●おおっぴらに言えなかったラップ活動
男性声優12名がキャラクターに扮してラップをする、ラップソングプロジェクト『ヒプノシスマイク』。一線で活躍するラッパーやトラックメーカーもクリエイターとして参加する、本格派な作品づくりが注目を集めている。マイナビニュースでは全4枚のCDリリースを記念し、各ディビジョンのリーダーを演じるキャストへのインタビューを敢行。第1回に登場するのは、イケブクロ・ディビジョン「Buster Bros!!!」のリーダーを演じる木村昴だ。

木村は、小学生の頃にエミネムと出逢いヒップホップに魅了され、高校時代には同級生とフリースタイル(即興ラップ)に明け暮れ、バトルへの出場経験もある筋金入りのヘッズ。現在も、声優のかたわら、ヒップホップグループNEW JAPP HEROZとしてライブ活動を行っている。『ヒプノシスマイク』では「声優」と「ラップ」の媒介者とも言える立ち位置の木村に、作品への熱い想いや、ラップの魅力について語ってもらった。

○▼声優としてラップしていいんですか?

――最初に『ヒプノシスマイク』プロジェクトのお話を聞いた時は、どう思いましたか?

「待ってました! ついに来た! 」って感じですね。もともとラップはやっていましたけど、その活動はあまりおおっぴらに言えなかったんです。クラブに出入りしているとか、深夜にライブやるとか、やっぱりイメージが悪いだろうし。それに、自分のアイデンティティとして、あくまで声優であることが第一だったので。でも、この作品の話をいただいて、「え、声優としてラップしていいんですか? みんなの前で羽を伸ばしていいんですか?」って(笑)。本当は一番やりたかったことなので、めちゃめちゃ嬉しかったですね。

――木村さんが、そもそもヒップホップにのめり込んだのは、何がきっかけだったのでしょうか?

僕は1990年にドイツで生まれ、97年に日本に来たんですけど、その時に母親が、「97年に流行った曲を集めたコンピレーションアルバム」を買ってくれたんです。ドイツから日本に移り住むのは家族としても大きな転機で、そんなタイミングで世界にどんな音楽が流れていたか、両親が「音楽で思い出を残したい」ということで僕に買ってくれたんですよ。その中にM.C.ハマー、Run-D.M.C.、エミネムなどの曲が入っていました。

――お母様の買ってくれたアルバムが始まりだったのですね。

そのアルバムにはいろいろな楽曲が入っているんですけど、その中でヒップホップがすごくひっかかったんです。「なんだこの不思議な感じ、超ハマる!」って。うちは父親はオペラ歌手で、母親も声楽のソリスト、僕も3歳からずっとバイオリンをやっているというクラシック一家だったんです。そんな中でヒップホップに触れたときの衝撃ですよ。「こんなのドイツで聴いたことない!」って(笑)。

――それはかなりの衝撃だったでしょうね。

「ヤバイ!」ってハマっちゃって。それで関連するさまざまな本を読んだり、CDを聴いたりするうちに、この曲にはこういうメッセージがあるとか、もっと深い部分も知っていきました。そこから、本当にハマっていきましたね。小・中学校では自分がヤバいと思った曲を友達に聴かせていて、その時の友達の引いた顔にすごい優越感を感じていました(笑)。気持ち良かったですね。

――友達の引いた顔(笑)。どんな曲を聴かせていたのでしょうか?

ZEEBRAさんのアルバム。『THE RHYME ANIMAL』の「Parteechecka (Bright Light Mix)」という曲だったと思います。

○▼ヒップホップは平和を築こうとした人のカルチャー

――木村さんはヒップホップのどこに魅力を感じたのでしょうか?

