南米エクアドルはカカオの宝庫だ。全盛期の19世紀には世界最大の輸出国だったが、病害と世界市場の変化によって20世紀初頭にはその座を明け渡すことになった。しかし近年の農家の努力、持続可能性を重視する企業、さらにパンデミック前までのフードツーリズムの流行などのおかげで、現在、エクアドルのチョコレートがよみがえりつつある。

 エクアドルは今や、特定の地域や農園で生産されたカカオ豆だけを使った「シングルオリジン・チョコレート」でよく知られるようになっている。その生産には製品は時間も手間もかかるが、それを支えているのは、ほとんどが小規模な個人農家だ。新型コロナ感染症が世界規模で広がって、こういった小規模農家も打撃を受けやすくなっている。

 だが、カカオのサプライチェーンには団結力も回復力もある。エクアドルでは、民間や政府の活動によって、輸出支援や農家への資金援助が行われている。

 オーガニック・チョコレートを製造するパカリの共同創業者、サンティアゴ・ペラルタ氏は、「エクアドルは、シングルオリジン・チョコレートによって有名になりました」と話す。この会社は、エクアドル原産のカカオであるアリバ・ナシオナル種を守るために設立された。

「大規模生産者からカカオ豆を仕入れれば話は簡単になるでしょう。しかし、世界のカカオの遺伝資源の保存と活用に貢献しているのは、地元の先住民系の小規模農家です。私たちが求めているのは、種を保護し、品種について知ることです。風味について理解するだけでも、あと20年が必要なのです」

小規模農家と連携

 エクアドルの北西部に位置する小さな村サンタ・リタ。アマゾンの熱帯雨林ならでは植物がうっそうと生い茂る。その一つが、チョコレートの原料となるカカオの木だ。チョコレート製造のノウハウを知っている者にとっては「宝の山」だ。エクアドルはそのノウハウを少しずつ蓄積し、サンタ・リタでは最近、農家のカカオ栽培方法が大きく変わった。

「15年前は、誰もがエクアドルの上質なカカオは失われてしまったと考えていました」とペラルタ氏は話す。「農家は輸出用のカカオを大量に作って安く売っていました。つまり、単一栽培です。しかし、一帯を見ればわかるように、この土地は生物多様性に富んでおり、さまざまな在来作物の栽培に適しています」

 サンタ・リタの中心的な建物マロカで、村長のボリバル・アルバラド氏がグアユサ茶を出してくれた。グアユサはカフェインを含む植物で、アマゾンに暮らすエクアドルの人々に好まれている。パカリのチョコレートバーにも、グアユサの風味がほのかに香るものがある。アルバラド氏は、チャクラと呼ばれる森林農園も案内してくれた。なだらかな森を歩きながら、アマゾンの生活や在来種のカカオについて学ぶことができ、チョコレートもおすそ分けしてもらえる。

 ペラルタ氏はこう話す。「2002年に会社を始めたとき、私も妻のカーラも、農業に関わったこともなければ、知識もありませんでした。農家と一緒に学び、カカオ豆をうまく粉砕したり発酵させたりする装置を設計しました。生産方法によって風味が大きく変わってくることがよくわかり、質の高い製品を作れるようになりました」。パカリは、エクアドルで初めてカカオの木の栽培からチョコレート生産まで一貫して手がけるようになり、現在ではシングルオリジンのオーガニック・チョコレートなどを開発して高く評価されている。

 ほとんどの場合、シングルオリジン・チョコレートと呼ばれるものは、持続可能性やフェアトレードの代名詞だ。しかし、世界のカカオ生産国では、それが当てはまらないことも多い。チョコレートの原料生産地をたどれば、一つの国や地域、あるいは特定の農場にたどりつけるかもしれないが、農家は重労働の末に収穫した作物を安く売っている可能性がある。たとえフェアトレード認証を受けていたとしても、農家は最低限の収入しか得られない場合もある。市場の基本価格で売っていては、作物の品質改善や収穫量の拡大、多品種栽培に向けて投資を行う余裕はない。

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