2020年5月6日、英国南部のオーク(ナラ)の木の上で、コウノトリの卵がかえり、3羽のひなが生まれた。

 これは歴史的な瞬間だった。英国でコウノトリが繁殖するのは、前回記録されてからなんと604年ぶりのことだったからだ。ウェストサセックス州にあるここクネップ城地所では、2週間後にも近くの巣で3羽が誕生した。

「本当にワクワクする出来事でした。この瞬間を夢見てきて、ついにコウノトリがやってくれました。また英国でひなが生まれたのです!」と、シュバシコウ復活プロジェクト「White Stork Project」の専門家ティム・マックリル氏は話す。2016年に始まった同プロジェクトは、2030年までに英国南部で50組のシュバシコウのつがいを成立させることを目標にしている。

 シュバシコウは、ヨーロッパ中でとても愛されているコウノトリ。赤ちゃんを布に包んで運んでくるとされる、幸運と再生の象徴だ。赤いくちばしに白い体、長く赤い脚をもち、体高は90センチを超え、黒い翼を広げると2メートルにもなる。毎年春になると、越冬地であるケニアやウガンダ、さらには南の果ての南アフリカから飛来し、町や村の屋根に巣を作る。

 コウノトリが英国から消えた理由は、はっきりしていない。中世の晩餐会のメニューになっていたことから、食料として乱獲されたのかもしれない。600年にわたり不在だったにもかかわらず、コウノトリは民話や童話、パブやホテルの看板にと、英国で親しまれ続けてきた。このカリスマ的な鳥が復活したことで、自然回復に対する人々の関心が高まること、そしてほかの種でも再導入の道が開けることを、シュバシコウ復活プロジェクトは期待している。

 ひなたちの誕生は、COVID-19で暗いニュースが続くなかで人々の共感を呼んでいる。5月中旬、英国で自然豊かな地域への旅行制限が解除されると、自らの目でコウノトリを見ようと数百人がクネップを訪れた。

 ここ数日で、最初のひなたちは、巣立ちをした。両親が見守る中、地面に舞い降り、バッタを食べ、夜は近くの木で休んでいる。今後数週間のうちに、冒険心に溢れる若いコウノトリは、はるかに遠くまで飛べるようになり、おそらく親鳥について、しばしヨーロッパ大陸へと飛び立つだろう。

 ヨーロッパのコウノトリはここ数十年、厳しい状況に置かれている。餌となる両生類や小魚が生息する湿地が干上がったり、昆虫が殺虫剤で減ったりしているほか、この鳥自身が電線に衝突して命を落とすなどしている。一方でこれを相殺するように、フランスやイタリア、スペイン、オランダ、スイス、ポーランド、スウェーデンではコウノトリ再導入の取り組みが行われている。ヨーロッパ全体を見ると、コウノトリは絶滅の危機には陥っていない。

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