大きな意味では、一つの生きる方法、ライフスタイルっていうところですね。確かに犯罪とか、暴力的なイメージもありますが、もともとのヒップホップは、そこから這い出そうとした人たちの文化。若者同士が争っていたところに、暴力に嫌気が差して、スキルで戦おうということで始まったものなんです。一見暴力的に見えるものだけど、根っこは平和を築こうとした人たちのカルチャーなんだと知って、めちゃくちゃうちのめされました。けっしてラッパーがみんなギャングスタなわけではない。ヒップホップは生活を豊かにしようとした人たちの生き様なんだなと。

――まさに『ヒプノシスマイク』の世界観も、そこから生まれていますよね。木村さんは高校時代、フリースタイルにハマってバトルにも出場したそうですが、その後、即興で作り上げるリリックよりも、緻密に作り込まれたリリックに魅力を感じるようになったとラジオでお話しされていましたね。

日本語のパワーでもあると思うんですけど、一つのことばに色んな意味があることに気づいて、いいなって思ったんです。「こう言っているけど、本当はこういう意味がある」、そういう裏の意味がラップに含まれていると、緻密だなと思って。もちろん、フリースタイルでもそれができる人はいらっしゃるんですよ。たとえば、R-指定さんは、バトルのときに過去のラッパーがバトルで使ったフレーズを使って相手に攻撃するんです。

――文脈がわかると、別の意味が込められていることに気づく、ということですね。

そういうわかる人が聴くと、裏の意味やことばのつながりがわかるようになる、そういう仕掛けがリリックにあるのがすごいなと思ったんですよ。それはラップならではだなって。僕、エミネムにすごいハマっていて、彼のすごいところはやっぱりリリックの詩的なところなんです。有名な「Lose Yourself」という曲の1バース目で「he」とか「his」という表現をしているんですけど、それは全部自分のことを指している。

――エミネム自身が主演した2002年の映画『8 Mile』の主題歌になっている、有名な曲ですよね。

エミネムってスリム・シェイディとか名義がいくつかあるんですけど、インタビューの発言でちょっと叩かれた時に、「あれは俺じゃなくてスリム・シェイディが言ったことだから」と言うんです。彼の中で、自分のことを客観的に見ているところがあって、それをリリックで「彼」と表現してリアルに自分を描いている。そこに美学を感じたんです。そういうリリックに込められた意味のすごさにやられました。あとで気づくお得感というか、ワクワク感。そうすると、もっと他の曲も詳しく聴きたくなるんですよ。

●みんなが「ヤバイ」と思えるものをつくろう
○▼スタッフと議論して出来上がった全員曲

――木村さんはご自身でもリリックを書かれますよね。山田一郎の曲、「俺が一郎」では好良瓶太郎という名義で作詞を担当されています。

この曲でも結構ことば遊びをしていますね。特に2バース目。これはTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』にインスパイアされているんです。「まだ見ぬ天井があることがおれらのゲンドウ力」とか、「明日が雨(レイン)でも仲間をシンジ」とか。聴くだけじゃわからないけど、歌詞カードを見ると「マジか」って気づくところに、「ラップってすげぇ」と思ってもらえたらいいなと思います。

――そういったリリックに注目して聴いて欲しいと。

シンプルに「かっけー」でもいいですし、「頭振れる」でもいいと思うんですよ。そこからちょっとのめり込んだときに、リリックの深さに触れていくと面白いんじゃないかな。作り込まれたリリックが魅力的なプロのラッパーさんもたくさんいるので、『ヒプノシスマイク』をきっかけにして、チェックしていただけたら嬉しいですね。

――今回、女性向け二次元コンテンツと日本語ラップという、今までにない組み合わせが『ヒプノシスマイク』で実現しましたが、それに対して長年ラップに親しんでこられた木村さんとしては、どんなことを考えましたか?

今の時代、ない話ではないじゃないですか。「TOKYO TRIBE」だったり「HiGH&LOW」がヒットしているこの状況で。ただ、絵で表現していて、なおかつ完全にターゲットを女性にしているところは、超NEWな試みですよね。そういう意味では見たこともないし、聞いたこともない。ただ、女性向けっていうところで「果たして盛り上がるのか?」という不安はあったんです。やっぱり、イメージとして「ヒップホップ=男が燃えるもの」というのがあったので。

――不安はプロジェクトが進んでいく中で払拭されましたか?

