ミゾホオズキの細胞が赤くなるためには、アントシアニンと呼ばれる色素が大量に必要だ。アントシアニンの生産プロセスは、ある遺伝子が「アクチベーター」と呼ばれる分子を生成することでスイッチが入る。アクチベーターは遺伝情報の発現を促したり抑制したりする「調節タンパク質」の一つで、花により多くのアクチベーターを作るよう促し、色素の定着も促進させる。このプロセスに歯止めがかからなければ、花の舌のように部分全体が赤くなる。

 ただアクチベーターは、自身を抑制する働きを持つ調節タンパク質「リプレッサー」を生産するきっかけにもなる。リプレッサー分子は、隣接する細胞に侵入してアクチベーターを遮断し、着色を防ぐ働きをする。最初の細胞から遠く離れた場所では、リプレッサーの量が少なくなり、アクチベーターが再び色素定着のスイッチを入れるため、花弁に新たな斑点が形成される。

 こうした分子同士の争いによって斑点が生まれるという、ミゾホオズキの模様の背後にある遺伝的な仕組みは、半世紀以上前にアラン・チューリングが提案した「反応拡散モデル」を完璧に体現するものだ。

 この意外なほど単純なシステムを機能させるのは、たった2種類の分子だ。そのどちらもが、色素形成のパターンを生み出すうえで重要な役割を果たしている。ミゾホオズキのアクチベーターに変異が起こると、斑点のない、地味な配色の花になる。リプレッサーに変異が起こると、過剰に赤い模様が一つだけある花になる。どちらも、植物にとってはあまりよいことではない。というのも、花にやって来て蜜を吸い、受粉をしてくれるはずのマルハナバチを混乱させてしまうからだ。

 ユアン氏、ブラックマン氏、クーリー氏は皆、自然界に存在するあらゆる視覚パターンを決定するうえで、反応拡散が少なくとも部分的な役割を果たしていると考えている。「間隔を開けて花を咲かせるツタや、体全体に現れる縞模様などは、反応拡散の好例でしょう」とクーリー氏は言う。ミゾホオズキに関する今回の発見は、ほかの生物に見られるパターンの謎解明を促進させることだろう。

ミゾホオズキの謎

「今回のモデルは単純なものですが、実際の生物のシステムは、もっと複雑です」と、ユアン氏は話す。「細かい部分は、それぞれ異なっているものです」

 たとえばミゾホオズキの斑点は、花びらの特定の部分にのみに現れ、ほかの場所には決して見られない。こうした斑点のない領域を研究することで、クーリー氏のチームは、斑点を特定の領域に制限している、また別のシステムの解明に取り組んでいる。

「人々ははるか昔から、ある現象を観察して考えるという行為を続けてきました。」とクーリー氏。「あまりに常軌を逸していて、合理的な説明などないように思われたとしても、研究を進めていくうちに、そこに根本的な原理があることが明らかになるのです」