名古屋市立大学は、同大大学院医学研究科の澤本和延教授と神農英雄氏らの研究グループが、東京医科歯科大学、スペイン・バレンシア大学などとの共同研究により、マウスを用いた実験において、新生児期のみに存在する脳障害後の神経再生メカニズムを発見したことを発表した。この成果は12月21日、米国科学誌「Cell Stem Cell」電子版に掲載された。

周産期医療の進歩によって新生児の生存率は劇的に改善したが、重篤な神経学的後遺症を高率に合併する、低酸素性虚血性脳症などの新生児脳障害は依然として年に数千人程度発生している。現状では、傷害で失われた神経細胞(ニューロン)を再生させる治療法はなく、新たな治療法の開発が望まれている。

「放射状グリア」という脳の発生期に幹細胞としてはたらき、ニューロンの移動の足場となる細胞は、生後すぐに消失する。今回、研究グループは、マウスを用いた実験により、新生児期のみにおいて、脳障害後にこの放射状グリアが消失せず、一時的に維持されることを発見した。また、生後の脳でも脳室下帯という部分には神経幹細胞が存在し、ニューロンをたえず産生されていることが知られている。同研究では、新生児期の傷害脳では、多くの新生ニューロンが維持された放射状グリアを足場として傷害部へ移動し、傷害部で成熟することを見出した。

移動するニューロンと放射状グリアでは、ともにN-カドヘリンという接着分子が発現しており、お互いに結合することによって接着構造を形成していることを明らかにした。さらに、アデノウィルスを用いた手法で放射状グリアのN-カドヘリンを不活性化させたところ、この接着構造が減少かつ不規則になり、放射状グリアに沿って移動するニューロンの割合が減少し、移動速度も減少することがわかった。また、脳室下帯由来のニューロンを用いた培養実験の結果、ニューロンがN-カドヘリンを発現している足場の上を移動するときは、RhoA(ローエ―)という細胞の移動を促進させるタンパク質が活性化されることも突きとめた。

このことから、移動するニューロンは、足場となる放射状グリアとともにN-カドヘリンによる接着構造を形成すること、それにより細胞内のRhoAが活性化されることによって、傷害部への効率の良い移動が促進されることが明らかになった。

次に、射状グリアを模倣した人工足場(N-カドヘリンスポンジ)を作製し、N-カドヘリンスポンジを傷害脳へ移植したところ、新生児期のみならず、成体期のマウスにおいても傷害部へ移動するニューロンの数が有意に増加した。複数の運動機能テストを用いて評価した結果、N-カドヘリンスポンジを移植したマウスにおいて脳障害後の歩行機能が有意に回復した。

今回の成果は、通常生後すぐに消失してしまう放射状グリアが、新生児期の脳障害においてニューロン移動とそれに続くニューロン再生・神経学的機能回復に重要な役割を持つことを明らかにしたもの。こうした新生児期にのみ存在する神経再生メカニズムをヒトへ応用することができれば、新生児脳障害の再生医療につながることが期待されると説明している。