キタゾウアザラシの恋愛はたいてい荒っぽい。

 体重が1800キロを超えるオスは、群れでいちばんのオスになるために血みどろの戦いを繰り広げる。勝者はメスへ近づく権利を獲得し、時に複雑な鳴き声を使って敗者を追い払う。

「オスが互いに声を張り上げているのを見て、体の大きさや戦闘力について情報交換をしているのだろうと考えました」と、フランス、リヨン大学で動物音響学を研究しているニコラ・マテボン氏はいう。

 米カリフォルニア州北部のアニョ・ヌエボ州立公園でゾウアザラシを観察していたマテボン氏の研究チームは、格下のオスが格上のオスの「声」を認識し、それを聞くと逃げ出すことに気づいた。

 だが、アザラシは鳴き声のどの部分を聞き分けているのだろうか。

 7月20日付の科学誌「Current Biology」に発表された研究によると、野生のキタゾウアザラシ(Mirounga angustirostris)のオスは、別のオスの鳴き声に含まれる特徴的なリズムや声質を記憶し、理解するという。そして、それを基に意思決定まで行う。

 人間であれば、ごく当然に思えてしまう能力だろう。だが、他にこのようなことを行える哺乳類は、知られている限りゾウアザラシだけだ。

木管を軽く叩いたような声

 オスのゾウアザラシは「メロディのある鳥の歌声とは全く違う、独特なパルス音を発します」と説明するのは、オランダにあるアザラシリハビリテーションセンターの動物音響学専門家アンドレア・ラビナニ氏だ。氏はこの研究には参加していない。

「ディジュリドゥ(オーストラリアの先住民族アボリジニの木製管楽器)を軽く叩いたときに出る音に似ています」。メスのキタゾウアザラシも、ライバルに警告を送ったり意思伝達のために鳴き声を発するが、その周波数とパルスはオスのものよりも低い。

 成熟したオスの鳴き声のリズムと音質には特徴があり、年月を経ても変化することがない。「鳴き声で自分が何者であるのかを知らせるのです。鳴き声が、指紋のような役割を果たしています」と、マテボン氏は説明する。

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