●磁気の強さに対する測定方法の課題
日本原子力研究開発機構(JAEA)、茨城大学、J-PARCセンター、総合科学研究機構(CROSS)、米国オークリッジ国立研究所の5者は5月15日、磁性体の磁力の源である磁性元素をその原子核の磁気によって特定し、原子の持つ小さな磁気の強さを、さらに小さな原子核の磁気と比較して簡便かつ正確に測定する新たな手法を開発したと発表した。

同成果は、JAEA 物質科学研究センター 強相関材料物性研究グループの目時研究主幹らの研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する欧文学術誌「Journal of the Physical Society of Japan」に掲載された。

磁性元素の磁気の強さは、磁性体の性質や機能を知る上で重要とされ、これまで磁性体に入射した中性子の反射強度を測定する「中性子散乱実験」により、その磁気の強さが測定されてきた。

通常は、(1)さまざまな方向の散乱強度を正確に測定、(2)数百点の実験データに補正を加える、(3)結晶の対称性や化学組成などを考慮して得られた構造モデルによる計算と比較を繰り返す、(4)正しい結晶構造を決定する、という流れで磁気の大きさが決められていたという。

ただし中性子散乱実験の場合、結晶構造や磁気構造が不明であったり、実験上の問題から必要な散乱強度の一部が正しく測定できなかったり、実験データの補正が正確ではなかったりすると、磁気の強さを決めることができないという課題があったという。その理由としては、複雑な結晶構造全体からの散乱強度と、原子の磁気配列(磁気構造)に伴う散乱強度を比較してはじめて、磁気の強さを決定できるからだという。

このような背景のため、磁性元素のみに着目して測定する手法が求められていたという。そこで研究チームは今回、その磁性元素の中心に存在する、原子のおよそ1万分の1の小さな原子核の磁気と、原子全体の磁気を比較するという手法を開発することにしたという。

●1つの磁気散乱ピークの測定だけで磁気の強さを決定することに成功
そして開発された手法の実用性を実証するため、ネオジムパラジウムゲルマニウム化合物「Nd3Pd20Ge6」を用いて、原子の磁気の強さが求められることとなった。まず、その磁気散乱強度の温度変化が、研究用原子炉「JRR-3」の中性子を用いて測定され、(1)転移温度TN=1.8K以下で中性子の強度が増大し、これは希土類元素であるネオジム原子に磁気が発生していることに由来する、(2)さらに約0.3K以下で急激に中性子の強度が増大する。これはネオジム原子の原子核に磁気が発生したことが理由である、(3)原子の磁気による散乱強度と、原子と核の両方の寄与を含む散乱強度の比を求めると、原子と核の磁気の強さを比較することができる、(4)核の磁気の強さは正確にわかっているため、その値を使えば原子の磁気の強さを容易に求めることができるといった流れに従って、原子の磁気の強さが求められたところ、この物質のネオジム原子の磁気の強さを決めることができたとする。

従来手法では、数百に及ぶ散乱ピークの強度測定を実施し、その補正を行い、さらに結晶の構造モデルによる計算と比較を繰り返すなどの手間をかけてはじめて結晶構造と磁気構造が決定されていたが、今回の手法では、1つの磁気散乱ピークを測定するだけで十分であり、データ解析によって得られる磁気構造や結晶構造の情報も必要ないことが示されたとする。

なお、研究チームでは、今回実証された手法は原子核に依存するため、原理的にはさまざまな磁性元素について適用可能で、磁気を帯びた磁性体中の磁性元素を特定することができるとするほか、同手法を応用すれば、磁性元素が複数存在する物質の磁気を元素ごとに特定し、磁気の大きさをそれぞれ決めることが可能となり、これにより通常は解析が困難な、複雑な磁気構造や結晶構造の解明に役立てることができるようになるとしている。

また、磁気の強さは磁性体の重要な性質であり、その発現機構の理解が重要なことから、このような研究を通じて、強力な磁石を発生する磁性体の開発などに役立てることにつなげたいともしている。