驚くほどの多様性

 自然界はパターン(模様)であふれている。この目に見える特徴は、交尾相手を引きつける、捕食者に警告する、同じ種の仲間を特定するなど、様々な生物的機能で利用されている。以前から研究者は、こうしたパターンが予測可能な数理モデルに従って生み出されていると考えていた。事実、チューリングは1950年代に、生物界に存在するパターンがどうできているかを説明する「反応拡散」モデルを提唱。これは、相反する効力を持つ2つの化学物質が、同じ生物の体内で相互に作用し合うという考えに基づいたものだ。

 ただ、生物のカラフルな模様を作り出している遺伝的な仕組みを突き止めるのは容易ではない。うってつけなのがミゾホオズキだった。ミゾホオズキ属は丈夫で成長が早く、比較的単純なゲノムを持っている。このため「自然界のパターンを研究するのに最適なのです」と、米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校でミゾホオズキを研究するアイリーン・マーティネス氏は言う。

 ミゾホオズキ属では、単一の種であっても、驚くほど多様な色、形、パターンが存在する。「ミゾホオズキは強力で、検証に適したシステムを持っています」と、米ウィットマン大学でミゾホオズキを研究するアリエル・クーリー氏は述べる。氏は今回の研究に参加していない。

 ユアン氏は、この植物の扱いやすさを利用して、研究室でミゾホオズキ属(Mimulus属)のミムルス・レウィシイ(Mimulus lewisii)の遺伝子変異体を大量に作り出した。その中には、斑点が入った典型的なパターンとは違って、黄色とピンクの花弁の上に、均一に赤く、舌のような模様がひとつだけあるものがあった。

 先に登場したブラックマン氏も同じ頃、近縁種のミムルス・グッタトゥス(Mimulus guttatus)の突然変異体に、赤い舌のような模様を持つ野生の個体があることを見つけていた。こうした偶然も手伝って、ブラックマン氏とユアン氏は、ミゾホオズキの派手な模様の遺伝的要因を探るために力を合わせることを決めた。

色同士の争い

 ユアン氏とブラックマン氏のチームは、CRISPRなどの強力な遺伝子編集ツールを用いて、赤い舌を持つミゾホオズキを研究室で分析、再設計した。そしてとうとう「舌」に現れる赤い斑点模様の元になる2つのタンパク質分子を突き止めたのである。

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