファイル管理という概念を避け、アプリ内にそのアプリで扱う文書を保存し、これをiCloudと同期してきた。確かに合理的でシンプルなアイデアだが、前述の一般的なコンピューティングにおける「慣習」としてのファイルのやりとりがなくなるわけではない。

iOS 11には「ファイル」というアプリが追加され、iPad本体、iCloudに加えて、Box、Dropbox、OneDriveといったサードパーティのクラウドストレージのファイルも扱うことができる。WWDC 2017のハンズオンで触れてみると、MacのFinderよりも優秀なファイル管理アプリであると感じた。

また、2つのアプリによる画面分割を複数保存し切り替えながら作業に取り組める仕組みは、アプリを組み合わせてワークフローを構築するiPadらしい働き方や効率性を示してくれる。

これまでのiPadのメンテナンスとトレーニングのコストの低さをベースとして、主たるコンピュータとしての競争力を高めることで、iPadの本格的な普及を作り出すことができるかがカギだ。新型iPad Proの販売が全ての期間に含まれるようになる2017年第4四半期、iOS 11が配信されて移行となる2018年第1四半期の各決算で、iPadの販売と売上高を見ていくことで、iPadの変質と復活が見られることになる。