東京大学(東大)は7月21日、アルミナとフッ化セシウムを用いて合成した固相触媒を用いることにより、アミノ酸の一種であるβ置換型グルタミン酸誘導体を高収率かつ高立体選択的に合成できることを見いだしたと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科 小林修教授らの研究グループによるもので、7月20日付けの独科学誌「Angewandte Chemie」および「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

医薬品・化成品・農薬などの精密化学品の合成においては従来、目的物までの多段階反応をそれぞれ大きな反応容器を用いて一反応ごとに仕込み、反応後に後処理、精製(バッチ反応)を行い、それぞれの段階で中間体を得て次段階に移行している。しかし、これらの操作は時間的な問題や安全性の問題、中間体の医薬品原料としての扱いの煩雑さなどの問題から、多大な労力とコストを必要としてきた。

これに対して、フロー反応システムを用い、幾つもの反応カラムを連続させることにより多段階反応を連続的に行う連続フロー精密合成法は、これらの問題を回避できる。精密化学品を連続フロー精密合成法によって合成するにあたっては、廃棄物の大幅な低減化という観点から有機溶媒に溶解しない固相触媒が重要となる。そこで、同研究グループは、精密化学品として重要なアミノ酸の一種であるグルタミン酸誘導体を立体選択的に合成する固相触媒の開発研究を行った。

グリシンエステルのシッフ塩基のα,β-不飽和カルボニル化合物への共役付加反応は、さまざまなグルタミン酸誘導体を合成する有効な手法のひとつである。特に、β位に置換基を有するα,β-不飽和カルボニル化合物への立体選択的付加反応は、β置換グルタミン酸誘導体を合成する有効な手法である。同反応はこれまで主に有機溶媒に溶解しうる塩基触媒を用いて行われてきた。

今回の研究では、まずベンゾフェノン由来のグリシンエステルのシッフ塩基とクロトン酸エステルとの反応を促進する固相塩基触媒の探索を行った。種々の固相塩基触媒を用いて反応を行ったところ、フッ化カリウム(KF)やフッ化セシウム(CsF)で処理したアルミナ(Al2O3)が良好な触媒活性を示すことがわかり、そのなかでもフッ化セシウムで処理したアルミナ(CsF-Al2O3)が、副反応を抑制しつつより高い活性、かつ高い立体選択性を示すことが明らかになった。

次に、CsF-Al2O3触媒の合成条件の最適化を行ったところ、フッ化セシウムを40%の重量比でアルミナと混合し、さらに減圧下200℃で加熱処理した触媒が高い活性を示すことを見いだした。同触媒は2mol%の触媒量でも十分に機能し、高収率、高立体選択的に目的とするグルタミン酸誘導体を得ることができた。なお、同触媒は反応溶液中に溶出することなく、固相触媒表面上で目的の反応が進行していることが示唆されている。

また同研究グループは、フロー精密合成への適用を行い、同触媒をフロー反応用カラムに詰めてその中に原料の溶液を流通させることにより、長時間連続的に目的物を高立体選択的に得ることにも成功している。さらに触媒の構造について詳細な機器分析を行うことにより、これまで不明であった反応活性点の構造が明らかになっている。

同触媒の塩基性や立体選択性の高さから同研究グループは、今回の成果について、今後さまざまな連続フロー精密合成法による立体選択的塩基触媒反応に適用が可能であると説明している。