東京大学(東大)は9月14日、オンライン上での実験とWebサイトスクレイパー(Webサイトから情報を抽出すること)を通じて、創作活動において専門知識の少ない人の方が優れたパフォーマンスを示す理由を明らかにしたと発表した。

同成果は、東大大学院 総合文化研究科の楊鯤昊大学院生、同・藤﨑樹大学院生(日本学術振興会 特別研究員兼任)、同・植田一博教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

専門知識が豊富な人よりも、少ない人の方が創作活動では優れたパフォーマンスを示すという現象は、すでに多くの先行研究から報告されているという。実際の製品開発においても、企業や研究所の開発者などよりも、使い手である一般ユーザーの方が新しいアイデアを生み出す、といったことはよくある話として知られている。

しかし、なぜ専門家ほど専門知識がない人の方が優れたパフォーマンスを示すのかの理由については、これまでの研究では明らかにされてこなかったという。そこで、今回の研究では、その謎の解明に向けた実験が行われた。

具体的には、オンライン実験(メインデータセット)とWebサイトスクレイパー(補足データセット)を通じて、スピーカーの新しい機能に関するアイデア(補足データセットでは、評価や意見に相当)についての2つのデータセットが収集された。そして、専門知識の少ない人の方が、多い人よりも創作活動において優れたパフォーマンスを示す理由の分析が行われた。

オンライン実験で収集したメインデータセットに基づき、まずスピーカーを含む音響設備に関する知識検定を用いて参加者の専門知識量について測定が行われたほか、参加者が撮影した、本人が所有しているスピーカーの写真に対して画像処理を施し、写真全体の中でスピーカーが映っている割合を算出することで、スピーカーに対する注意配分パターンを測定。割合が高いほど「集中的な注意配分パターン」を、低いほど「分散的な注意配分パターン」を示すこととしたとする。

また、参加者が提出したスピーカーの新たな機能に関するアイデアを、専門家による主観評定と、機械学習に基づく2種類の自然言語処理技術を併用して評価することで、アイデアの質に対する測定も実施したほか、Webサイトスクレイパーで収集された補足データセットを用いた分析として、Amazonユーザーのスピーカーに対するレビュー(評価や意見)とスピーカーの専門サイトに掲載された専門家のレビューの類似度を自然言語処理の手法で計算し、その類似度から、Amazonユーザーが持っているスピーカーに関する専門知識の量が推定された。

さらに、メインデータセットの場合と同様に、Amazonユーザーが投稿したスピーカーの写真に対して画像処理を施し、Amazonユーザーのスピーカーに対する注意配分パターンの評価が行われたほか、Amazonユーザーが投稿したスピーカーの機能に関するレビューに基づいて、Amazonユーザーのスピーカーに関する評価や意見(これが創作活動の一種とみなされている)の質が、機械学習に基づく2種類の自然言語処理技術を用いて評価が行われた。

これらの手法をもとに、実験参加者およびAmazonユーザーが持つ専門知識の量、注意配分パターン、創作活動におけるアイデアや意見の質の三者の関係が分析された結果、専門知識の多い人は集中的な注意配分パターンを持つ傾向があり、そのことが彼らのスピーカーに関するアイデアや意見の質にネガティブな影響を与えていることが判明したとする一方で、専門知識の少ない人は分散的な注意配分パターンを持つ傾向があり、そのことが彼らのアイデアや意見の質にポジティブな影響を与えていることが明らかになったという。

今回の結果から、創作活動において優れたパフォーマンスを示すには、注意を分散的に配分すること、すなわち1つのことに集中せずにほかの事柄を含めて考えることの重要性が示されたと研究チームでは説明しており、実社会でのイノベーション活動にも新たな知見を提供するものと考えられるとしている。また、今後、注意配分パターンと創造性との関係に関してさらなる検討が進むことで、ユーザー・イノベーションが生じる仕組みの全容が解明されることが期待されるともしている。