草を食べるウシは、草の繊維質を複雑な消化器系を使って分解することで、炭水化物を得ている。この消化の過程で生じるガスが、温室効果ガスとしても知られる大量のメタンだ。米環境保護庁(EPA)の推定では、米国が排出するメタンの約25%がウシによるものだという。たかがげっぷとは侮れない量なのである。

 メタンが大気中にとどまる時間は二酸化炭素より短い。しかし、その温室効果は二酸化炭素に比べてはるかに高い。気候変動の影響を軽減しようとするなら、メタンの排出量を減らすことは重要な目標だ。

 2019年7月3日付けで学術誌「Science Advances」に発表された研究で、ウシを選択的に交配することで、ウシから排出されるメタンを削減できる可能性が示された。

 この研究によれば、ウシの腸内にはメタンを生産する微生物がいて、その多くが代々受け継がれているという。つまり、メタンを生成する微生物が活発にならないような遺伝的形質をもつウシに改良していけば、「環境に優しい」ウシが増えるというのだ。

 世界では、牛肉や乳製品の消費は過去10年連続で増えており、多くの国が人口増加に見合う食料を確保しつつ、温室効果ガスの排出量を削減しようと奮闘している。それだけに、今回の研究に科学者は期待を寄せている。

ヨーロッパのウシ1000頭の調査で判明

 2012年、EUは家畜とメタン排出量の関係を調べるため、30人を超える科学者チームに調査を依頼した。

 この研究プロジェクトは、ウシ、スイギュウ、ヤク、ヒツジなど、反芻(はんすう)動物を指す英語「ルミナント」にちなんで、「ルミノミクス」計画と名付けられた。反芻動物の胃は4つに分かれているが、食道を通った食物が最初に入る胃が「瘤胃」(りゅうい、ルーメンとも)だ。この胃で食べた草を発酵させる。ある程度消化すると、次の胃へと送るのだ。この発酵の過程で発生するのがメタンだ。そうしてできたメタンの95%は、げっぷによって大気中に排出される。

 瘤胃におけるメタン生成プロセスはこうだ。まず草など炭水化物を細菌が分解(発酵)する過程で水素が出る。この水素と二酸化炭素から、メタン菌という古細菌がメタンを生成する。

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