そうですね。作っている人たちがその道のプロだから、そこは胸を借りて、僕は飛び込む覚悟だけあればいいのかなと。最終的には僕が心配してもしょうがないのかなって思いました。僕は精一杯ラップをやるだけだなって。それに、嘘をつかないでちゃんとしたヒップホップをやれば、聴いてくれるんじゃないかなと思ったんです。世の中には、とっつきやすくてわかりやすい「ラップ風」の曲はたくさんあるじゃないですか。でも今回は、「とっつきやすさとか一旦置いておいて、マジでラップしましょう」という企画だったので。

――スタッフの方々も、女性向けコンテンツとして本物のラップをやりましょう、という想いがあったんですね。

結構ありましたね。だから、歌詞については結構、議論をしたんですよ。たとえば、全員で歌っている「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」は、どうしてもラップとして見た時に、ワードチョイスがわかりにくいなと思ったんです。一郎の「『圧倒的』それ自体が新時代のクライム 与えよアニマ(※生命)、それだけがカルマ」というリリックには、ビジョンが見えない。そういう表現はどうなのかなと思って、「はたしてこれで面白いんですか? 」とスタッフの方にお話ししたこともあります。

――その議論の行方は。

そこでスタッフの方がおっしゃっていたのは、「全員曲に関しては、最初に聴かせる曲としてひっかかりを作りたい、だから得体の知れないすごさを出していきたい」ってことだったんです。「よくわかんないけどなんかすごい」っていうことば遊びをしたいと。それを聴いて、なんと僕は浅はかだったんだと思いました(笑)。やっぱり一線で作品づくりをされている方々は違うんですよね。僕がつくりたいものは、どれだけリアリティがあるかを重視していて、だから一人にでも刺さればいいやと思っていたんです。そうじゃなくて、スタッフの方は「みんながヤバイと思うものを作ろう」と。そういう目線でものづくりをされていて、やっぱりこの人たちはさすがだなと思いました。

――実際に、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」は、なんども聴いてしまう中毒性があると話題になっていますよね。

そうなんです。わけわかんないけど頭に残るし、口にしちゃう。そういうパワーがこの曲にあるんですよね。

○▼レジェンドのラッパーにも負けない声優ならではのラップの力

――木村さんは別の作品のインタビュー等でも、ずっとファンに対し「ラップ聴こうよ」とおっしゃっていましたね。そうやってファンの方にラップをすすめて来たのはなぜでしょうか?

一般的に持たれている、「ラップって怖そう」とか、「危険な世界」だってイメージを変えたいと思ったんです。そういうイメージは根強いと思っていて、それが表立って「ラップやっています」と言えなかった理由の一つでもあった。確かにそういう一面もあるけど、今の日本語ラップはかなりクリーンだし、「そんなにラップって悪いもんじゃないぜ」ってことを伝えたかったんです。もしみんなが食わず嫌いしているのなら、「一回聴いてみてよ、絶対面白いから」って。

――聴いたなら絶対に魅力がわかってもらえると。ちなみに、最近木村さんがいちリスナーとしてお気に入りの一枚などはありますか?

