東京大学(東大)、東北大学、科学技術振興機構(JST)の3者は7月7日、InAs半導体結晶中にFe原子をほぼ1原子層の平面内に配列した「FeAs-InAs単結晶超格子構造」の作製に成功し、さまざまな新しい物性を観測したと発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 附属総合研究機構のレ・デゥック・アイン助教、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の早川奈伊紀大学院生(研究当時)、同・中川裕治大学院生(研究当時)、東北大 電気通信研究所の新屋 ひかり助教、東大 物性研究所 附属計算物質科学研究センターの福島鉄也特任准教授、東大大学院 工学系研究科 附属スピントロニクス学術連携研究教育センターの小林正起准教授、同・吉田博特任研究員(上席研究員)、東大大学院 工学系研究科 物理工学専攻の岩佐義宏教授、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の田中雅明教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

半導体プロセスの微細化が物理的限界を迎えつつある現在、次世代の半導体技術として期待されているのがスピントロニクスである。従来の電荷のみが利用されてきた半導体デバイスに「スピン」を組み込むためには、半導体中に磁性元素のFeやMn、Coなどを大量に添加することが有力な手段と考えられている。しかし、半導体結晶に磁性元素を大量に添加すれば構造が不安定になってしまい、結晶が壊れたり磁性原子が凝集したりすることで、材料とデバイス特性を維持することが難しくなることが課題とされてきた。

今回、研究チームが注目したのは、Fe-As正四面体結合を含む材料構造で、Fe-As正四面体結合が平面内に配列し積層された材料は、Fe原子同士のスピンが反平行方向に結合して高温で超伝導状態を示すことが知られている(鉄系超伝導体)。

一方、最近、Fe-As正四面体結合をInAs半導体結晶中に3次元的にランダムに分布させると、電子キャリアとの相互作用により強磁性状態が既存の理論予測以上の高い温度で発現することを研究チームが報告しており、もし、InAsなどの半導体結晶中にFe-As正四面体結合を1原子層の厚さの平面内に配列させることができれば、どのような量子状態になるかという問題は、基礎的な物性物理研究の観点とともに新規デバイス応用の観点からも興味深いテーマになるとしている。

そこで研究チームは今回、InAs単結晶中にFe-As正四面体結合を1原子層の厚さの平面内に閉じ込めることを試み、その結果、母材InAsの閃亜鉛鉱型結晶構造を保ちながら、すべてのFe原子を中心位置から1.5原子層の幅で分布させることに成功したという。

この技術を活用し、FeAs原子層をInAs結晶中に等間隔に埋め込む構造が作られ、単結晶FeAs/InAs超格子構造の作製に成功したとするほか、作製されたさまざまな超格子構造において、FeAs原子層の層間距離(InAsの膜厚tInAs)を20原子層以下にすれば、超格子全体において強磁性秩序が誘起されることが観測されたという。

また詳細な測定の結果、開発されたFeAs/InAs超格子構造では、Fe-As正四面体結合が非常に高密度に分布されるため、超格子構造全体の強磁性秩序が強く、すべてのFe原子が最大に近い5μBの大きな磁気モーメントを持つことも確認されたとするほか、超格子構造の電気抵抗が外部磁場によって、500%ほど変化する巨大磁気抵抗効果が観測されたともする。

さらに、今回の超格子構造をチャネルとするFETが作製され、ゲート電界を印加することによってこの巨大磁気抵抗効果を変調できることも示されたとする。

研究チームでは、今回作製されたFeAs/InAs強磁性超格子構造は、構造パラメータや外部電界により諸特性を幅広く制御できるため、室温での実用的なスピントロニクスデバイスのための機能材料として有望だとしている。また、今回のようなナノ構造の原子分布を制御する結晶成長技術を活用することによって、さまざまな新規材料の作製が可能になり、予想せぬ新規物性を多く発見できる可能性があり、高感度磁気センサ、低消費電力トランジスタなど次世代電子デバイスの機能材料の実現に新たな道を開くことが期待できるともしている。