最近の日本語ラップだと、PUNPEEさんが今年リリースした『MODERN TIMES』ってアルバムが最高でしたね。1 曲目の「2057」って曲は、40年後の自分が2017年の自分を振り返って喋っているという曲なんですけど、「おじいさんになった自分」として、声優の麻生智久さんを起用しているんです。ラッパーさんが自分でそれをやると、いまいちリアリティに欠ける。でもそこで、プロの声優さんを起用したことでリアリティが出ているのが、超いいんです。

――では、ラップに興味を持ったらそちらもチェックですね。最後に、『ヒプノシスマイク』で聴ける、声優ならではのラップの魅力について教えてください。

プロのラッパーさんはリアルな自分のことをラップするじゃないですか。でも、『ヒプノシスマイク』は声優さんがキャラクターを挟んでラップをしている。そうやってキャラクターを一枚挟むことによって、ラップに声優さんが演じるキャラクターの感情が乗っかりますよね。そうすると、もともと声優さんが持つ「ことばを発するパワー」の上に、キャラクターの感情が乗るから人に刺さる歌い方ができる。ことばが持つパワーを一番表現できるのが声優さんだと思うので、メッセージの強烈さを伝えるという意味では、声優さんってレジェンドのラッパー達にも負けないと思っています。これはマジです。

――キャラクターの感情と、ことばの強さの相乗効果ですね。

AGFのライブステージで、サイプレス上野さんやUZIさんが、まさに「声優さんがラップした時のことばの力、感情が乗ったときの強さがすごい」とおっしゃっていて、心の中でガッツポーズしましたからね(笑)。プロの方にそう言わせたのはすごいし、これは声優ならではの力なんだろうなって思います。

○▼『ヒプノシスマイク』CDシリーズ商品情報

・第1弾
イケブクロ・ディビジョン「Buster Bros!!!」
CDタイトル:「Buster Bros!!! Generation」
発売日:10月25日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. 俺が一郎 / 山田一郎(CV.木村昴)
M2. センセンフコク / 山田 二郎(CV.石谷春貴)
M3. New star / 山田 三郎(CV.天?滉平)
M4. イケブクロ・ディビジョン Buster Bross!!! Drama Track?
M5. イケブクロ・ディビジョン Buster Bross!!! Drama Track?
M6. 俺が一郎(off vocal ver.)
M7. センセンフコク(off vocal ver.)
M8. New star(off vocal ver.)
封入特典:Buster Bros!!!ロゴステッカー

・第2弾
ヨコハマ・ディビジョン「MAD TRIGGER CREW」
CDタイトル:「BAYSIDE M.T.C」
発売日:11月15日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. G anthem of Y-CITY / 碧棺 左馬刻(CV.浅沼晋太郎)
M2. ベイサイド・スモーキングブルース / 入間銃兎(CV.駒田航)
M3. What’s My Name? / 毒島メイソン理鶯(CV.神尾晋一郎)
M4.ヨコハマ・ディビジョン MAD TRIGGER CREW Drama Track?
M5.ヨコハマ・ディビジョン MAD TRIGGER CREW Drama Track?
M6. G anthem of Y-CITY(off vocal ver.)
M7. ベイサイド・スモーキングブルース(off vocal ver.)
M8. What’s My Name? (off vocal ver.)
封入特典:MAD TRIGGER CREWロゴステッカー

・第3弾
シンジュク・ディビジョン「麻天狼(マテンロウ)」
CDタイトル:「麻天狼-音韻臨床-」
発売日:12月6日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. 迷宮壁 / 神宮寺寂雷 (CV.速水奨)
M2. シャンパン ゴールド / 伊弉冉 一二三 (CV.木島隆一)
M3. チグリジア / 観音坂独歩 (CV.伊東健人)
M4. シンジュク・ディビジョン 麻天狼 Drama Track?
M5. シンジュク・ディビジョン 麻天狼 Drama Track?
M6. 迷宮壁(off vocal ver.)
M7. シャンパン ゴールド(off vocal ver.)
M8. チグリジア(off vocal ver.)
封入特典:麻天狼ロゴステッカー

・第4弾
シブヤ・ディビジョン「Fling Posse」
CDタイトル:「タイトル未定」
発売日:12月27日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:飴村乱数(CV.白井悠介)、夢野幻太郎(CV.斉藤壮馬)、有栖川統(CV.野津山幸宏)の3曲+ディビジョンドラマ
封入特典:Fling Posseロゴステッカー